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episode.19
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深い眠りから目を覚ます。
深い眠りと言っても、精神世界で師であるアイラに鍛え上げられていたんだけどな。
目を開けるとすぐそばに夏奈華がいる。
チョコンと椅子に座って、俺の顔をじーっと見つめていた夏奈華は俺が目を開けたのに気づき、椅子からガタンと音を立てて立ち上がる。
「お兄ちゃん、起きた!」
夏奈華は寝てる俺の体に飛び込んで来る。
俺は掛け布団から両腕をサッと出し、夏奈華を受け止める。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「どこも痛くない?」
俺は全身を軽く捻り動かし、確認した。
痛みはない。身体は思った通り、動く。相変わらず、右目の視界は黒一色だ。眠ってる間に回復するかな?と思ってたけど、回復してないか。
右眼がないだけで、他に変わった変化の兆しや兆候がある部分はない。
「うん。大丈夫っぽい」
「よかったー」
夏奈華は一安心した表情で、ギュッと俺の体を抱きしめる。
夏奈華の体温が伝わる。
久々に人の体温を感じる。
長く寝てたのは間違いないな。そんな気がする。
「夏奈華ちゃん、心配させてごめんな」
俺は夏奈華の頭を撫でる。
夏奈華の髪は触り心地がいい。
ずっと触って撫でていたいくらいだ。
「ななか、お兄ちゃんが無事なら他はいい。お兄ちゃんが無事でいてくれて、ななかね、ホントによかった」
夏奈華はぐすぐすっと泣き出す。
涙が俺の頬に滴り落ちる。
温かい涙だな。
夏奈華の涙が一滴一滴落ち、俺の頬を伝って落ちる。
「夏奈華ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫。俺はここにいる。いつもいつも心配させてごめん。夏奈華ちゃんがこんなに心配してるなら、もう少し早く起きるべきだったな」
俺は肉体が完全回復するまで、精神世界に入り浸っていた。アイラとの実戦をまだまだやっていたかった。それが本音である。肉体が完全に近い状態に回復したのをアイラが俺に教えてくれた事で、俺は今こうして現実世界で覚醒して起きてる。夏奈華ちゃんが心配してるかも?と頭に過ぎる時も何度かあった。でも現実世界の事も気掛かりではあったけど、それ以上にアイラとの実戦が濃厚で夢中になりすぎてた。
俺は心から反省する。
泣きじゃくる夏奈華の背中を優しく右手で摩り、左手で頭を撫でて宥める。
30分後。
布団の中に潜り込んだ夏奈華ちゃんは胸の中で泣き止み、俺の体温を肌で感じで安心しきったのか?布団の中から顔を出して、
「とーやまのお兄ちゃんに教えに行ってくるー!」
ささっと布団から出るなり、ベットから飛び降りる。
その動作は忍者の如く、素早かった。
まるで、何度も同じ動作をした事があるかのように俺には見えた。
「夏奈華ちゃん、急いで転ばないようにな」
布団の中がかなり暑かったのか?顔を真っ赤にさせた夏奈華は振り返り、頷くと颯爽と部屋を出て行った。
夏奈華の温もりが消える。
部屋には、俺以外に誰もいない。
天井を見上げ、少し寂しくなる。
このくらいなら俺もついて行くべきだったな。
そう思っていると、
「シンドウセン」
聞き覚えのある声が聞こえた。
俺は声のした方向へ顔を横に向ける。
「ニコル⁈」
俺は視線の先にいたニコルの顔を見て驚いた。
ニコルは両手に色鮮やかな花が飾られた花瓶を握ってる。それに頭には花の冠――黄色系で統一された――が乗ってる。
「なんで、ここにニコルが?」
ニコルは状況を理解していない俺に言う。
「この部屋をよく見て」
ニコルの言葉を聞き、上半身を起き上がらせた俺は部屋を見渡す。
部屋にはベッドが2台置かれ、その1台に俺は寝てる。洋服を入れるクローゼットがあり、机や椅子が置いてある。他には外が眺められるベランダ伝いの窓が壁伝いにある。
俺は部屋を見た感想を呟く。
「全く見覚えがない部屋だな」
ニコルは俺の感想を聞き、頷く。
「そうだよね。見覚えのない部屋だよね。だって、シンドウセンが知らない部屋なんだから当然だよね。あと部屋の外、そこの位置から見えにくいから教えるけど、今シンドウセンがいるここは城塞都市の中だからね」
「はぁ⁇」
全く分からない。
ニコルの言葉が理解出来ない。
どおいうことだ?
