怪異脱出劇

マカロン

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「なっ…!親父、なんで話したんだよ!」
桜倉くんのお父様は、すまんすまん、と頭をかきながら明るい口調で理由を話し始めます。
「仕方ないだろう?帰ったら見知らぬお嬢さんがいて、聞けば多久のお客さんだというじゃないか。女っ気ひとつないお前のことだ、なにかに巻き込まれたんだろうな、と当たりをつけてここまでの来歴を尋ねたんだ。
そしたら、少し前に爺さんがにやにやして見てた2ちゃんねる掲示板のきさらぎ駅を思い出してね。書き込んだのがお前らだと聞いて、やっと繋がったよ。爺さんに聞いても、まぁもう少し大丈夫じゃろ、人生はガッツじゃ、としか言わなかったからなぁ。
で、お嬢さん……藤川さん、であってますかね?あぁ、よかった。この藤川さんの話にはおかしなことに関係もジャンルも違う怪異がごろごろでてくるし、これは誰か異界の主がいるな、そいつが怪異たちを呼び込んだなと……。
それで流れで、えぇ?元夫?病気で急死?異界に幽霊みたいにいた?あぁ~異界の主そいつですよ、あとたぶん病死じゃなくて殺されてます、ドラマなら犯人は巻き込まれた人のなかにいますよね~と、こんな感じで話したら、衝撃が強かったらしくてな。ダッシュでお前の元向かったよ。」
「衝撃つえェに決まってんだろ⁉なに世間話のノリで言ってんの⁉軽率すぎだ!あとくそジジイ、何にやにやして様子見してんだ!」
「お前の成長のためじゃ。」
「おじい……いや助けてくれよ。」
 桜倉くんの不満はごもっともです。放任にもほどがあると、私でも思いました。
「ほんとだよなぁ。俺も若い頃苦労したよ。ほんとにギリギリでも助けてくれなかったからなぁ。」
「おまえを見込んでのことじゃ。」
「うっそだぁ。げらげらこっち指差して笑ってたくせに~。」
「気のせいじゃろ。ほれ、こんな脱線した話しはやめじゃ。ゆきこさんやらをどうするかが先じゃろう。服装を見るに、彼女は時代が違うんじゃろ?」
我が身に起きていることが未だに信じられませんが、私は未来の発展した土地に降り立ってしまったとのことです。
「……もちろん、元の時代に戻してやりてぇ。でも、どうしたらいいか…。」
「ホントに帰したいのか?おまえのとこに永久就職でも父さん構わんぞ?」
「こんなときにふざけんなよ……。そんなことより、帰り方だ。どうしたら……。」
「……帰り方ならある。もう一度あの異界に行って、反対側のエレベーターに乗るんだ。一度その異界と縁を繋げたなら、十中八九同じ異界に降り立つだろう。」
「なっ……!また危険な目に合わせるつもりかくそ親父!なんでまたそんなこと言い出したんだよ!?」
「ゆきこさんの話を聞いてて考え付いた父さんの予想だが、恐らく現代のものがある方のエレベーターはこちら側に、ゆきこさんの時代のものがある方のエレベーターはゆきこさんの時代に繋がっているんだろう。
幸いというか、不幸というべきか、決して交わるはずのない二つの時代のものが同時に異界に現れたのは、巻き込まれた人間の…ゆきこさんと多久、お前の影響だ。
現れた物や怪異たちがそれを物語っている。あちらの怪異たちは異界に引き込んだ人間に恐ろしい影響を及ぼすが、人間もまた、彼らにかすかな影響を与えるんだ。
つまり、ゆきこさんを帰したいならば、一度あの異界へ行き、反対側のエレベーターに乗せて、あちらの時代についたらお前は一歩も外に出ずに別れを告げてまた異界に戻って今度は現代の方のエレベーターに乗ってくるっていうミッションをクリアしないと行けない。」
「ややこしいな⁉いや、ちょっとまて。他の方法はないのかよ⁉それに、由紀子さんの時代にエレベーターがないから、降りた瞬間、エレベーター消えて帰れなくなるかもっていう可能性を危惧してんのはわかるけどさ、ならボタンの順番教えるだけじゃダメなのか?」
 たしかに、私が押す順番さえ覚えておけば、桜倉くんは私をエレベーターに送った後そのままとんぼ返り出来ます。
「お前はそれでも男か!おなご一人で心細いことこの上ないじゃろ!男を見せろ多久!せっかくの女っ気じゃぞ!死んでも守りきれ!」
「だから誤解だって……!つかおじいより先に死にたくねぇんだけど⁉おじいと親父がついてくんのはダメなの⁉」
「あぁ~それも一手だけどな。正直、したくないんだ。」
「えっ、なんで?かわいい息子のためだぜ?」
