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一目惚れ
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外は“小春日和”という言葉が似合う
暖かくて穏やかな陽気だ。
今日は18時までカフェでバイトをした後、もう一人の彼女の「亜美(あみ)ちゃん」とデートの予定だ。
亜美ちゃんは花の女子大生で、今は20歳。
僕が働いているカフェにたまたま友達と来て以来、彼女曰く僕に一目惚れしたらしい。付き合い出したのは去年の冬の事だった。
彼女、朱華みたいな美人では決してないけれど、いつも明るくて元気で、可愛い女の子だ。
何度かカフェに来ていたことは知っていた。
どうやら僕を目当てだったらしい。
だってバレバレだから、僕は直ぐには気付かなかったけれど、周りのスタッフが…
「雪都くん、またあの子来てるわよ」
「モテる男は辛いねぇ~」
などと言って茶化してくるものだから…
好みの話をするならば
僕は、女の子はもっと守ってあげたい雰囲気の子が好みだったけれど…(それは朱華とも違うのだけれど。)
好意を持ってもらえるのは純粋に嬉しかった。
そんな亜美ちゃんとの交際の始まりはこうだった…
ある日の出勤時、夕方いつものように店に来ていた亜美ちゃん。その日は珍しく一人で来ていて、何やら思い詰めた様な雰囲気だった。
その日は、僕の上がり時間まで珍しく店内が賑やかで忙しかった為、
亜美ちゃんの様によく来てくれる常連さんにはいつもは挨拶したりするのだが、特に言葉を掛けることもなくおわった。
仕事を終えて裏口から出ると亜美ちゃんが居た。
不思議に思ったけれど、誰かと待ち合わせでもしているのかなと思い、前を通り過ぎようとした時。
通りすがりざまにコートの裾を引っ張られた。
何かに引っ掛けてしまったのかと思い振り返ると亜美ちゃんが僕のコートを握っていた。
「…?……どうかしましたか?」
と、声を掛けると。
「……好きです!私と付き合ってください!!」
と、頬を赤らめて、必死な様子で亜美ちゃんが僕を見上げた。
突然の告白に内心少しばかり驚いたけれど、今日の亜美ちゃんがおかしな感じだった事に何となく納得した。
少しの間僕が黙っていると、亜美ちゃんは段々不安になって来たのか、瞳に涙が溢れて来た。
僕のコートの裾を握っている手が小さく震えている。
ー…あぁ、この子、こんなにも僕の事が好きなんだ。
毎日のように僕を見るために店に通い詰めて、今日だってこんな寒い中、僕がここから出てくるのをずっと待っていたんだ。
こんなに涙を溜めて、震えながら、でも真っ直ぐに僕を見つめて、答えを待っている。
僕はコートを掴む彼女の手にそっと自分の手を重ねると、やさしくその手を解いた。
瞬間彼女の表情に絶望の色が差した。
僕にフラれるんだと悟って不安になったに違いない。だって彼女の頭の中は僕でいっぱいなんだから…
「…亜美ちゃん、だったよね?」
僕が呼びかけると彼女はビクッとして弾かれるように顔を上げた。
瞬間瞳に溜まっていた涙がするりと頬を流れ落ちた、まるでヒビの入ったコップからたらたらとしずくが流れるように、彼女の頬を後から、後から、涙の筋が流れた。
さっきより不安気な顔で僕を真っ直ぐ見つめた彼女の表情を、僕はほんの刹那の間に心に刻み付けたい程細部迄眺めた。
ー…彼女を今こんなにも苦しめているのは全部僕のせい。
この涙も、今彼女を震わせているこの緊張も。
ー…かわいそう…なんて愛しいんだろう…
その時の僕は、僕の事に心をさいて泣いている彼女に、興奮していた…。
「…君の気持ち、すごく嬉しいよ。
ありがとう。」
彼女は涙を堪えようとしてか、唇をキュッと噛んだ。
その口元さえ震えている。
怯えているのだ、僕にフラれる事を。
僕に拒絶されるのを恐れているんだ…。
そう思うと僕は一層興奮が増して、ますます彼女を愛しく思った。
「…いいよ。」
僕が言うと
「…へ…?」
一瞬何が聞こえたのか分からないというような戸惑いの後に、彼女の表情に灯りが燈った様な幸福が見えた。
ー…僕の一言にこんなに感情を揺さぶられている…
「…本当?本当に私と付き合ってくれるんですか?!」
悲しみから幸福に感情がシフトする瞬間の彼女を見て、こんなに僕の一言一言で喜んだり悲しんだりしている彼女を、
…僕の側に置いておきたい。そんな感情に駆られた。
「うん。」
そう言ってにっこりと微笑んだ。そしてこう続けた。
「けど僕ね、恋人が居るんだ。その人と別れるつもりは無い。」
そういうと彼女は喜びを表情に貼り付けたまま、またしても思考が追い付かないという様な戸惑いを感じ、瞳にその色を映した。
「…あの、それはどういう、ことですか?