「どうして?何があった?何で?俺や夏奈華ちゃんは城塞都市にいるんだよ⁉︎そもそも俺たちはラドラ達といたはずだ。ラドラ達は?ラドラ達、獣人は俺たちと違って城塞都市に入れるわけないだろ⁇」
頭が混乱する。
心で思ってる言葉がダダ漏れで、口から出た。それを聞いたニコルは両手に持った花瓶を机に置き、右手で頭を抱える。
「1つずつ説明するから、シンドウセンはとりあえず落ち着こうね」
ニコルは近くにあった椅子を俺がいるベットのすぐそばまで持って来るなり、その椅子に腰掛けた。
窓から差し込む日差しが、ニコルに当たる。それと同時に花の冠がキラッと光り、ニコルが女神のように一瞬見えた。
「まずはシンドウセンがなんで、どうして、城塞都市にいるのか。教えてあげる」
「頼む」
「あの日の夜。シンドウセンを連れた仲間達と獣人達が城塞都市にやってきたの。初めは驚いたわ。なんたって昨日の今日の出来事だったからね。前日にシンドウセンが殺戮仏様を破壊し尽くしたのを私は知ってたし、その事を誰かに話すつもりはなかった。でもね、シンドウセンが救った人達は私に聞いたわ。あの時助けてくれた人は、どこのどなただ?ってね。私は教えるつもりはなかったし、喋らなかったら……もう1人いたでしょ?診療所のロールさんが。あのロールさんが真っ白な髪をした少年が、ここまで運んできて助けたと教えたのよ。それも全員にね。だからロールさんには必然的に私はシンドウセン、あなたと顔見知りに見えたらしくてね。あなたの名前をロールさんや皆に教えないといけなくなったの。教えたら、次にシンドウセンという命の恩人はどこに?ってなったの。その後、もう本当に大変だったんだから。で、あの日、シンドウセンを背負った仲間達が来たでしょ。周りにたくさんの獣人もいたけど、命を救われた人達は反対する人達をそっちのけで城塞都市に入れたってわけ。それでシンドウセンは今ここにいるってわけなの」
あの時、助けた人達は結局無事だったのか。……よかった。
助けた事によって、俺や仲間達が助けられたのも幸運だな。
「俺の知らない間にそんな事があったんだな」
「次は、なんだっけ?あ、獣人がどうなったかだけど、獣人ももちろんシンドウセンと同じように手厚く歓迎してるから安心して」
手厚く歓迎って……。
「そんな事して平気なのかよ⁇」
ニコルは左手で丸を作り、笑って言う。
「平気よ。なんたって、今この城塞都市にはシンドウセンに救われた人達以外にいないからね」
「はぁー⁉︎」
俺は声を上げた。
ニコルから、まさかそんな内容を聞かされるとは想像してなかった。
開いた口が塞がらないとは、この事だな。
「そうなるよね。やっぱさ、僧侶様がこの世界に来られた時から私達は獣人を殺戮仏様を使って殺し始めたからね。なんていうか、最初っから相手の獣人側も、人間側も険悪な雰囲気だったの。獣人は今までの復讐を我慢出来なさそうにしてたけど、シンドウセンと同じ人間の方の仲間が宥めたり、獣人の1番偉いのが手を出すなって言ったりしてたの。シンドウセンに救われた人達はシンドウセンの仲間なら信じて大丈夫だって思ってるから全然ピリピリした睨み合いにもならなかったんだけど、反対派の人はそおいうわけにもいかなかったわ。無抵抗な獣人に殴りかかったり、武器を持って戦おうとしたりして、もういつ人と獣人の戦争に発展してもおかしくなかったからね。そんな時に反対派の人達をこの場から逃げ出すに足りる言葉を獣人が言ったの。それが1番大きな要因ね。それがなんだったか、わかる?」
1番の要因?なんだろ?
