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episode.37
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美男子の運転するジープに乗ること、2時間後。その間に俺の体は万全な状態に回復した。俺が不老不死である事は、夏奈華を始めとした天音達全員に伝えた。
もう2度とあんな悲劇を起こさない為に。
もう2度と夏奈華や仲間が俺の身代わりに命を捨てさせない為に。
特別な地下道路の先に目的地があった。そこは今いる位置から天に向かって伸びた塔。見上げても、塔の先端は覗けない。それほどまでに塔は果てしなく高く、巨大だ。
塔の周りには源泉が湧き出て、緑色に煌めいた石――煌石と呼んでもいいくらいな代物――が透明な底に無数に光り輝いている。
俺たちが入ってきた道路とは別に、他にも多くの道路が点在している。トンネルに入る手前の入り口に東京都だったり、福岡県だったり、北海道だったり、日本の都道府県名が大きな標識で打ち立てられている。
まさか、ここから全都道府県に行けるってわけじゃないよな?
何が何だか、もう理解不能で頭がパンクしそうだ。
頭から湯気が出てもおかしくない。それだけの情報量が、ここに来てから目まぐるしくあった。
俺たちは目的地の手前に辿り着き、
「着きましたね。降りましょうか」
美男子の指示に従い、鍵が解除されたドアを開ける。
ドアを開けると目的地の先まで、ズラーッと軍服の男達が左右に一直線に並んでる。全員が全員、敬礼している。
敬礼した構えのまま、1ミリ足りとも動かない。不動の構えだ。
軍服の男達の眼には緊張感が混じってる。今なら分かる。軍服の男達がどうして、そこまでの緊張感があるのかを。
美男子は「ぼくの背後についてきてくださいね」と言い、軍服の男達の列の真ん中を平然と歩いていく。
美男子がすぐ近くを通る度に軍服の男達は恐怖を眼に宿し、額から汗をじんわりと流す。ポタッと汗が地面に落ちる頃には、美男子はそこを通り過ぎている。軍服の男達の顔に安堵の色が表れる。それだけ美男子は軍服の男達に恐れられている事が、容易に分かった。
軍服の男達の顔色を確認し終えて、次に俺は美男子の背中に注目する。
美男子の羽織った浅葱色の羽織りもの。その背中に『誠』という文字がドデカク書かれてる。達筆な字で書かれた『誠』を見た俺は、ゴクリと音を鳴らす。
俺は知ってる。
この羽織りものを……。
これは――
「ここから中に入れます」
美男子は俺の方へ顔を振り向かせ、塔の一番真下にある扉を指差す。
俺は今考えようとした事を振り払う。
今は目の前の事だ。
銀色の扉には赤外線センサーが反応してるのか?美男子が自動で左右に開いた扉をくぐるとピピッと音が鳴り、「認証確認。おかえりなさいませ」と女性の声までする。
声のした方へ顔を見上げる。
扉の真上にスピーカー――真新しい上に最新式っぽい――が左右に2台取り付けられてる。
「続けて入ってください。既に帰還者も同行する事は上に連絡済みです。何も黒焦げや串刺しや身体に穴が大量に空く事は今回はありませんよ。続けて来てください」
今回は……って、次来た時は黒焦げや身体に穴が空くような出来事が待ってるのかよ⁈
俺は扉を見回し、何処にも罠の類がない事を確認して中に入る。
ピピッ。
「ゲスト認証確認。いらっしゃいませ」
ゲストって……俺はここではゲスト扱いかよ。
ピピッ。
「ゲスト認証確認。いらっしゃいませ」
後ろから同じ声が聞こえる。
いや俺だけじゃない。訂正するなら、ゲスト扱いは俺たちだな。
扉の先にエレベーターの乗り場がある。
左には奥まで続く渡り廊下が続き、右にはステンドガラスの花がたくさん飾られている。
「エレベーターに乗りましょうか」
美男子はエレベーターの方向へ足を進める。エレベーターは美男子がボタンを押すまでもなく、自動で開く。
凄いな。
俺はエレベーターが自動で開いたのに驚きつつ、美男子に続く。
俺の後ろにいた遠山達が続けて、エレベーターに乗る。
全員が乗り終えるとエレベーターは自動で閉まり、
「黒岩の元へお願いします」
「了解しました」
美男子の声に反応した女性の声――扉の時と同じ――が、エレベーター内に響いた。
この女性の声って……若干機械っぽい声だよな?もしかしたら、AIかなんかかな?
