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第十一章 櫻の冬休み

5、佐藤支店長の訪れ

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正月の3日ともなると、帰っていた弟子も望月家に戻ってきていた。
そんなある日、来訪者があった。

「櫻さん、お客様。」
テラスに呼ばれた。
「やあ、櫻さん。」
「佐藤支店長。あ、明けましておめでとうございます。」
「ああ、明けまして。」
「わざわざきて頂いて。」
「家族がいない正月は働いているより暇でね。」
「寒い中、大丈夫ですか?」
「うん。車できたしね。」

その様子を見たアグリは2人を書斎に映るように促した。

「望月さん、すまないね。気を使わせて。」
「いいんですよ。私は息子とトランプでもしてます。」

書斎で2人きりになった。
考えてみれば、2人きりで話すのは初めてだった。

「正月になるとね、次女がはしゃいでいたのをいつも思い出すんだよ。」
「あの、スペイン風邪の。。」
「ああ。あの子は本当に僕にとって太陽のような子供だった。」
「でも、長女さんも。」
「あの子はすぐにお嫁に行ってしまったからね。」

「私はね、櫻さんと親子になれる日を本当に楽しみにしているんだ。」
「でも、私の出は本当に良くないんです。」
「あなたと話してると、そんなことは関係ないと思うよ。あなたは元気な女学生だ。」

嬉しい。しかし、本当に養女に行けるかどうかなど話すことはできない。

トントン。
ドアがノックされた。
「すみません。私も混ぜてくださいな。」
アグリが入ってきた。
「息子が遊びに行ってしまって。2人きりのが良かったかしら?」
「いえ、望月さんにも聞いてほしいからね。」
「私、櫻さんが佐藤支店長のお嬢さんになること、本当に望んでるんです。」
「そう言っていただけるといいね。」
「だからこそ、心配にもなってしまうんです。」
「心配?」
「櫻さん、本当に苦労してきたから、、、。」

アグリが泣いてしまった。

「望月さん、安心してください。私はちゃんと養女に迎えますから。」
「わかってるんです。でも、本当に私にとって櫻さんは妹のような娘のような存在です。」
「櫻さん、あなたは本当にどこに行っても人を惹きつけますね。」

そういうと、佐藤支店長はコートを持って、立ち上がった。
「急にお邪魔しました。明日から百貨店なのでこの辺りで失礼します。」
「なんのお構いもできませんで。」
「いいんですよ。お二人に会えたのは良かった。」

そう言って、佐藤支店長は帰って行った。
櫻は自分の恵まれている状況をますます恐縮した。
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