「いや、分からない」
ニコルは俺の言葉を聞くと何処か寂しげな表情を見せ、日差しが差し込む外を眺める。
「シンドウセンが僧侶様を倒したと獣人が言ったわけ。それが想像してた以上に大きくて、反対派の人は一夜にして城塞都市から消えたわ」
そおいうことか。だから……ニコルあんたはそんな寂しい顔をするのか。
「それは……ある意味で大脱走みたいなもんだな」
「だって、あの日。私達は僧侶様をはじめとした沙門様達が城塞都市を訪れ、ここの城塞都市を任されてる沙門様の行方を知らないかって聞いて来たの。その時にピンときたわ。昨日あなたが城塞都市にいる全部の殺戮仏を倒して、沙門様も倒したんだって事がね。私はシンドウセンが怪我した人を助けたのを知ってたし、私が思ってたより優しい人だってことも、あの時知ったわ。だから何を聞かれても何も言わなかったから僧侶様達は何も手かがりを掴めずまま、殺戮仏の大軍勢を引き連れて城塞都市を後にしたわ。城塞都市にいる人全てが僧侶様が連れてる殺戮仏の大軍勢を見てたから、あの数に誰が相手だとしても敵わない。勝てるわけがないと分かってても、城塞都市の殺戮仏が消え、沙門様も消えたのを知ってるし、あなた達がここにいる時点で、僧侶様が倒されたのが本当だと誰もが納得したの」
ゴクリと唾を飲み込む。
ニコルの言う通りだ。
あの規模の数が相手なら、誰だって負けるはずがないと思うよな。この世界の人間なら殺戮仏の傷一つ付かない守りや強さも、獣人や他を圧倒するに事足りる無敵さだって知ってただろうしな。
そう考えてみたら、俺一人でよくあの万を軽く超える規模を相手したよなー。新しく得たユニークスキル《BLACK DEATH ASCHAIN》がなかったら、一気に蹴散らせなかっただろうし、殴って倒してるだけだったら倒すのにかなり時間を消費しただろうな。
その分、数が多かったから一気にレベルは高くなったわけだし、良しとするか。……と言いたいところだが、本当にあんな数を相手にするのは、あれが最後にしたいな。
「……そうだったのか」
「だからもう反対派の人はいないわ。今ここにいる人達は、皆あなた達を受け入れた人達だからね。あとこれ……作ったからあげる」
ニコルはポケットから何かを出す。右手で取り出したものを俺に投げる。
俺はそれを掴み取り、手のひらを開いた。
そこには桃色一色の眼帯があった。
「これって……眼帯だよな?」
俺は眼帯から視線を外し、ニコルへ視線を向ける。
「そうそう。言わなくても、眼帯って分かったならいいや。左眼がないって聞いたから……眼帯があると便利だと思って作ったの」
ニコルは照れ臭そうに両手をもじもじさせる。
ニコルの雰囲気から察するに眼帯をつけてほしいんだろうなと勘づいた。
再び眼帯へ視線を向ける。
桃色一色の眼帯。
眼帯を軽く揉み揉み触る。
手触りは良い。不思議と人の肌――滑滑の――を触ってるような気さえするわ
「つけてもいい?」
「いいよ」
俺は眼帯を付ける。
[称号:眼帯者 獲得]
[称号:桃色の眼帯者 獲得]
やっぱり、手触りの良い眼帯だな。
俺の目にピッタリと眼帯は馴染む。
ガサつきにくそうだし、肌に優しい眼帯なのが付けてみて判明した。
めちゃくちゃ気になってます。そう顔に書かれたニコルが両手を合わせる。
「どう?」
手作りだから気になるよな。そうだよな。
俺は眼帯をつけた顔をニコルへ向ける。
「うん。最初は黒にしようかなって思ったけど、あとで考えたらピンクの方が合うんじゃないかなって思って迷ってたんだけど。やっぱり、ピンクを選んで当たりだったし、真っ白な髪にピンクは似合うね」