女性の声に疑問を持ち始める俺を乗せたエレベーターは、急速に上昇する。
浮遊感を感じ、俺はエレベーター内に取り付けられた取手に手を当てて握る。
「もうすぐ着きますよ」
袖に両腕を通した美男子は目を瞑ったまま、そう言った。
俺はエレベーターの階数が表示された黄色ランプを見る。
最初はB200だったのが、今ではB100を過ぎ、2桁台になる。
B50を指した瞬間、エレベーターは俺たちに反動を与えずに緩やかに止まる。
「到着しました」
「行きましょうか」
美男子は目を開ける。
エレベーターの扉が開く。
美男子は扉の先へ迷わず進み出る。
B50の階には左右に広がる廊下があり、真っ直ぐ行った先に大きめの扉――堅牢に固く閉ざされた感が半端ない――がある。
美男子は大きめの扉のすぐ前で立ち止まり、俺たちの方へ振り返る。
「お手洗い行きたい方はいますか?」
ニコリと笑った美男子。
全員がどう返事を返すべきか?迷う。
まるで、正解探しみたいなものだ。
どう切り返せば?どう切り出せれば?
どう答えれば?どう言えば?正解なのか?
正解が見れない中で、変な答え方をして殺されるのはたまったもんじゃない。全員が美男子に一度――守山を除けば――は殺され、死を体験している。だからこそ、簡単そうで難しいな場面で、変な答え方をして2度目の死を体験したくないのだろう。
ここは俺の出番だな。
真っ先に一歩踏み出し、俺は美男子に言う。
「俺はいい」
「はい。分かりました。他の方々も時間が勿体無いので、間をおかずにちゃっちゃと答えてくださいね?」
美男子のニコリと笑った顔が、遠山達全員の顔を右から左にぐるっと見回す。
「私は大丈夫だ」
「うちも」
「うち、ちょっと行きたいけど……我慢するし」
「僕はまだ平気だよ」
守山が右手を上げる。
「おじさんは行きたいなー。行って来ても?」
「どうぞ。行きたい方は行ってくださいね。左手に進んだ先に男女別のお手洗いがあります。漏らしたくない方は必ず済ませて来てくださいね」
美男子は左腕を廊下へ向ける。
「俺も行きたかったっす!賢さん、一緒に行きましょうっす!」
仁は守山の肩を軽く叩き、走る。
「行こう行こう」
守山は頷き、仁と共にお手洗いに向かった。
「じゃー、うちも。やっぱ行ってくるわ」
戸倉は千葉に手を振り、お手洗いへ。
それを見た夏奈華も、「ななかも」と言って戸倉を追いかける。
「他に済ませておきたい方はいませんね?あとで行きたいと仰っても行けるか分かりませんよ。行ける時に行っておいた方がいいですよ」
美男子は大きめの扉に背中を預け、大きく白い山形の袖に両腕を通して目を瞑る。
「……僕も行ってくる」
「全然まだ大丈夫だけど、うちも行こうかな。美紅人、お手洗いに行ってくるね」
美男子の最後のお手洗いの案内を聞き、天音と千葉がお手洗いに向かう。
残ったのは、俺と遠山のみ。あと小動物のグリム――塔に到着するほんの前に目を覚ました――が、俺の左肩に乗ってるだけだ。
目を瞑ったまま、美男子は再度確認する。
「お二方は行かれなくて平気なんですね?」
「さっきも言ったけど、俺はいい」
「私も同じく大丈夫だ」
俺と遠山は顔を見合わせ、先程と同じ回答をした。それを左肩で聞いていたグリムも、質問に答える。
「わいも平気やでー」
「そうですか。なら2度と言いません。この話はここで終わりですね」
その後、美男子は一言も話さなかった。お手洗いに行った全員が戻ってくるまで、口を開く事はなかった。
もう2度とあんな悲劇を起こさない為に。
もう2度と夏奈華や仲間が俺の身代わりに命を捨てさせない為に。
特別な地下道路の先に目的地があった。そこは今いる位置から天に向かって伸びた塔。見上げても、塔の先端は覗けない。それほどまでに塔は果てしなく高く、巨大だ。
塔の周りには源泉が湧き出て、緑色に煌めいた石――煌石と呼んでもいいくらいな代物――が透明な底に無数に光り輝いている。
俺たちが入ってきた道路とは別に、他にも多くの道路が点在している。トンネルに入る手前の入り口に東京都だったり、福岡県だったり、北海道だったり、日本の都道府県名が大きな標識で打ち立てられている。
まさか、ここから全都道府県に行けるってわけじゃないよな?
