ダレカノセカイ

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episode.31

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 身動きが取れない状況で、俺の左眼だけが美男子と3人の戦いを視野に映す。
「うぉぉおおおおおらぁああああああああ‼︎」
 仁は闇一色に染まりきった丸太を全開で振り回す。
「ハルくん、次は右斜めに撃って!」
 守山は天音に叫びつつ、美男子に両手に握った光剣を振るう。
「消えろー‼︎」
 天音は小型拳銃を守山の指示に従い、右斜めに構えて撃ち出す。天音の少し離れた先にライフルが真っ二つに斬られ、無残に地面に転がってる。
 美男子は自身の心臓に向かって伸びる銃弾を左手で弾き飛ばし、弾道を仁の右肩に軌道を変える。
 ズバッ!
「がっあぁあ!」
 仁は右肩に銃弾が命中してしまう。
 痛みで、一瞬動けずにいる隙を美男子に突かれる。
「未来が見えていようとこうやって、上書きは可能です。未来がどう見えていようとぼくには通用しませんよ。あと動きを止めた人から退場だと言いましたよね?」
 スパッ!
 仁の左肩から下が無くなる。
 左腕は血と共に転がり落ちた。
 仁の左肩から大量の血が流れる。
 そのまま放置すれば、出血多量で死に至るのは誰から見ても明白だ。それでも、仁は残った右手に握った丸太を真っ直ぐ振り下ろす。
「うぉおぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」
 ズンドーン‼︎
 眼前にいる美男子は丸太の一撃を直撃で喰らう。
 美男子の立っていた位置の道路が凹み、周り一帯がボゴッと盛り上がる。
「……やった……新道先生……ななか……ちゃんの……仇は……と……りま……した……」
 バタッ!
 仁は糸が切れた人形の如く、地面に倒れた。アスファルトの地面に大量の血が流れ広がる。
「仁君‼︎⁉︎」
「葉山さん⁉︎⁉︎」
 守山と天音が叫ぶ。だが、叫び呼ばれた仁は倒れたまま、返事をする事はおろか起き上がる事はなかった。
 仁の最後の一撃を受けてもなお、凹んだ位置から無傷の姿で登場する美男子。その姿を見た守山は唇を力強く噛み締め、
「姿に宿りし力を解放せよ‼︎《全開魔力砲くっ、くそったれがぁー‼︎》」
 守山は今出せる限界に近いありったけの魔力を込めた魔力砲を放ち出す。
 美男子は逃げる素振りはない。
 美男子は守山のいる方向へ足を進める。
 自分自身に強大な光が膨大に膨れ上がり、襲いかかろうとしているのにも関わらず、美男子は足を止める気配もない。
「へぇーこれは受けてみる価値はありますね。ぼくを殺すに足るかどうか、楽しみですね」
 美男子は両腕を広げ、守山の全開で解き放った魔力砲を全身で受ける。
 ズドン‼︎‼︎
 甲高い音が響いた。
 次に轟音が響き渡る。
 爆煙と爆風が琵琶湖を包むほど、大きく吹き上がる。
 これを遠い場所で目撃したなら、きっと原爆でも投下されたのか?そう思えるくらいの噴煙が立ち昇る。
「楽しみに受けてみましたが……残念ですね。ぼくを殺す事は出来ませんでした。今のは今日一番の威力と言って過言じゃありませんでした。ぼくを殺すには先程の威力を基準として連続で1万回以上、放てば殺せるかもしれませんよ?」
 美男子は爆煙を一振りで吹き払い、左手には天音の首が締められてる。
「ハルくん‼︎⁉︎」
 守山は天音が首を絞められ、バタバタと両足を前後に振って苦しんでる姿を目撃する。
「凄腕の男性と仲が良いと戦ってるうちに気づきました。そのまま、ぼくの手で殺されるか?凄腕の男性の代わりに君が命を投げ出すか?選択して下さい」
 ありえない。あいつは悪魔か⁉︎
 俺は動かない体を無理矢理動かす。
 その反動で、左眼から赤い血を流す。
 視界が赤く染まる。
 そんな中で、守山は潔く両手に持った光剣を道路に突き刺した。
「降参だよ。おじさんが代わりに命を投げ出す。それでいいだろ?……だから、ハルくんだけは……この通り、お願いします」
 守山は美男子に土下座して、こうべを垂れる。それを見た美男子は守山の返事を想像してなかった様子を一瞬見せる。
「そうですか。潔く自らの命を選びましたか。日本男子にしては漢と呼んでも不足ありませんね。でしたら、今すぐその場で自決しなさい」
 美男子は冷酷に言い放った。
「分かった。分かったから、ハルくんだけは絶対助けてくれるだね?」
 守山は頭を上げ、美男子に約束を漕ぎ付けようとする。
 美男子はそれを理解してるようで、天音の首を絞めるのを緩める。
「それは君の頑張り次第ですよ?」
「……分かった」
 守山は立ち上がる。
 地面に突き刺した光剣を一本抜く。
 光剣を真剣な眼差しで見つめる守山。
 守山は覚悟が固まった様子で、光剣を自身の首の数センチ手前で止める。
「おじさんとの約束だよ」
 守山は目を瞑る。
 そして光剣で自らの首を斬り落とそうとした――その時、
「……バーカ!モリケン……何やってんだよ!僕の為に2度目の人生を棒に振るつもりか⁉︎……僕はモリケンが死ぬのを2度も見たくない。モリケンが死ぬっていうんなら、僕が死ぬ。モリケンの足枷になるくらいなら、僕自身で死ぬのを選ぶよ。……モリケン、もう間違うんじゃないぞ。人生は一度っきりなんだから」
 バン!
 天音は腰に下げた小型拳銃で、自分自身の頭を撃ち抜いた。ダラリと落ちた右手に握られた小型拳銃が、アスファルトの地面に落ちる。
 ガタン!
「ハルくーんー‼︎‼︎⁉︎」
 守山は腹から声を張り上げた。
 守山の張り上げた声を耳に聞こえたかは分からない。分からないけど、天音は確かに自ら命を絶ったというのに口は笑っていた。
 まるで、腹から声を出した守山を笑うかのように。
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