ニコルは喜んでる。
自分の顔は鏡がないから見れない。
どんな感じだろ?似合ってるのか、かなり気になるな。
「ニコル、ありがとう」
俺は軽く頭を下げ、お礼を伝える。
ニコルは両手を前に出し、左右に振る。
「いいよ。このくらい。私はシンドウセンが敵だと思って、毒を盛ったり、沙門様に情報を教えたりしたから、そのお詫びだから。ほんと、他意はないからね」
ニコルの言葉で、ニコルとの出会いが記憶から蘇る。
「そういえば、そうだったな。またあの特製ジュース飲みたいな。あれ毒入りだったのにめちゃくちゃ美味しかったからな。毒を外したら普通に売れるくらいバズるジュースだと俺は思うよ」
「そうそう。シンドウセンがそう言ってたから、試しにやっみたんだけどね。今では人気商品の1つになったよ」
「まじかよ⁉︎……だと思った。あれはそれだけ美味かったからな。なんか話してたら、飲みたくなったな」
あの味わった事のないジュース。
あの味を忘れられない俺がいる。
考えただけで、今すぐ飲みたくなる。
特製ジュースを頭で思い出しているとニコルが思いがけない言葉を言う。
「今から飲みに行く?行くんだったら、私作るよ」
「え、まじか!じゃー行く。行こう!」
俺は自分の足で起き上がり、ベットから立ち上がる。
立ち上がって、違和感はない。
ニコルは少し心配した様子を見せてたが、俺は「平気平気」と言って、体は既に元通りなのを全身を動かして証明した。
そして俺はニコルと共に『今夜はココット』へ向かった。
深い眠りと言っても、精神世界で師であるアイラに鍛え上げられていたんだけどな。
目を開けるとすぐそばに夏奈華がいる。
チョコンと椅子に座って、俺の顔をじーっと見つめていた夏奈華は俺が目を開けたのに気づき、椅子からガタンと音を立てて立ち上がる。
「お兄ちゃん、起きた!」
夏奈華は寝てる俺の体に飛び込んで来る。
俺は掛け布団から両腕をサッと出し、夏奈華を受け止める。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「どこも痛くない?」
俺は全身を軽く捻り動かし、確認した。
痛みはない。身体は思った通り、動く。相変わらず、右目の視界は黒一色だ。眠ってる間に回復するかな?と思ってたけど、回復してないか。
右眼がないだけで、他に変わった変化の兆しや兆候がある部分はない。
「うん。大丈夫っぽい」
「よかったー」
夏奈華は一安心した表情で、ギュッと俺の体を抱きしめる。
夏奈華の体温が伝わる。
久々に人の体温を感じる。
長く寝てたのは間違いないな。そんな気がする。
「夏奈華ちゃん、心配させてごめんな」
俺は夏奈華の頭を撫でる。
夏奈華の髪は触り心地がいい。
ずっと触って撫でていたいくらいだ。
「ななか、お兄ちゃんが無事なら他はいい。お兄ちゃんが無事でいてくれて、ななかね、ホントによかった」
夏奈華はぐすぐすっと泣き出す。
涙が俺の頬に滴り落ちる。
温かい涙だな。
夏奈華の涙が一滴一滴落ち、俺の頬を伝って落ちる。
「夏奈華ちゃん、大丈夫だよ。大丈夫。俺はここにいる。いつもいつも心配させてごめん。夏奈華ちゃんがこんなに心配してるなら、もう少し早く起きるべきだったな」
俺は肉体が完全回復するまで、精神世界に入り浸っていた。アイラとの実戦をまだまだやっていたかった。それが本音である。肉体が完全に近い状態に回復したのをアイラが俺に教えてくれた事で、俺は今こうして現実世界で覚醒して起きてる。夏奈華ちゃんが心配してるかも?と頭に過ぎる時も何度かあった。でも現実世界の事も気掛かりではあったけど、それ以上にアイラとの実戦が濃厚で夢中になりすぎてた。