…え、と……浮気…てこと…?」
僕は微笑みを貼り付けた表情のまま、観察する様な目で彼女を見下ろしながら優しい声音でこう続けた。
「僕は君の事も彼女の事も同じ位愛するってことだよ。」
彼女は泣いていた事さえ忘れた様に混乱していた。
「え?…待ってください、え??……あの、じゃあ仮にあなたが良くても彼女サンは??
…こんな事バレたら私刺されちゃうじゃん!!」
あれ?なんだ、もう戻ってしまったの。もっと僕の事だけ考えて欲しかったのにな…
「大丈夫だよ、彼女も僕以外に恋人が居るし。僕がこうなのも知っている。
だから、亜美ちゃんがそんな僕でも良いなら、僕は君の事も愛するよ。」
急に黙り込んで何か考えている。
あぁ、迷っているのかなぁ、迷うくらいなら受け入れて仕舞えば楽になるのに…
「…でも…やっぱり……」
「じゃあ、やめるかい?」
「…えっ!!」
ほら、君の中でももう決まってるんだ。君は僕といられるチャンスを失いたくないんだろ?
「亜美ちゃんにはちょっと刺激が強すぎたみたいだね、告白してくれてありがとう。じゃあね。」
そう言って彼女の前から立ち去ろうとすると…
「待って!!!」
―…。
「私っ…やっぱり諦めたくない!2番目でもいいから付き合ってください!!」
僕は微笑んで、ゆっくり振り返る…
「…ん、よろしくね、亜美ちゃん。」
―…ほぅら、ね?
暖かくて穏やかな陽気だ。
今日は18時までカフェでバイトをした後、もう一人の彼女の「亜美(あみ)ちゃん」とデートの予定だ。
亜美ちゃんは花の女子大生で、今は20歳。
僕が働いているカフェにたまたま友達と来て以来、彼女曰く僕に一目惚れしたらしい。付き合い出したのは去年の冬の事だった。
彼女、朱華みたいな美人では決してないけれど、いつも明るくて元気で、可愛い女の子だ。
何度かカフェに来ていたことは知っていた。
どうやら僕を目当てだったらしい。
だってバレバレだから、僕は直ぐには気付かなかったけれど、周りのスタッフが…
「雪都くん、またあの子来てるわよ」
「モテる男は辛いねぇ~」
などと言って茶化してくるものだから…
好みの話をするならば
僕は、女の子はもっと守ってあげたい雰囲気の子が好みだったけれど…(それは朱華とも違うのだけれど。)
好意を持ってもらえるのは純粋に嬉しかった。
そんな亜美ちゃんとの交際の始まりはこうだった…
ある日の出勤時、夕方いつものように店に来ていた亜美ちゃん。その日は珍しく一人で来ていて、何やら思い詰めた様な雰囲気だった。
その日は、僕の上がり時間まで珍しく店内が賑やかで忙しかった為、
亜美ちゃんの様によく来てくれる常連さんにはいつもは挨拶したりするのだが、特に言葉を掛けることもなくおわった。
仕事を終えて裏口から出ると亜美ちゃんが居た。
不思議に思ったけれど、誰かと待ち合わせでもしているのかなと思い、前を通り過ぎようとした時。
通りすがりざまにコートの裾を引っ張られた。
何かに引っ掛けてしまったのかと思い振り返ると亜美ちゃんが僕のコートを握っていた。
「…?……どうかしましたか?」
と、声を掛けると。
「……好きです!私と付き合ってください!!」
と、頬を赤らめて、必死な様子で亜美ちゃんが僕を見上げた。
突然の告白に内心少しばかり驚いたけれど、今日の亜美ちゃんがおかしな感じだった事に何となく納得した。
少しの間僕が黙っていると、亜美ちゃんは段々不安になって来たのか、瞳に涙が溢れて来た。
僕のコートの裾を握っている手が小さく震えている。
ー…あぁ、この子、こんなにも僕の事が好きなんだ。
毎日のように僕を見るために店に通い詰めて、今日だってこんな寒い中、僕がここから出てくるのをずっと待っていたんだ。
