悪役令息(?)に転生したけど攻略対象のイケメンたちに××されるって嘘でしょ!?

望百千もち

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本編

50.想定外

「······っ」



誰かの声が聞こえた気がした。
ふわりと俺の前髪をかき上げる風が冷たくて気持ちいい。
あぁ、そうか。俺は─。

目を瞑ったまま、最後に見た景色が鮮明に蘇った。
あの後どうなったんだろうか。延々と燃えていた炎の壁はコクヨウの手によって時間を止めていた。楼透を助ける術があると、言われるがままあの気掛かりな装飾の首輪を楼透の首に装着してしまったが······。
多分あの後俺は気絶してしまったんだろう、その後の記憶が無い。


「······まだ寝ていろ、美園邸は遠い」

「うん··········ん?」

「良い子だな」


聞こえる事の無い筈の声に思わず驚き目を開けた。
眼前に凄まじく整った男らしい顔。
そして俺の背もたれになって“空を飛ぶ”体格の良い男が一人······。

「······空、飛んでる?」
「お前の兄から頼まれてな。不死鳥フェニックスを借りた」
「ふぇ、······ふぇに──」


さて、ここで俺が再び気を失ったのは言うまでもない。








──────────────────────────




そして次に目を開けた時には見慣れた天井。
さらに触れなれたシーツの肌触りは俺のベッドの物だ。
······ここは別邸の方か。7歳から移り住んでいるこの家、人生の半分を過ごしているここは一週間前まで俺と兄とそして······両親と大切な思い出を過ごした場所。


「目が覚めたか」
「······先輩?」
「··············兄の方でなくて悪かったな」
「···怒ってます?」
「······いや」
「······拗ねてるんですか」

今度は無言だ、つまりは肯定という事だろう。
入口扉側の壁に背を預け手にしていた本を閉じながら答える姿は流石は攻略対象者、俺に対して言っていることはともかく姿だけは様になっている。
と言うか何故先輩に拗ねられなくてはならないのか。

「···大人気ないとは分かっている。美園家の事情であるし、他人である俺に知らされる事の無い話であるのも理解はしている。······だが、事情を聞いて心配もしたし後悔もした」
「後悔···?」
「お前が危険に晒されるなら俺が代わりに─いやいっその事お前が危険な事に関わらないように監視するなり、行動を制限するなり方法が」
「んなもん要らんわ!!」

兄貴のヤンデレルート回避したかと思えばあんたもか!
瞳に暗い影を落とした先輩の様子に俺の頬に冷たい汗が流れた。

「あぁ、流石に俺もそこまでする気は無い。お前は制約に縛られるよりも、自由に振舞っていた方が愛らし──いや何でもない。兎に角俺もお前が危険な目にあったと聞いて心配していたんだ······」

··············取り敢えず前言はスルーしよう。





要約するならば“いくら他人でも俺だけ知らなかったのは不愉快だ”って事か?
確かに先輩には連絡していなかったし、寧ろ必要ないと思っていたから──。

「···こちらこそ心配をお掛けしてすみません。俺自身まさかこんなに大事になるとは思ってなくて」

本当にまさかの事態だったからな。
楼透の秘密や蓮家の伝承、振り返れば色々あった。
······あれ、ちょっと待って。そう言えばあれからどうなったんだ?楼透はどうなったんだ?怪我は?無事なのか?聞きたいことが多すぎて、混乱しかけた俺に先輩は告げる。

「いや、俺の器量が欠けていただけのことだ。疲れただろう、俺としてはゆっくり休め···と言ってやりたい所だが、兄の方が律花が目覚めたら執務室へ来いと言っていた」


···俺の額からいやーな汗が伝った。
あれだけ他家の事情に首を突っ込んで、邸庭の小屋を全焼させた挙句、呪いだか何だかを解呪しようとして子息でもある楼透に現在の安否は分からないが大怪我負わせて······ヤバい。上げても上げてもキリがない。
先輩に礼を言いベッドから起き上がると介助を申し出た先輩に断りを入れ、焦りながら執務室へ向かった。

どう言い訳するか、いや俺の低レベルな頭脳じゃ言い訳した所でボロが出て繕いきれないだろうからな。ここは正直に罪を認めて、お叱りを最小限に抑えることを目標にしよう。

そんな事を考えている間にいつの間にか執務室の前に着いてしまった。
呼吸を整えてから、軽く扉を数回ノックすれば中からは兄貴の······やけに明るい声が響く。
これは機嫌が良いんじゃない。悪い時の声色だ。


「入って」


凛とした聞き取りやすい中低音。
俺は意を決して、扉を開くと勢い良く執務室の床へスライディング土下座を──しようとジャンプした所で俺の行動を予知したのか瞬間移動の如き動きで移動した兄の大きく広げた腕によってガッシリと抱きとめられてしまった。

「何してるの」
「·····ごめん」

類稀な美貌が眼前にあった。
その美貌の持ち主である兄貴の目は完全に座っている。
俺はさらに兄貴の琴線に触れてしまったようだ。

「その······」
「そんな身体でなんて事をしてるの」
「······は?」
「理解してないみたいだね···」

しどろもどろする俺に呆れた様子の兄貴は俺を抱え直すと、執務室のソファに座った。···いくら兄貴とは言えど俺を抱き抱えたままなんて重くないのだろうか。

「肋骨二本にヒビ、右手人差し指と中指の第一第二関節の粉砕骨折。右腕上腕部の脱臼、全身軽度打撲、数十箇所の擦り傷切り傷······極めつけに過度な魔力消費──誰がこれだけ大怪我して来いって言った?」