俺は心から反省する。
泣きじゃくる夏奈華の背中を優しく右手で摩り、左手で頭を撫でて宥める。
30分後。
布団の中に潜り込んだ夏奈華ちゃんは胸の中で泣き止み、俺の体温を肌で感じで安心しきったのか?布団の中から顔を出して、
「とーやまのお兄ちゃんに教えに行ってくるー!」
ささっと布団から出るなり、ベットから飛び降りる。
その動作は忍者の如く、素早かった。
まるで、何度も同じ動作をした事があるかのように俺には見えた。
「夏奈華ちゃん、急いで転ばないようにな」
布団の中がかなり暑かったのか?顔を真っ赤にさせた夏奈華は振り返り、頷くと颯爽と部屋を出て行った。
夏奈華の温もりが消える。
部屋には、俺以外に誰もいない。
天井を見上げ、少し寂しくなる。
このくらいなら俺もついて行くべきだったな。
そう思っていると、
「シンドウセン」
聞き覚えのある声が聞こえた。
俺は声のした方向へ顔を横に向ける。
「ニコル⁈」
俺は視線の先にいたニコルの顔を見て驚いた。
ニコルは両手に色鮮やかな花が飾られた花瓶を握ってる。それに頭には花の冠――黄色系で統一された――が乗ってる。
「なんで、ここにニコルが?」
ニコルは状況を理解していない俺に言う。
「この部屋をよく見て」
ニコルの言葉を聞き、上半身を起き上がらせた俺は部屋を見渡す。
部屋にはベッドが2台置かれ、その1台に俺は寝てる。洋服を入れるクローゼットがあり、机や椅子が置いてある。他には外が眺められるベランダ伝いの窓が壁伝いにある。
俺は部屋を見た感想を呟く。
「全く見覚えがない部屋だな」
ニコルは俺の感想を聞き、頷く。
「そうだよね。見覚えのない部屋だよね。だって、シンドウセンが知らない部屋なんだから当然だよね。あと部屋の外、そこの位置から見えにくいから教えるけど、今シンドウセンがいるここは城塞都市の中だからね」
「はぁ⁇」
全く分からない。
ニコルの言葉が理解出来ない。
どおいうことだ?
「どうして?何があった?何で?俺や夏奈華ちゃんは城塞都市にいるんだよ⁉︎そもそも俺たちはラドラ達といたはずだ。ラドラ達は?ラドラ達、獣人は俺たちと違って城塞都市に入れるわけないだろ⁇」
頭が混乱する。
心で思ってる言葉がダダ漏れで、口から出た。それを聞いたニコルは両手に持った花瓶を机に置き、右手で頭を抱える。
「1つずつ説明するから、シンドウセンはとりあえず落ち着こうね」
ニコルは近くにあった椅子を俺がいるベットのすぐそばまで持って来るなり、その椅子に腰掛けた。
窓から差し込む日差しが、ニコルに当たる。それと同時に花の冠がキラッと光り、ニコルが女神のように一瞬見えた。
「まずはシンドウセンがなんで、どうして、城塞都市にいるのか。教えてあげる」
「頼む」
「あの日の夜。シンドウセンを連れた仲間達と獣人達が城塞都市にやってきたの。初めは驚いたわ。なんたって昨日の今日の出来事だったからね。前日にシンドウセンが殺戮仏様を破壊し尽くしたのを私は知ってたし、その事を誰かに話すつもりはなかった。でもね、シンドウセンが救った人達は私に聞いたわ。あの時助けてくれた人は、どこのどなただ?ってね。私は教えるつもりはなかったし、喋らなかったら……もう1人いたでしょ?診療所のロールさんが。あのロールさんが真っ白な髪をした少年が、ここまで運んできて助けたと教えたのよ。それも全員にね。だからロールさんには必然的に私はシンドウセン、あなたと顔見知りに見えたらしくてね。あなたの名前をロールさんや皆に教えないといけなくなったの。教えたら、次にシンドウセンという命の恩人はどこに?ってなったの。その後、もう本当に大変だったんだから。で、あの日、シンドウセンを背負った仲間達が来たでしょ。周りにたくさんの獣人もいたけど、命を救われた人達は反対する人達をそっちのけで城塞都市に入れたってわけ。それでシンドウセンは今ここにいるってわけなの」