こんなに涙を溜めて、震えながら、でも真っ直ぐに僕を見つめて、答えを待っている。
僕はコートを掴む彼女の手にそっと自分の手を重ねると、やさしくその手を解いた。
瞬間彼女の表情に絶望の色が差した。
僕にフラれるんだと悟って不安になったに違いない。だって彼女の頭の中は僕でいっぱいなんだから…
「…亜美ちゃん、だったよね?」
僕が呼びかけると彼女はビクッとして弾かれるように顔を上げた。
瞬間瞳に溜まっていた涙がするりと頬を流れ落ちた、まるでヒビの入ったコップからたらたらとしずくが流れるように、彼女の頬を後から、後から、涙の筋が流れた。
さっきより不安気な顔で僕を真っ直ぐ見つめた彼女の表情を、僕はほんの刹那の間に心に刻み付けたい程細部迄眺めた。
ー…彼女を今こんなにも苦しめているのは全部僕のせい。
この涙も、今彼女を震わせているこの緊張も。
ー…かわいそう…なんて愛しいんだろう…
その時の僕は、僕の事に心をさいて泣いている彼女に、興奮していた…。
「…君の気持ち、すごく嬉しいよ。
ありがとう。」
彼女は涙を堪えようとしてか、唇をキュッと噛んだ。
その口元さえ震えている。
怯えているのだ、僕にフラれる事を。
僕に拒絶されるのを恐れているんだ…。
そう思うと僕は一層興奮が増して、ますます彼女を愛しく思った。
「…いいよ。」
僕が言うと
「…へ…?」
一瞬何が聞こえたのか分からないというような戸惑いの後に、彼女の表情に灯りが燈った様な幸福が見えた。
ー…僕の一言にこんなに感情を揺さぶられている…
「…本当?本当に私と付き合ってくれるんですか?!」
悲しみから幸福に感情がシフトする瞬間の彼女を見て、こんなに僕の一言一言で喜んだり悲しんだりしている彼女を、
…僕の側に置いておきたい。そんな感情に駆られた。
「うん。」
そう言ってにっこりと微笑んだ。そしてこう続けた。
「けど僕ね、恋人が居るんだ。その人と別れるつもりは無い。」
そういうと彼女は喜びを表情に貼り付けたまま、またしても思考が追い付かないという様な戸惑いを感じ、瞳にその色を映した。
「…あの、それはどういう、ことですか?
…え、と……浮気…てこと…?」
僕は微笑みを貼り付けた表情のまま、観察する様な目で彼女を見下ろしながら優しい声音でこう続けた。
「僕は君の事も彼女の事も同じ位愛するってことだよ。」
彼女は泣いていた事さえ忘れた様に混乱していた。
「え?…待ってください、え??……あの、じゃあ仮にあなたが良くても彼女サンは??
…こんな事バレたら私刺されちゃうじゃん!!」
あれ?なんだ、もう戻ってしまったの。もっと僕の事だけ考えて欲しかったのにな…
「大丈夫だよ、彼女も僕以外に恋人が居るし。僕がこうなのも知っている。
だから、亜美ちゃんがそんな僕でも良いなら、僕は君の事も愛するよ。」
急に黙り込んで何か考えている。
あぁ、迷っているのかなぁ、迷うくらいなら受け入れて仕舞えば楽になるのに…
「…でも…やっぱり……」
「じゃあ、やめるかい?」
「…えっ!!」
ほら、君の中でももう決まってるんだ。君は僕といられるチャンスを失いたくないんだろ?
「亜美ちゃんにはちょっと刺激が強すぎたみたいだね、告白してくれてありがとう。じゃあね。」
そう言って彼女の前から立ち去ろうとすると…
「待って!!!」
―…。
「私っ…やっぱり諦めたくない!2番目でもいいから付き合ってください!!」
僕は微笑んで、ゆっくり振り返る…
「…ん、よろしくね、亜美ちゃん。」
―…ほぅら、ね?
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