上 下
6 / 416
第一章 先生との出会い

5、辻先生の興味深い授業

しおりを挟む
辻の授業は櫻にとって、とても興味深いものだった。

周りの生徒は辻の実家に入るため、嫁になるにはということが話の中心になっており、まじめに授業を受けているふり、をしている生徒の集まりだった。

しかし、櫻は違った。
「女性が女性たるゆえんを君たちはどう考えますか?坪井さん、いかがですか?」
辻がクラスでも美女の坪井なつみを指名した。
「私は女性は常に美しくあり、凛として、家のために尽くしていくことが女性たるゆえんだと考えます。」
周りの女子は、わー、などと感心している。

辻が続く
「では、坪井さん、女性は自立せず、家を守る傀儡ともいえますね。」
「え、ちが、、、います、、えと。。。」
坪井は答えられない。

櫻はその時考える。
私は、私の足で立つために帝都に上京したのだ。職業婦人になるために。。
女性は、女性とは、、、、、、、


辻がまた続く
「あなたたちに少しだけでも時間が余っているのであれば、今月創刊した『青踏』を読むといいでしょう。」
教室がざわめく。ざわざわざわざわ。

櫻は辻と話がしたかった。でも、ここで目立って敵を作ってはいけない。私は奨学生の身。。。。



放課後、辻がいる「フランス語研究室」をノックする櫻。
「3年葉組、江藤櫻です。失礼します。」
「おや、葉組の異色分子、江藤さん、ようこそおいでで」
「異色分子とは?」
「貴女の目を見ればわかりますよ。家庭に収まる淑女を目指していないことはね」
ハッとさせられた。いや、私の着物がおさがりなのがわかっているのか。
それとも、ほかの生徒の華やいだ雰囲気がまとっていないからなのか。
自分なりにこの学校に見合うように努めてきたというのに。
数度会っただけで、いや会うというより生徒として存在しただけの自分を見透かされていたのが、恐ろしくも、しかし反対にうれしかった。

うれしい、、、、その感情が沸き立つなど考えもしなかった。

「ドアを閉めましょう。変なことはしませんよ。しかし、何かと僕はお騒がせモノのようですからね。」
「はい」
櫻がそっとドアを閉め、ドアの前で立ち止まる。

「さてと、江藤さん、僕は近いうちに貴女が僕に接触することを予感していましたよ。だから、驚きません。といっても、そちらを驚かせてもよくありませんね。」

「いえ、、、、でも先生の言う通りかもしれません。私は先生から色々と教えていただきたいのです。」
櫻は自分が生徒である前に、一人の人間としてどうしても教えを請いたかった。

櫻はこの後、自分の名前がなぜ「櫻」であって本当の名前は「サク」であることを打ち明けることになる。
しおりを挟む

処理中です...