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第十六章 最終学年

13、ノア先生との話

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その日、ノアがピアノの指導に来ることになっていたので、帰り道は寄り道せずに家に帰った。

家に帰るとノアが先に来ていた。

「ああ、ノア先生、待たせてしまって。」
櫻は恐縮した。
「いいんです。こちらのお菓子もいただいていましたから。」

どうやらスエが待っている間に、大福を出したらしい。

「日本のお菓子お好きなんですか?」
「はい、もちろん。」
「外国のお菓子もとっても美味しいですけど。」
「いいえ、日本のお菓子、とても体にいい。」
「体にいいんですか?」
「そう。大福は餅と大豆でできてる。外国のはバターで美味しいけど体に良くない。」
「よくないんですか?」
「太りすぎて、体が不自由になることがあります。」
「知りませんでした。」
「櫻は和菓子に詳しいと聞きました。」
「え?誰に?」
「ヨウスケに。」
「ああ、望月さんですね。」
「どうして?」
「私、東京に出てきた時、和菓子屋の叔父の家に住み込みで働きながら学校に通ったんです。」
「そうだったの。だから和菓子ね。」
「そうです。作れないけど、たくさん売りましたよ。」
「櫻は小さい頃からずいぶん働いたとジュンも言ってました。」
「そうですね。でも、それもいい経験だったとお思います。」
「櫻はなんでもプラスにできるビーナスですね。」
「ビーナスって?」
「女神です。フィレンチェにはビーナスの誕生という絵が飾ってあります。」
「素敵な絵なんですか?」
「それはもう。私は何度でも見ましたから、頭の中で細部まで思い出せます。」
「いいですね。私は絵画に造形がないものですから。」
「これから見ればいいのです。」
「そうでしょうか?」
「ノアの見立てだと、きっとキリスト教の絵画を櫻は気にいると思います。」
「え?」
「イタリアにはたくさんあります。もちろんフランスにも。」
「いつか、二つの国にも行ってみたいですね。」
「そうですね。でも、戦争がなくなってほしい、ノアはそう思います。」
「戦争はダメなことですよね。」
「はい。私は家族を失いました。」
「まだ、日本の土地で戦争は起きてません。」
「戦争になると、みんな目がおかしくなります。」
「目?」
「はい。だから、平和な日本に来て、幸せだけど、戦争をしようとする人がいると聞きまいした。」
「え?」
「政府の人。主人の関連で。だから、怖いです。」
「ノア先生、私、先生のない国を作りたいです。」
「櫻、あなたにはそれを先導できる力がある。だから師範になって、声を出してください。」

ノア先生はやっぱり会うたびに刺激的だと思った。櫻はそしてピアノのレッスンに入って行った。
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