上 下
367 / 416
第十六章 最終学年

88、若葉の偵察

しおりを挟む
若葉は色々な手段を使い、大杉の行きつけのバーを調べ上げた。
探偵顔負けである。

行きつけのバーに着いた時、まだ大杉はいなかった。

数名の男女と、一人で来ている女性がいた。

30分くらいした頃、若葉は帰ろうか迷っていた。
そこへバーに大杉が入ってきた。
思わず、顔を伏せた。

わかっている。大杉は自分のことは知らない。
しかし、知り合ってしまってはいけない。

「やあ、待たせたね。」
「待つのは慣れてるわ。」

大杉の待ち合わせは職業婦人のようだった。
歳のころはまだ二十代のようだ。
パトロンではなさそうだ。
「君は仕事は大丈夫なのかい?」
「あら?そんな心配するの?」
「君からの仕事がなくなったら僕も食いっぱぐれるからね。」

どうやら女性の顔は見えないが、二人は恋仲のように感じた。

席も近かったので、二人の会話を聞くことに若葉はした。

「大杉さん、大丈夫?」
「何がだい?」
「警察関係。」
「大丈夫だし、大丈夫じゃない部分もある。」
「あなたって、いつもはぐらかす。」
「わかってるさ。でも事実だからね。」
「何が事実なの?」
「だから、その悩みさ。」
「どういうこと?」
「僕のことを興味あるのは警察だけじゃなくて、国だけじゃなくて、一般市民でもある。」
「含みがあるわね。」
「ああ、でも、人生は面白いよ。」
「本当?」
「君がいれば、安心だしね。」
「亭主みたいに言わないで。」
「僕が活動できてるのも、君のおかげさ。」
「でも、私だけじゃないのね。」
「うん。そのお通りさ。」
「隠すことも優しさよ。」
「それは嘘をつくってことさ。」
「嘘も優しければいいのよ。」
「嘘は大罪だよ。あとでバレた時、もっと傷をつける。」
「だったら最初の時点で傷をつけてもいいの?」
「君が僕が嘘つきだったらいいのかい?」
「うーん。知らなくてもいいことだったら、知らないで済みたい。」
「知らなくてもいい?」
「そう。知らなくてもいいことであったらね。」
「僕は嘘をつく意味はわからない。君のことは好きだし、それに対しても嘘はつかないさ。」


近くで会話を聞いていた若葉は二人の恋愛話に辟易した。
なんて陳腐な恋愛の会話を大杉はしているんだろう。
女性側が阿呆なのだろうか。


「しかし、カヨくんは文章に長けてるから、論争になると負けそうになるね。」
「負かそうとしてるんじゃないの。でも、若い子には手を出さないで。」
「君が心配してる相手は今度会うことになっている。」
「どういうこと?」
「辻くんと話したよ。今度会う。」
「なら、そこに私も連れて行って。」
「うーん。じゃあ、君が直接辻くんに聞いてくれよ。」
「わかったわ。」


どうやら、女性は辻とも知り合いらしかった。
それを聞いて、若葉はその女性の素性を調べることにした。
しおりを挟む

処理中です...