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第三章 第五節 神として
19 もう一つの問題
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嵐のような昨日が過ぎ、凪のように16日目は始まった。
シャンタルは自室でマユリアとラーラ様と穏やかに話をしたり食事をしたりして過ごした。
ラーラ様は今まで見たことがないシャンタルの様子に、驚いたり喜んだり、そして涙を流したりしていたが、
「ああシャンタル……シャンタルがご成長になられる姿をおそばで見たかった……キリエとミーヤは見ていたのですよね?ずるいわ」
と、すねたりもして、それを見てまたシャンタルが、
「でもシャンタルが一番好きなのはラーラ様とマユリア、それではだめなの?」
と正直に言い、またラーラ様を泣かせてしまっていた。
「本当になんと賢くお可愛らしく成長なさったのでしょうね。わたくしもその部分は少し、すこーしだけキリエとミーヤにヤキモチを焼かずにはおられません」
マユリアはそう言いながらも感謝の表情だけを浮かべる。
午後、マユリアが客室にトーヤ、ミーヤ、ダル、リルを呼ぶ。
「みんな、よくがんばってくれましたね。お礼を申します」
立ち上がりそう言って頭を下げるのにトーヤ以外の3人が慌てる。
何があろうともどうあろうともマユリアに頭を下げさせるなどやってはいけない、ありえないことだ。この国の国民ならば骨の髄まで染み込んでいる。
「どうぞ頭をお上げください!」
「お願いです、どうぞ」
「はい、俺、そんなのどうしていいか……」
3人が困り果ててうろたえる横でトーヤだけはいつもの様子で、
「まあ、こいつらもこう言ってるし頭上げてやれよ。なんか話があるんだろ?」
と、腕組みしながら偉そうに言う。
トーヤのこんな態度はいつものことではあるが、さすがにこの状態に3人が思わず睨む。
「な、なんだよ」
「本当にトーヤは楽しい」
そう言って笑いながらマユリアが頭を上げる。
「そうですね、話をするのに困るというのなら座ってください」
そう言って一段高い場所にあるソファに腰を下ろし、4人にも椅子を勧めた。
4人も座り話をする体制が整う。
「では、これからのことを話しましょう」
「これからのことって、後は本番待つだけじゃねえのか?」
「それはそうですが、それだけで終わりではないので」
「まあそうか。あいつをどこ連れて行くとか、なんやかんやあるわな」
「そういうことです」
もうリルも事情をあらまし知ってはいるが、そのために自分の父がシャンタルとトーヤの手形を出したこと、西の端の港からオーサ商会とつながりのある船に乗って「アルディナの神域」まで渡ること、などは知らなかった。
「では、父がその手形を用意したということなのですね」
「ええ、大変お世話になっております」
マユリアにそう言われ、むず痒そうな顔になる。
「それでな、キノスから向こうは陸路で行こうと思うんだ」
「なぜですか?」
「そのへんの船に適当に乗ってその上でバレてみろ、逃げようがねえだろう」
「ああ、なるほど、そういうことですか。陸路で最後の港まではどのぐらいかかるのでしょうね」
「聞いたところによると途中の宿で泊まりながら十日ばかりはかかるみたいだな。あくまで聞いた話だが。そこから外海に出る船に乗っちまえば、後はまあ色んな人間がいるからなんとかごまかせるだろう。もしも怪しむ人間がいても手形には……って、あっ!!」
いきなりトーヤが大きな声を出し、ミーヤたちがビクッとする。
「大きな声、驚くでしょう」
またミーヤに怒られる。
「いや、大切なことを思い出した……マユリア、あいつ、『あのこと』知ってるのか?」
「あのこと、とは?」
マユリアが何のことか分からないように尋ねる。
「あのことだよ、あいつ、本当は……」
言われてもまだ何のことか分からないようで美しく首を傾けてトーヤを見る。
「わっかんねえかなあ……あのな、リルの親父さんに頼んだ手形な、あれもらう時にいざって時に疑われにくくなるようにな」
「ああっ、そうだった!」
横からダルが大きな声を出す。
「な、思い出しただろ?」
「うん」
女性3人は何のことか分からないようだ。
「だからな、あいつ、シャンタルな、あいつ本当は、な?」
「ああ」
思い出したようにマユリアが言う。
「知ってるのか?」
「いえ、ご存知ないと思います。ミーヤ、そのようなお話は?」
「あ……」
そこまで言われてやっとミーヤが思い出す。
「何、何の話なの?」
リルだけが分からない。
「あの、あのね、リル……驚かないで聞いてほしいのだけれど……」
ミーヤが口ごもるように言う。
「あれだけのことを知ってしまったのだもの、今更大抵のことでは驚かないわ」
そう言ってからマユリアに尋ねる。
「一体、何があるのでしょうか」
言われてマユリアが少しだけ困った顔をする。どうにも言いにくい、という感じだ。
「あのな」
トーヤがリルに向かって言う。
「信じられねえと思うけどな、あいつな、シャンタル、男なんだよ」
「え?」
リルの頭にはトーヤの言葉が入ってこない。
あまりに想像を超える単語を脳が拒否してるかのように。