何が何だか、もう理解不能で頭がパンクしそうだ。
頭から湯気が出てもおかしくない。それだけの情報量が、ここに来てから目まぐるしくあった。
俺たちは目的地の手前に辿り着き、
「着きましたね。降りましょうか」
美男子の指示に従い、鍵が解除されたドアを開ける。
ドアを開けると目的地の先まで、ズラーッと軍服の男達が左右に一直線に並んでる。全員が全員、敬礼している。
敬礼した構えのまま、1ミリ足りとも動かない。不動の構えだ。
軍服の男達の眼には緊張感が混じってる。今なら分かる。軍服の男達がどうして、そこまでの緊張感があるのかを。
美男子は「ぼくの背後についてきてくださいね」と言い、軍服の男達の列の真ん中を平然と歩いていく。
美男子がすぐ近くを通る度に軍服の男達は恐怖を眼に宿し、額から汗をじんわりと流す。ポタッと汗が地面に落ちる頃には、美男子はそこを通り過ぎている。軍服の男達の顔に安堵の色が表れる。それだけ美男子は軍服の男達に恐れられている事が、容易に分かった。
軍服の男達の顔色を確認し終えて、次に俺は美男子の背中に注目する。
美男子の羽織った浅葱色の羽織りもの。その背中に『誠』という文字がドデカク書かれてる。達筆な字で書かれた『誠』を見た俺は、ゴクリと音を鳴らす。
俺は知ってる。
この羽織りものを……。
これは――
「ここから中に入れます」
美男子は俺の方へ顔を振り向かせ、塔の一番真下にある扉を指差す。
俺は今考えようとした事を振り払う。
今は目の前の事だ。
銀色の扉には赤外線センサーが反応してるのか?美男子が自動で左右に開いた扉をくぐるとピピッと音が鳴り、「認証確認。おかえりなさいませ」と女性の声までする。
声のした方へ顔を見上げる。
扉の真上にスピーカー――真新しい上に最新式っぽい――が左右に2台取り付けられてる。
「続けて入ってください。既に帰還者も同行する事は上に連絡済みです。何も黒焦げや串刺しや身体に穴が大量に空く事は今回はありませんよ。続けて来てください」
今回は……って、次来た時は黒焦げや身体に穴が空くような出来事が待ってるのかよ⁈
俺は扉を見回し、何処にも罠の類がない事を確認して中に入る。
ピピッ。
「ゲスト認証確認。いらっしゃいませ」
ゲストって……俺はここではゲスト扱いかよ。
ピピッ。
「ゲスト認証確認。いらっしゃいませ」
後ろから同じ声が聞こえる。
いや俺だけじゃない。訂正するなら、ゲスト扱いは俺たちだな。
扉の先にエレベーターの乗り場がある。
左には奥まで続く渡り廊下が続き、右にはステンドガラスの花がたくさん飾られている。
「エレベーターに乗りましょうか」
美男子はエレベーターの方向へ足を進める。エレベーターは美男子がボタンを押すまでもなく、自動で開く。
凄いな。
俺はエレベーターが自動で開いたのに驚きつつ、美男子に続く。
俺の後ろにいた遠山達が続けて、エレベーターに乗る。
全員が乗り終えるとエレベーターは自動で閉まり、
「黒岩の元へお願いします」
「了解しました」
美男子の声に反応した女性の声――扉の時と同じ――が、エレベーター内に響いた。
この女性の声って……若干機械っぽい声だよな?もしかしたら、AIかなんかかな?
