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第十六章 最終学年

81、夕食にて

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その日の夕食の時、櫻は転校生の話を父親に話した。

「今日、転校生の方が来たんです。」
「ああ、最終学年の後半で大変だね。」
「とてもいい方でした。」
「どちらから来たのかな?」
「中国からだと。」
「そうか。日本もどんどん開かれていくね。」
「どういう意味ですか?」

父は少し考えた顔をして櫻に話しかけた。
「日本はこれから大きな国になるかもしれないんだ。」
「どういう意味ですか?」
「領地を広げるということだよ。」
「え?」
「だから、いろんなところに百貨店も広がるかもしれない。」
「それって、戦争で領地を広げるってことですか?」
「うん。その通りだ。」
「話し合いでは何とかならないんですか?」
「難しいだろうね。」
「でも、日本の鉄道技術とか学問のこととかそういうことでの融合だったら。」
「櫻、今まで世界は戦争によって領地を広げたんだよ。」
「知っていますが。」
「日本だってそうだ。江戸の世が来るまでは乱世だったからね。」
「どうして、江戸では一つの国にできたんですか?」
「徳川が考えた法律がうまく機能したんだよ。」
「でも虐げられた人はいたと。」
「桜が気にするのはわかるよ。貧しい人が苦しい思いをするのは許せないと。」
「なら、お父さん、なんで。」
「私が長くいたイギリスだってアメリカを領地にした。」
「メリケンの元にいた人は?」
「ああ、インディアンとして苦しんでる。」
「だったら、やっぱり間違ってます。」
「私だって、中国との戦争はあまり望んでいない。」
「だったら。」
「ただ、安心して欲しい。まだまだ当分先。それだけは言える。」
「え?」
「まだ中国に睨みを効かせてる国はたくさんあるからね。しかし、日本は朝鮮を手がかりに軍人は息巻いてる。」
「朝鮮の人たちは苦しんでないんですか?」
「櫻はどう思う?」
「私は占領だと思います。」
「でも、鉄道を弾いて、役所を建て、朝鮮の帝大を作ってるよ。」
「それは。。。」
「朝鮮からもたくさんの人が日本に来て日本人として働いている。」
「お父さんはどう思うんですか?」
「朝鮮出身だって、優秀な人だったらもちろん、辻百貨店では雇うよ。」


その言葉を聞いた時、櫻は少し落ち着いた。
父は単なる人種差別をする人ではない。
そうだ、自分は貧しい出なのに幼女に迎えてくれるじゃないか。

ということで、二人の夕食の会話はそこで戦争や中国の話はやめて、最近の百貨店の売れ筋などを聞いて楽しげに終わった。
櫻は政府がどう舵を切ろうとしていることが、どうしても心の底では不安に思っていた。
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