上 下
30 / 416
第二章 職業婦人見習い

13、先生の意地悪

しおりを挟む
「辻さま、さてディナーもデザートになりました。何か苦手なものがございましたらお知らせください。」
「そうですね、僕はいつも通りお任せで構いませんよ。ああ、櫻さんあなたは苦手な菓子などありますか?」
「私、洋菓子はいただいたことがないので、ぜひいただいてみたいです。」
「あなたの興味津々なところ、嫌いではありませんよ。では、彼女の分はおまかせにあとプレートを追加していいですか?」
プレート?と櫻は思ったが
「承知いたしました」
と給仕が返答をしたので、辻には慣れたメニューかもしれないと思った。

「先生、私、こんな経験していいんでしょうか。」
「ダメだなんて誰が決めたんですか?」
「だって、田中の者にも内緒で来ているのです。こんな贅沢、していいのでしょうか。」
「あなたにだって、贅沢をする権利はある。他にもですよ。学ぶ権利、職業選択の権利、自由恋愛の権利、あなたはいずれもお持ちです。」
「私、先生と出会わなかったら、卒業前に家を出てどうにか働こうと思ってました。」

その発言を聞くと、辻はふと目を伏せて、こう言った。
「あなたと出会うのをこのタイミングにしてくれた運命に感謝しなければなりませんね。あなたとこうやって楽しい時間を過ごせて、あなたを可愛がることもできる。」
「先生、可愛がるって私をからかうのはよしてください。。。」

その後、フルーツとクレープと言われるデザートが出てきて、それを櫻は味わった。辻はフルーツを、うまいうまいと食していた。

「さて、帰る前に、櫻さんのおめかしを元に戻さなくてはなりません。別室で着替えができますのでゆっくりお着替えください。」
櫻は女性の給仕に連れられ、着替えができる上品な部屋に通された。桜の着物と袴、下着が置いてある。
「ごゆっくりお着替えください。おわられましたら、そちらのベルを鳴らしてください。私共が参りますので。」
そう言うと、室内から出ていった。

(ああ、本当に終わってしまうんだわ。。。)
今日の1日の、いやデエトを思い返して感動を隠せない櫻はしばらく着替えられずにいた。

すると、ドアが急に開いて、辻が入ってきた。
「え!先生私着替えをするところなんです。お出になってください。」
「僕が着替えをお手伝い致しますよ。」
「ご冗談はおやめください。女性の着替えです。」
「でも、その洋装の下着は一人では脱げないものでは?」
そうだ、これはコルセットと言って先ほどの洋装店で後ろを締め上げられたのだ。
「先生はなんでもご存知なんですね。。。では女性の給仕の方を読んで来てください。」
「給仕はコルセットの脱ぎ方を知りませんよ。」
むむ、と言う表情で櫻は辻を見返した。

「では、コルセットを緩めるところまで、、、、お願いします。」
先生の前でドレスを脱ぐ。それだけでも恥ずかしすぎるのに。。。。
「先生、あまりよくみないでくださいな。。。コルセットの後ろをお願いします。」
すると、辻が手際よく、コルセットの紐を緩めていく。
「先生はずるい。。。」
「私は全部脱がしてしまいたいのを我慢しているんですよ。紳士ではありませんからね。。」

不意に後ろから抱きしめられた。
ギュッと強く。
「あなたの肌を感じます。僕を感じて欲しい。。。」

ドキドキが止まらない。。。
クラクラしてくる。

バタン!
櫻は倒れてしまった。
「櫻さん、大丈夫ですか?」
優しい辻の声が聞こえる。遠くで。
辻はベルを鳴らすと、入って来た給仕に「貧血のようだ」と伝言し、出ていった。

夢うつつの中で櫻は辻を感じていた。
しおりを挟む

処理中です...