「お前図々しく育ったな……。いや、前に父さんも似たような状況で助けようとした人がいてな。異界に残しちまったけど、一人で戻るのも怖くて、おじいに頼み込んで連れてったんだよ。そしたら、なんか全然違う異界に繋がっちまって……なんか、モンハンみたいな世界だった。ドラゴンいてさ。
そのあと腹括って、一人でもう一度儀式したんだ。そしたら繋がって助けられたけどな。それが母さんとの出会いだ。
ってことで、第三者を異界への道を通らせると縁が切れやすいみたいなんだ。」
「へぇ……は⁉母さんとの馴れ初め初めて聞いたんだけど⁉なんでこんな陰陽師とか自称してる怪しいやつと結婚したのかって思ってたけど、どうりで……!親父に命救われてたから信じれたのか母さん……⁉てか、縁切れるってマジかよ……他にいまのところ方法ねぇしな……。」
別の異界、とはどのような場所かはわかりませんが、帰り道がないのにまたあの恐ろしい物の怪のような者がいるところに行くなど、死ぬようなものでしょうから、やはり二人で慎重に乗りきるしかないのでしょうか。
「まぁ、まだ祓い屋の仕事さえしたことがないお前を危険なところへ行かせるのは爺としても忍びないからのう、別の方法を提示してやろう。お前の父親が先ほど言った、お前が由紀子さんを娶る方法じゃ。そしたら危険を冒して帰す必要がなくなるぞい?」
「おっと爺さん、孫に飽きたらず、ひ孫も見たいってか?欲張りだなぁ。」
「は⁉この老害までなにいってんの⁉」
「これも一つの手じゃろうて。ゆきこさんの時代はおなごは嫁入りして男の家に住み着くものじゃし、未亡人なら問題なかろう?」
まぁ、ゆきこさんが多久を気に入ればじゃが、と桜倉くんのお祖父様は言い、私をじっと見つめました。危険を省みれば、その方がたしかに良いのでしょう。しかし。
「ごめんなさい、桜倉くん。私には、大切な家族と生徒たちがいるの。」
育てて、愛してくれた家族。慕ってくれる女学校の生徒たち。お世話になり、これからは私が支えていくべき彼らを、残すなどできはしません。まだ恩を、愛情を返しきれてはいないのです。
「それに、危険を冒させてしまうのは申し訳ないから、エレベーターのボタンの順番さえ教えてもらえれば一人で行くわ。
異界で、したいこともあるの。
健治様が死んでも私を守ろうとしてくれていて、話す機会があるのなら。これまでの感謝と、別れを告げたい。……そして、羽隅くんに会って、本当に下手人が彼なのか、確認したいのよ。」
「なっ……⁉たしかに、予想の範囲内だけどよ、もし本当に羽隅さんが殺人鬼だったら……っ!」
「それでも、いままでたくさん思い出を紡いできたの。私は、彼の口から真実を知りたいわ。」
「由紀子さん……。」
 病気でなく殺されたのなら、健治様の無念はよほどのものです。もっとたくさん話をして、笑いあって、ありがとうを伝えておけば良かった。そう、未だに後悔をしています。
 きっと、真実を知っても、健治さまが亡くなった事実は変わりません。心の奥では、わかっているのです。ただ傷つくだけなのだと。しかし、親しい人を疑いたくなかった。羽隅くんをまだ、信じていたかったのです。……真実が、いくら残酷だろうと。
「ふられたぞい!ふられたぞい!あとで陰陽師ネットワークでネタにしてやろーっと!」
「多久、そう落ち込むな。きっとまたいい出会いがある。」
 私の言葉に、桜倉くんは目を見開き固まりました。私の様子から、私の心情をも察しているような、そんな複雑な表情を浮かべていました。
その様子を、家族のお二人はわかってやっているのか、場を和らげるためか、茶化し、案の定桜倉くんは文句をいいました。
「いやうるせぇ!落ち込んでねぇよ感動してんだよ!つかくそジジイ!告白してもねぇのになに言いふらそうとしてんだ!陰陽師ネットワークってなんだよ⁉」
 ぜぇ、はぁ、と思いきり吠えたようで息切れを起こしております。しかしそのまま私へ向き直り、今度は私に怒鳴るように吠えました。
「あと由紀子さん!あんたのその度胸と覚悟、好きだ!胸にジーんときた!死んだ亭主に別れを告げてぇなら付き合う!真実を突き止めてぇなら協力する!亭主の霊は悪い怪異じゃねぇみてぇだし、脱出の目処はたってるしな!万が一のときは全力で守る!俺も男の端くれだ。ぜってぇ無事帰すから、俺から離れんなよ!」
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