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第十六章 最終学年

43、和枝の姉

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翌日の朝、和枝の姉家族がやってきた。

「和枝」
「あら、お姉さま。」
「そちらは?」
「学友の櫻さん。」
「ああ、佐藤さんのとこの方ね。」
「そう。」


和枝の主人と言われる男性は会釈をして、赤ちゃんを抱っこしたまま和枝の姉の後ろを歩き、家族で去っていった。


「和枝さん。」
「どうしたの?櫻さん?」
「あの、お姉さま、私失礼なことしたかしら?」
「ああ、気にしないで。」
「え?」
「あのね、ちょっと気になって。」
「ああ、ああいう人だから。」
「でも」
「ちょっと失礼なのよ。」
「そうなの?」
「うん。お父様は世継ぎとしてお姉さまを蝶よ花よで育てたから。私はいずれ嫁ぐからほったらかし。」
「それでもいいの?」
「うん。そういうものだしね。」
「和枝さんのこと、尊敬するわ。」
「櫻さん、優しいから。」
「え?」
「私ね、あなたがどんな過去を持っていても、好きよ。」
「。。。。」
「私、調べたりしない。噂もしない。だって今目の前にいる親友が櫻さんだもの。」
櫻は泣いてしまった。

「え!どうしちゃったの!」
和枝は驚いた。
「ううん。私、幸せなの。」
「どうして?」
「だって、和枝さんと親友になれたから。」
「私だって、こんなに深い友達できたの初めてよ。」
「え?」
「銀上ってつまらないなって思ってたの。でも本音を言える人初めて。」
「私、うまく色々言えなくてごめん。」
「いいのよ。だって、全部言えることが正しいことじゃないもの。」
「私、神様から幸せを戴きすぎてるかも。」
「櫻さん、神様信じてるの?」
「うーん。山神様をお祈りしてた。」
「ああ、秩父にいたっていってたわね。」
「でも、神様のこと信じないこともあった。」
「私も、神様、信じない時代があったわよ。」
「和枝さんも?」
「うん。でもね、いいの。」
「え?」
「今夜、櫻さんと女学生後の花火が見られるなんて素敵じゃない?」
「うん、私は初めての花火大会。」
「お互い、初めてが多いね。」
「うん。」

二人は笑い合った。
和枝づきの女中はそれを見て、密かに涙していた。
そして、二人は夜に向けて一度海岸の夜店などを見て回った。
浴衣の着心地はよく、和枝のものなのに、櫻が長年きていたもののようだった。
まるで、二人の魂がくっついたように、それは二人を引き合わせた。


金魚掬いを失敗した櫻は和枝から大笑いされたのであった。
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