あの時、助けた人達は結局無事だったのか。……よかった。
助けた事によって、俺や仲間達が助けられたのも幸運だな。
「俺の知らない間にそんな事があったんだな」
「次は、なんだっけ?あ、獣人がどうなったかだけど、獣人ももちろんシンドウセンと同じように手厚く歓迎してるから安心して」
手厚く歓迎って……。
「そんな事して平気なのかよ⁇」
ニコルは左手で丸を作り、笑って言う。
「平気よ。なんたって、今この城塞都市にはシンドウセンに救われた人達以外にいないからね」
「はぁー⁉︎」
俺は声を上げた。
ニコルから、まさかそんな内容を聞かされるとは想像してなかった。
開いた口が塞がらないとは、この事だな。
「そうなるよね。やっぱさ、僧侶様がこの世界に来られた時から私達は獣人を殺戮仏様を使って殺し始めたからね。なんていうか、最初っから相手の獣人側も、人間側も険悪な雰囲気だったの。獣人は今までの復讐を我慢出来なさそうにしてたけど、シンドウセンと同じ人間の方の仲間が宥めたり、獣人の1番偉いのが手を出すなって言ったりしてたの。シンドウセンに救われた人達はシンドウセンの仲間なら信じて大丈夫だって思ってるから全然ピリピリした睨み合いにもならなかったんだけど、反対派の人はそおいうわけにもいかなかったわ。無抵抗な獣人に殴りかかったり、武器を持って戦おうとしたりして、もういつ人と獣人の戦争に発展してもおかしくなかったからね。そんな時に反対派の人達をこの場から逃げ出すに足りる言葉を獣人が言ったの。それが1番大きな要因ね。それがなんだったか、わかる?」
1番の要因?なんだろ?
「いや、分からない」
ニコルは俺の言葉を聞くと何処か寂しげな表情を見せ、日差しが差し込む外を眺める。
「シンドウセンが僧侶様を倒したと獣人が言ったわけ。それが想像してた以上に大きくて、反対派の人は一夜にして城塞都市から消えたわ」
そおいうことか。だから……ニコルあんたはそんな寂しい顔をするのか。
「それは……ある意味で大脱走みたいなもんだな」
「だって、あの日。私達は僧侶様をはじめとした沙門様達が城塞都市を訪れ、ここの城塞都市を任されてる沙門様の行方を知らないかって聞いて来たの。その時にピンときたわ。昨日あなたが城塞都市にいる全部の殺戮仏を倒して、沙門様も倒したんだって事がね。私はシンドウセンが怪我した人を助けたのを知ってたし、私が思ってたより優しい人だってことも、あの時知ったわ。だから何を聞かれても何も言わなかったから僧侶様達は何も手かがりを掴めずまま、殺戮仏の大軍勢を引き連れて城塞都市を後にしたわ。城塞都市にいる人全てが僧侶様が連れてる殺戮仏の大軍勢を見てたから、あの数に誰が相手だとしても敵わない。勝てるわけがないと分かってても、城塞都市の殺戮仏が消え、沙門様も消えたのを知ってるし、あなた達がここにいる時点で、僧侶様が倒されたのが本当だと誰もが納得したの」
ゴクリと唾を飲み込む。
ニコルの言う通りだ。
あの規模の数が相手なら、誰だって負けるはずがないと思うよな。この世界の人間なら殺戮仏の傷一つ付かない守りや強さも、獣人や他を圧倒するに事足りる無敵さだって知ってただろうしな。
