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本編

14.錬金術

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「律花~·······宿題見せて?」
「···自分でやれ」

そう言うとぶーぶー言ってくる千秋の額をペシッと叩く。
痛っ、と額を抑える千秋は懲りないのか···毎度お馴染みの光景だ。一瞬で瞳を潤つかせるのは流石主人公と言ったところか···そのままだとお前が悪役令息みたいだぞ?

この5年放っておいたせいか、千秋は俺にめちゃくちゃ甘えただ。
5年分を取り戻しているのかと思うとついつい俺も甘やかしてしまう訳だが、それは千秋の為にもならないだろう。だからこそ宿題くらいは自分でやれと言う。


と、言うのは建前であって千秋は俺の唯一の癒しだからつい断れないのだ。
家では兄貴に、学校じゃ先輩や霧ヶ谷さんに、今は里帰りしてるけど楼透だってまだ分かったもんじゃない。生徒会長は平等に扱ってくれるし心配してないけど、俺の貞操の危機はまだ去ったとは言えないのだ。

千秋に癒しを求めるくらい良いだろう!
攻略対象でなくモブキャラでもない、俺が唯一心を許せる大切な友人だ。


「そう言えばさぁ···」
「なんだ?」
「部長と仲直りしたってほんと?」

あぁ、そうか···千秋も同じ部活だったな。

学園にはかなりの数の部活動が存在する。
その一つが生物魔法部だ。
現在の活動人数は部長の霧ヶ谷さんと千秋、その他に高等科の二部生が一人と中等科の三部生が二人の五人で活動していると聞いた。まぁ、五人以下だと同好会になって生徒会から活動費が降りないらしいから毎年の新入生勧誘の壮絶なバトルに参加しないといけないと千秋がボヤいていた。

千秋は中等科一部から所属している為、霧ヶ谷さんから千秋への想いはその間に深くなっていったらしい。

「あぁ、お前にも心配かけたな」
「ううん。そんなことないよ」

ぐりぐりと頭を撫でてやるとすり~っと俺の手に頬を寄せる。
全く、いつから猫耳生やしやがったこんにゃろっ。
幻聴か鈴の音も聞こえる気がする。



昨日、霧ヶ谷さんとバッタリ会ってしまった。
一応先輩にも話を聞いてやってくれと言われていたし、俺も逃げてばっかじゃ駄目だと思って俺の方から話しかけた。

霧ヶ谷さんは初めからオドオドビクビクしてて、口調も丁寧な繊細な人で、俺はそのギャップに毒気を抜かれたと言う方が正しい。


話をしているうちに、千秋への強い想いが伝わってきた。
霧ヶ谷さんはそんな性格ながら譲るつもりは無いと宣戦布告しようとしたらしい。
しかし例の甘い匂いに体を乗っ取られたように、意識とは真逆の俺を襲うと言う強行に及んでしまったことを後悔していた。

元々顔色の悪いイメージだったが、あれから一層頬も痩せ、目の下の隈も濃くなっていてバッタリ会った時に今にも倒れそうな程だった。

まぁ、俺の顔を見てより一層顔色が悪くなってたし、霧ヶ谷さんも少なからずは悪い事をしたと言う自覚があったようだ。俺としては多少強引でも、自分から謝りに来てくれた厳島先輩の方が好感は良い。しかし···聞いた話では後から兄貴に脅されて、謝りに行くにも行けなかったと言っていた。その時の青褪め様が一番顔色が悪かったかもしれない。一体、兄貴は自分のことを棚に上げて先輩達に何を言ったんだ·······。

厳島先輩にも条件を出した手前、後悔も反省もしてる霧ヶ谷さんにも条件を出さない訳にはいかない。俺は先輩と同じように、慰謝料と今後一切俺に近づかないと言う約束をお願いした。


················訳だが、、。




「千秋、あまり彼を困らせてはいけない·······」
「部長、おかえりなさいっ。会議はもう終わったんですか?」
「···うん。大分予算は少なくなった·······けど、大丈夫」

生気のない精一杯の笑顔。
·······大方、負けて運動部の方に回されたんだろう。

「お疲れ様です」
「ごめん···折角来てくれたのに」


何を隠そう俺は今、その生物魔法部の部室で千秋に宿題を教えてやっていたのだ。···これは不可抗力であって別に霧ヶ谷さんから近づいた訳でなく、俺の意思で来たのだから条件外だ。

霧ヶ谷さんとも約束を交わした時に、慰謝料の話になって先月に錬金術で使う道具を新調したらしく今現在自分が動かせる金が厳島先輩より少ないと言った霧ヶ谷さんは慰謝料の半分に技術の提供を申し出てきた。俺としては相場も分からない適当で、致し方なくの慰謝料だった訳で、俺の意思としてはまぁ多く見積って20万ドール···日本円で200万円くらい?(え、高すぎる??)を想定していた。まぁ、少ないならそれで誠意を見せてくれれば別に構わないとも思っていたのだが、ポーションも作ってみたいと思っていたし、いつかは錬金術も勉強しようと考えていた俺はその提案に乗ることにしたんだ。