「え?」
「いや、だからな、あいつ男なんだよ」
「え?え?え?」
どうやら昨日からの出来事で限界を超えてしまったらしく、そう言うとリルはミーヤの方に体を預けるようにして気を失ってしまった。
シャンタルは自室でマユリアとラーラ様と穏やかに話をしたり食事をしたりして過ごした。
ラーラ様は今まで見たことがないシャンタルの様子に、驚いたり喜んだり、そして涙を流したりしていたが、
「ああシャンタル……シャンタルがご成長になられる姿をおそばで見たかった……キリエとミーヤは見ていたのですよね?ずるいわ」
と、すねたりもして、それを見てまたシャンタルが、
「でもシャンタルが一番好きなのはラーラ様とマユリア、それではだめなの?」
と正直に言い、またラーラ様を泣かせてしまっていた。
「本当になんと賢くお可愛らしく成長なさったのでしょうね。わたくしもその部分は少し、すこーしだけキリエとミーヤにヤキモチを焼かずにはおられません」
マユリアはそう言いながらも感謝の表情だけを浮かべる。
午後、マユリアが客室にトーヤ、ミーヤ、ダル、リルを呼ぶ。
「みんな、よくがんばってくれましたね。お礼を申します」
立ち上がりそう言って頭を下げるのにトーヤ以外の3人が慌てる。
何があろうともどうあろうともマユリアに頭を下げさせるなどやってはいけない、ありえないことだ。この国の国民ならば骨の髄まで染み込んでいる。
「どうぞ頭をお上げください!」
「お願いです、どうぞ」
「はい、俺、そんなのどうしていいか……」
3人が困り果ててうろたえる横でトーヤだけはいつもの様子で、
「まあ、こいつらもこう言ってるし頭上げてやれよ。なんか話があるんだろ?」
と、腕組みしながら偉そうに言う。
トーヤのこんな態度はいつものことではあるが、さすがにこの状態に3人が思わず睨む。
「な、なんだよ」
「本当にトーヤは楽しい」
そう言って笑いながらマユリアが頭を上げる。
「そうですね、話をするのに困るというのなら座ってください」
そう言って一段高い場所にあるソファに腰を下ろし、4人にも椅子を勧めた。
4人も座り話をする体制が整う。
「では、これからのことを話しましょう」
「これからのことって、後は本番待つだけじゃねえのか?」
「それはそうですが、それだけで終わりではないので」
「まあそうか。あいつをどこ連れて行くとか、なんやかんやあるわな」
「そういうことです」
もうリルも事情をあらまし知ってはいるが、そのために自分の父がシャンタルとトーヤの手形を出したこと、西の端の港からオーサ商会とつながりのある船に乗って「アルディナの神域」まで渡ること、などは知らなかった。
「では、父がその手形を用意したということなのですね」
「ええ、大変お世話になっております」
マユリアにそう言われ、むず痒そうな顔になる。
「それでな、キノスから向こうは陸路で行こうと思うんだ」
「なぜですか?」
「そのへんの船に適当に乗ってその上でバレてみろ、逃げようがねえだろう」
「ああ、なるほど、そういうことですか。陸路で最後の港まではどのぐらいかかるのでしょうね」
「聞いたところによると途中の宿で泊まりながら十日ばかりはかかるみたいだな。あくまで聞いた話だが。そこから外海に出る船に乗っちまえば、後はまあ色んな人間がいるからなんとかごまかせるだろう。もしも怪しむ人間がいても手形には……って、あっ!!」
いきなりトーヤが大きな声を出し、ミーヤたちがビクッとする。
「大きな声、驚くでしょう」
またミーヤに怒られる。
「いや、大切なことを思い出した……マユリア、あいつ、『あのこと』知ってるのか?」
「あのこと、とは?」
マユリアが何のことか分からないように尋ねる。
「あのことだよ、あいつ、本当は……」
言われてもまだ何のことか分からないようで美しく首を傾けてトーヤを見る。
「わっかんねえかなあ……あのな、リルの親父さんに頼んだ手形な、あれもらう時にいざって時に疑われにくくなるようにな」
「ああっ、そうだった!」
横からダルが大きな声を出す。
「な、思い出しただろ?」
「うん」
女性3人は何のことか分からないようだ。
「だからな、あいつ、シャンタルな、あいつ本当は、な?」
「ああ」
思い出したようにマユリアが言う。
「知ってるのか?」
「いえ、ご存知ないと思います。ミーヤ、そのようなお話は?」
「あ……」
そこまで言われてやっとミーヤが思い出す。
「何、何の話なの?」
リルだけが分からない。
「あの、あのね、リル……驚かないで聞いてほしいのだけれど……」
ミーヤが口ごもるように言う。
「あれだけのことを知ってしまったのだもの、今更大抵のことでは驚かないわ」
そう言ってからマユリアに尋ねる。
「一体、何があるのでしょうか」
言われてマユリアが少しだけ困った顔をする。どうにも言いにくい、という感じだ。
「あのな」
トーヤがリルに向かって言う。
「信じられねえと思うけどな、あいつな、シャンタル、男なんだよ」
「え?」
リルの頭にはトーヤの言葉が入ってこない。
あまりに想像を超える単語を脳が拒否してるかのように。
「え?」
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