先程までの険しい表情は何処へ行ったのか、端正な顔を今にも泣き出しそうな程に歪めて兄は俺にそう言った。真っ直ぐに俺の目を見た後、俺の肩に顔を擦り寄せる。その不安げな吐息が、心配を掛けてしまったと言う現状が、痛いほど身に染みる。

「ッっあぅっ、ひぐッっうわぁあっ~ん!!」



あの時の恐怖を思い出してか目の前の兄の姿に安心したのか、恥ずかしい事に自分から兄貴に縋って大泣きした。俺から抱きついた事に嬉しそうな困惑したような様子の兄は俺が泣き止むまで背中を摩り、頭を撫で、終始慰めの声を掛けてくれた。

が、いくらあの時の恐怖を思い出したとは言え、前世含めて35年余りの人生を過ごしたいい大人が恥ずかしげもなく大泣きすると言う醜態を晒してしまった事に俺は暫くは立ち直れそうもない。心持ちと、行動が一致しない···まるで中身も子供になっているようだ。


「······と、にかく。ごめん···なさい·······」
「もう危険な事はしないで。僕が守れる時は必ず律花を守ると誓う。でも、今回のように僕の目の届かない所で律花に何かあったらと思うと、僕は辛くて仕方がないよ」

まだ嗚咽を漏らしながらの俺は必死に頷いた。
震える俺の頬を伝う涙を兄は優しく指の腹で拭う。
よしよし、と頭を撫でられると不思議と涙が止まらなかった。






「律花が発見された時の事だけどね──」

ようやく嗚咽が落ち着いた俺はローテーブルにあったちり紙を引き寄せて鼻をかみ、涙を拭きながら(拭いてもらいながら)兄貴の話を聞く。淡々とそれでもゆっくりあの後に何があったのか教えてくれた。

あの後──俺が気絶した後──禅羽さんが駆けつけた。鎮火された小屋の中で倒れている俺と楼透を見つけたらしい。そして急いで蓮本家に運び込むと応急処置を施して兄貴に連絡をした。
それを厳島の領地で伯父様から引き継ぎ後の仕事の手解きを受けながら聞いた兄貴は直ぐに自身で蓮領地に向かおうとしたが仕事のキリが悪かった。器用な兄とは言え初めて関わった仕事で対応が遅れたらしい、仕方なく共にいた先輩に先に俺を連れ戻す事をお願いした。
“不死鳥”─兄はフェニと呼んでいる─に乗って行く方が早いと言う事で先輩がフェニに乗って俺を迎えに来た。なお、フェニは不死鳥で炎を纏う鳥だが兄の任意無ければ炎は見た目だけで人体や周りの環境に影響しない。迎えに来てくれた(勝手に抱き抱え、連れ帰られた)際は空気抵抗を先輩が魔法で無効化してくれていたらしい。
これが俺が連れ帰られた経緯。

蓮家や楼透に関する話としては蓮家の呪いについて、蓮家の御隠居様は『解呪』されたと喜んでいたらしい。喜んでいた、と言うよりも狂喜乱舞と言った様子で兄曰く魔道具越しに蓮家一同の様々な声が聞こえてきたと言う。
案の定魔道具越しでは詳しい話を聞けず、楼透、禅羽さんの処遇は明日蓮家当主夫妻と共にこちらへ着いた際に話し合うとの事。その際の話し合いで今後どうするか、従者の任から降りるのか、蓮家当主様からは二人の処遇は任せると言う事だった。
それを聞いて楼透が無事であるという事実に安心した。

問題の学業だが明日から登校と言う事で、体調が優れなければ早退しても良いと言う事になっている。なお、明日は蓮家との話し合いがある為午前のみ。
いくら事情があるにせよ、長い事授業を受けていないと勉強に着いて行けなくなるからな。この後に起こるであろう事への不安はあるものの登校に関しては異論は無い。


「応急処置が早かったようだからね、最高級品質のポーションと治癒薬で殆どの怪我は治っている筈だよ。···あぁ、でも霧ヶ谷の話だと急速に治した事で怪我自体は治るけど暫く傷むかもしれないと言っていたね······痛い?」
「痛い······?くはない、かな」

どうやら薬類は霧ヶ谷さんが持ってきてくれたらしい。
俺を迎えに来た先輩が霧ヶ谷さんに連絡を取り用意してくれたようだ。薬類の詳しい説明も霧ヶ谷さんから聞いたと兄貴は言う。
兄と向かい合ったまま、手のひらをグーパーしてみたりヒビの入ったと言う肋骨の付近を撫でてみたが、鈍痛に似た違和感はあるものの痛みといった痛みは感じられない。
それもそうだ、痛みがあったら初めから自分の部屋からこの書斎まで広い屋敷を歩いて行けるはずがない。
しかし全身に鋭い木片を浴びた楼透と比べれば俺の怪我なんて···。

「ッ、、、俺よりもっ!······楼透の怪我は?」

兄の両肩を掴み答えを急かした。
明日には楼透もこちらへ来るらしいが、怪我の具合が知りたい。命に別状が無くとも俺の目の前で起こった惨状からすれば怪我の程度が心配になる。俺と同じようにポーションと治癒薬で快癒したのか、直ぐに動いても大丈夫なのか、後遺症とかは無いのか。短時間だったのかもしれないがあの出血量だ、心配にならない方がおかしい。

「······、それは」

俺の問いに兄は言葉を濁した。
途端に表情を曇らせた兄貴に俺は不安を感じる。
大丈夫なんだよな?コクヨウ、お前を信じた俺は間違って無いよな?
俺は兄貴に縋るように続く答えを待った。
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