場所を貸してもらう以上、部活動の部長として霧ヶ谷さんがいる以上俺が錬金術に慣れるまでは会ってしまうのは仕方がない。




「これ······使って」


そう言って手渡される錬金道具一式。

霧ヶ谷さんに教えられたのは、
・道具は丁寧に扱う
・材料は下処理が大事
・とりあえず積み重ね
と、言う何とも曖昧な3項目。


·······一応、初級ポーションの作り方なら覚えてるけど。
ゲームの中の話だったし上手く出来るかどうか······。


さらに渡された初級のレシピだと言う紙の束。
それにプラスして中級と上級のレシピが粗方載った本を貰った。
·······ん?待てよ、これって──。


「········霧ヶ谷さん···これ」
「あぁ·······それ安かったけど良かったら使って·······」

そう言う霧ヶ谷さんだが、待て待て待て待て!?
貰った本のうちの一冊·······。
薄くホコリを被ったような、なかなかに古い感じの羊皮紙。この表紙はなんか見た事あると思って思い出した。これ錬金術の成功確率&精製した物の性能+10%にするブーストアイテムだよな·······?この本を傍において錬金術を使えばいいってやつ。確か金額にすると25ドール大金貨は降らない。いや多分それ以上は確実にいく価格の筈だ。

25万ドール=250万円の本を安かったって·······。
いったい俺への慰謝料いくらになるんだよ···。

まぁ、錬金術初心者の俺としては有難いか。霧ヶ谷さんだって良ければって言ってるし貰っておいて損はないと思おう!


「じゃあ、遠慮なく頂きます」
「うん。それ、行きつけの骨董屋で見つけた·······他にも色々あったよ。オレのお古で良かったら、その道具も貰って」


そう薄幸に笑いかけられると断るに断れない。
いや、俺には断る理由がない!
···代償が俺の純潔だと思うとかなりデカい代償ではあったが。よし、これも有難く貰おう!

霧ヶ谷さんのお古だというその道具は多少傷や汚れはあるものの、新品とも見間違える程綺麗だった。これが道具は丁寧に扱うって事なんだな。

乳鉢、乳棒、メス、ピンセット、ビーカー、三角フラスコ、アルコールランプ·······なんか理科の実験道具みたいじゃないか?霧ヶ谷さん曰く、これは初級セットだそうだ。基本はこれだけあれば初級は余裕だと言った。

採集って、切って、潰して、熱して···。
出来たものに魔力注いで液状化したり、固形化させたり、上級になると蒸発させたり気体化させて利用することもある。

んーむ。成程、なかなか興味深いですな···。

自分で言うのもなんだが、細かい作業が別に苦手ではない俺は結構面白そうだと思った。···レシピもちょっと工夫すれば時短出来るかも。パラパラとレシピの束を見る内に考える。


「·······気に入った?」
「あ、···はい。結構面白そうだな、と」
「···なら、良かった」

やはり攻略対象なだけあって、生気の抜けた顔だと言うのにかなりの美形だ。·······これで二重人格じゃなければ可愛げがあるってもんだ。




昼休みに霧ヶ谷さんとの関係·······関係と言うか成り行きと言うかを先輩に問い詰められた時は正直ビビった。いや、俺悪いことしてないのよ?でもあの凛々しい顔での尋問は精神的にキツいものがあってだな·······。

まぁ、カクカクシカジカで今日の放課後に錬金術教えて貰いに行ってきます!!(敬礼)って言ったら渋々引き下がってくれた···けどなんか怖かったな。
まさかあの先輩ですらヤンデレに!??
·········そんなことにならない事を切に願う。



「あっ!僕、これ作ろ~」
「うわっ、、千秋···脅かすなよ」

横から俺が貰ったレシピを覗いた千秋は「ごめーん(てれぺろ)」と言って自分の錬金道具を取り出した。···おい、それレシピ泥棒と違うか?とも思ったがどうやら初級レシピは量産品用らしく、千秋も同じ束を持っていた。まぁ初級レシピまでレアなものだったら俺の貞操高すぎないか??って感じだろ。普通のレシピで安心した。

初級は初級ポーションと解毒薬各種、それにアクセサリー類も錬金出来るようだ。······何々、これ使えそうじゃないか?色ガラスの欠片と聖水と銀鉱石で能力上げのリング!!欠片に込めた魔力適正の魔法によって、ランダムに上がる能力が変わると······なんか凄いの作れそ!


「·······作るの、決まった?」
「はい!これとか作ってみたいなって」
「それ初級でも結構難しい···。少し慣れてからがいい」
「はは、だと思いました。最初のうちはこれを作るのを目標にして頑張ります」


それに材料集めるのも大変そうだ。
来週、授業でギルド登録するから終わったら少しずつ材料集めてみるかな。
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