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第十六章 最終学年

2、家庭を持つことと仕事

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省線の中で望月の小説に浸っていた10分間ののち、ある駅で親子が乗ってきた。

「お母さん、お母さん!」
「どうしたの?」
「いやだ、お母さんのお仕事行くの嫌だ。」
「だって、あなた預けられなくて。」
「座れないのも嫌だ!」

それを見て、櫻は咄嗟に声をかけた。
「あの、こちらの席宜しければ。」
「あ、すみません、でもあと二駅ですし、この子のためにもなりませんし」
「え?」
「仕事のために連れてきたんですけど、言うこと聞かなくて。」
「でも、座らせてあげたら治るかも。」
「それが当たり前になったら?」

親切をしたら怒られた。櫻は少しびっくりした。

「あのね、親切をしたと思ったでしょ?」
「ああ、そうですね。」
「仕事をするってそう言うことなの。」
「え?」
「子供を預かってくれる両親も近くにいないし、大富豪でもないしね。」
「すみません。」
「ああ、学生のあなたに言うことでもないんだけどね。」
「本当、すみません。」
「謝らないで。でも、職業婦人の生き方って結構大変。」
「でも、職場に大丈夫なんですか?」
「ああ、職場の近くには遠縁の親戚がいるからちょっと預かってもらおうとね。」
「でも、預かってもらえなかったら。。」
「休むしかないかも。」

その時、櫻は自分が職業婦人のいい面しか見ていなかったことを痛切に感じた。

「ね、そうでしょ?」
「え?」
「あなた、仕事憧れてそうな顔してる。」
「ああ、そうです。」
「でもね、私も仕事も家庭も大事。でも子供って本当に手がかかる。」
「でも後ろには赤ちゃんまで。」
「そう。無計画って思われるかもだけど。でも、どうしたら働きやすい世の中になるのかしらね。」
「私の先生が、未来は女性も社会を牛耳ってるって言ってました。」
「お天気さんな人ね。」
「お天気さん?」
「現実を見てないから言える。」
「そうじゃ。。。」
「そしたらね、あなたが子供を持って証明してみてね。」
「え?」
「女学生の後に、いつか職業婦人と両立して社会を変えてみて。」
「私に?」
「うん。初めて会うけど、あなた、違う気がする。」
「え?」
「私の愛読書の職業夫人に似てるわ。」
「まだ。学生ですが。。」
「うん。でも、こんなおばさんに物申すところ、大切にした方がいい。」

そういうと、目的の駅になったのか、子供二人を連れて降りていった。

櫻は一人残されて、自分の生き方を考えさせられるのであった。
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