そう考えてみたら、俺一人でよくあの万を軽く超える規模を相手したよなー。新しく得たユニークスキル《BLACK DEATH ASCHAIN》がなかったら、一気に蹴散らせなかっただろうし、殴って倒してるだけだったら倒すのにかなり時間を消費しただろうな。
その分、数が多かったから一気にレベルは高くなったわけだし、良しとするか。……と言いたいところだが、本当にあんな数を相手にするのは、あれが最後にしたいな。
「……そうだったのか」
「だからもう反対派の人はいないわ。今ここにいる人達は、皆あなた達を受け入れた人達だからね。あとこれ……作ったからあげる」
ニコルはポケットから何かを出す。右手で取り出したものを俺に投げる。
俺はそれを掴み取り、手のひらを開いた。
そこには桃色一色の眼帯があった。
「これって……眼帯だよな?」
俺は眼帯から視線を外し、ニコルへ視線を向ける。
「そうそう。言わなくても、眼帯って分かったならいいや。左眼がないって聞いたから……眼帯があると便利だと思って作ったの」
ニコルは照れ臭そうに両手をもじもじさせる。
ニコルの雰囲気から察するに眼帯をつけてほしいんだろうなと勘づいた。
再び眼帯へ視線を向ける。
桃色一色の眼帯。
眼帯を軽く揉み揉み触る。
手触りは良い。不思議と人の肌――滑滑の――を触ってるような気さえするわ
「つけてもいい?」
「いいよ」
俺は眼帯を付ける。
[称号:眼帯者 獲得]
[称号:桃色の眼帯者 獲得]
やっぱり、手触りの良い眼帯だな。
俺の目にピッタリと眼帯は馴染む。
ガサつきにくそうだし、肌に優しい眼帯なのが付けてみて判明した。
めちゃくちゃ気になってます。そう顔に書かれたニコルが両手を合わせる。
「どう?」
手作りだから気になるよな。そうだよな。
俺は眼帯をつけた顔をニコルへ向ける。
「うん。最初は黒にしようかなって思ったけど、あとで考えたらピンクの方が合うんじゃないかなって思って迷ってたんだけど。やっぱり、ピンクを選んで当たりだったし、真っ白な髪にピンクは似合うね」
ニコルは喜んでる。
自分の顔は鏡がないから見れない。
どんな感じだろ?似合ってるのか、かなり気になるな。
「ニコル、ありがとう」
俺は軽く頭を下げ、お礼を伝える。
ニコルは両手を前に出し、左右に振る。
「いいよ。このくらい。私はシンドウセンが敵だと思って、毒を盛ったり、沙門様に情報を教えたりしたから、そのお詫びだから。ほんと、他意はないからね」
ニコルの言葉で、ニコルとの出会いが記憶から蘇る。
「そういえば、そうだったな。またあの特製ジュース飲みたいな。あれ毒入りだったのにめちゃくちゃ美味しかったからな。毒を外したら普通に売れるくらいバズるジュースだと俺は思うよ」
「そうそう。シンドウセンがそう言ってたから、試しにやっみたんだけどね。今では人気商品の1つになったよ」
「まじかよ⁉︎……だと思った。あれはそれだけ美味かったからな。なんか話してたら、飲みたくなったな」
あの味わった事のないジュース。
あの味を忘れられない俺がいる。
考えただけで、今すぐ飲みたくなる。
特製ジュースを頭で思い出しているとニコルが思いがけない言葉を言う。
「今から飲みに行く?行くんだったら、私作るよ」
「え、まじか!じゃー行く。行こう!」
俺は自分の足で起き上がり、ベットから立ち上がる。
立ち上がって、違和感はない。
ニコルは少し心配した様子を見せてたが、俺は「平気平気」と言って、体は既に元通りなのを全身を動かして証明した。
そして俺はニコルと共に『今夜はココット』へ向かった。
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