女性の声に疑問を持ち始める俺を乗せたエレベーターは、急速に上昇する。
浮遊感を感じ、俺はエレベーター内に取り付けられた取手に手を当てて握る。
「もうすぐ着きますよ」
袖に両腕を通した美男子は目を瞑ったまま、そう言った。
俺はエレベーターの階数が表示された黄色ランプを見る。
最初はB200だったのが、今ではB100を過ぎ、2桁台になる。
B50を指した瞬間、エレベーターは俺たちに反動を与えずに緩やかに止まる。
「到着しました」
「行きましょうか」
美男子は目を開ける。
エレベーターの扉が開く。
美男子は扉の先へ迷わず進み出る。
B50の階には左右に広がる廊下があり、真っ直ぐ行った先に大きめの扉――堅牢に固く閉ざされた感が半端ない――がある。
美男子は大きめの扉のすぐ前で立ち止まり、俺たちの方へ振り返る。
「お手洗い行きたい方はいますか?」
ニコリと笑った美男子。
全員がどう返事を返すべきか?迷う。
まるで、正解探しみたいなものだ。
どう切り返せば?どう切り出せれば?
どう答えれば?どう言えば?正解なのか?
正解が見れない中で、変な答え方をして殺されるのはたまったもんじゃない。全員が美男子に一度――守山を除けば――は殺され、死を体験している。だからこそ、簡単そうで難しいな場面で、変な答え方をして2度目の死を体験したくないのだろう。
ここは俺の出番だな。
真っ先に一歩踏み出し、俺は美男子に言う。
「俺はいい」
「はい。分かりました。他の方々も時間が勿体無いので、間をおかずにちゃっちゃと答えてくださいね?」
美男子のニコリと笑った顔が、遠山達全員の顔を右から左にぐるっと見回す。
「私は大丈夫だ」
「うちも」
「うち、ちょっと行きたいけど……我慢するし」
「僕はまだ平気だよ」
守山が右手を上げる。
「おじさんは行きたいなー。行って来ても?」
「どうぞ。行きたい方は行ってくださいね。左手に進んだ先に男女別のお手洗いがあります。漏らしたくない方は必ず済ませて来てくださいね」
美男子は左腕を廊下へ向ける。
「俺も行きたかったっす!賢さん、一緒に行きましょうっす!」
仁は守山の肩を軽く叩き、走る。
「行こう行こう」
守山は頷き、仁と共にお手洗いに向かった。
「じゃー、うちも。やっぱ行ってくるわ」
戸倉は千葉に手を振り、お手洗いへ。
それを見た夏奈華も、「ななかも」と言って戸倉を追いかける。
「他に済ませておきたい方はいませんね?あとで行きたいと仰っても行けるか分かりませんよ。行ける時に行っておいた方がいいですよ」
美男子は大きめの扉に背中を預け、大きく白い山形の袖に両腕を通して目を瞑る。
「……僕も行ってくる」
「全然まだ大丈夫だけど、うちも行こうかな。美紅人、お手洗いに行ってくるね」
美男子の最後のお手洗いの案内を聞き、天音と千葉がお手洗いに向かう。
残ったのは、俺と遠山のみ。あと小動物のグリム――塔に到着するほんの前に目を覚ました――が、俺の左肩に乗ってるだけだ。
目を瞑ったまま、美男子は再度確認する。
「お二方は行かれなくて平気なんですね?」
「さっきも言ったけど、俺はいい」
「私も同じく大丈夫だ」
俺と遠山は顔を見合わせ、先程と同じ回答をした。それを左肩で聞いていたグリムも、質問に答える。
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