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第十六章 最終学年

111、WANDERING MAN

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翌日、櫻は熱が下がって、食欲もあったので女学校に行くことにした。

例の如く、玄関には望月が待っていた。

「もう大丈夫なの?」
「はい、知恵熱みたいなものなんで。」
「ああ、そういうことね。」

望月はそういうと、車まで二人は無言で移動した。

二人とも車に乗ると、ゆっくりと発進した。

「ねえ。」
「はい。」
「僕がいうのもなんだけど。」
「望月さんが?」
「あのさ、ダダ漏れしてるよ。」
「え?ダダ漏れ?」
「ダダイズムとは関係ないよ。」
「こんな時に冗談はよしてください。」
「あのさ、辻くんと何かあったでしょ。」
「え?」
「顔に書いてある。」
「占い師ですか?」
「まあね。アグリは分かりずらいけど、櫻くんは実に分かりやすい。」
「どうして?」
「僕は外道師だからかな。」
「わかる意味と何がわかるか知りたいです。」
「そこが櫻くんだよ。辻くんとうまくいかない時は顔に不安の想が出てる。」
「どんなふうに?」
「うーん。そこは企業秘密だからね。でもさ、辻くんにも伝わるよ。」
「あの、伝えました。」
「あちゃー。伝えたか。」
「悪いこととは知ってます。」
「どうして?じゃあ何で話したの?」
「不誠実な気がして。」
「それってさ、知らなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「隠せることで辻くんは幸せなままだったかも。」
「いや、もう先生も気が付いてたって。」
「ああ、辻くんも気が付いてたか。」
「だったら望月さんならどうすべきだったと思います?」
「僕ならね、不安を消すようなイベントをするよ。」
「え?」
「だからさ、第三者が入ったらややこしくなるんだよ。二人のいい思い出を積み重ねるんだ。」
「よく分かりません。」
「櫻くん、頭いいのに?」
「嘘つく方が、ダメだと思うから。」
「嘘じゃなくて、蓋をするというかね。」
「ふた?」
「大きな不安でも、大きな毛布で隠しておけば、忘れることもある。」
「私はもうはみ出してたんです。」
「あちゃー。そうか。」
「これ以上どうしろと?」
「じゃあさ、大杉くんとどうなりたいの?」
「え?知ってるんですか?」
「まあ、辻くんからじゃないけど。」
「誰ですか?」
「知人だよ。」
「じゃあ、その知人の方に言ってください。」
「何を?」
「私は大杉さんをきちんと知って、辻さんと向き合うって。」
「ああ、君は大杉くんの女性だって気が付いてるんだね。」
「はい。」
「君は上手だね。」
「はい?」
「まあいいよ。大杉くんをきちんと知って、辻くんと向き合うことは賛成だ。」

朝日が車の中を眩しくした。
櫻は目を細くした。
でもそれは眩しいからだけでなく、現実に目を細めたくなる話だったからである。
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