大杉緑とは俺様だ(完結)

有住葉月

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第4章 結婚して変わったこと

13、酔って帰ったサチ

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俺の名前は大杉緑。親父から活動をやめろと言われている。
とても、悔しい出来事だった。


親父と夕食を食べた後、俺は家に帰った。
夜の9時を過ぎてもサチは帰ってこなかった。

10時を回った頃、玄関に音がした。
「おい、サチ」
玄関のタタキでへたり込んでしまっている。

「どうした、体調、悪いのか?」
「ううん、ちょっとお酒がすぎたみたい。」
「とりあえず、布団へ行こう。」

サチを布団に寝かせた。洋服の作りがよくわからなかったので、そのまま。

「どうしたんだ。深酒なんて。」
「アフタヌーンティーの後に、行ける人でバーに行ったのよ。」
「こんな遅くに。」
「そうね。奥さんはそう言うことしないのよね。」
「いや、そう言う意味じゃ。」
「独身の時は自由だったのに、妻になると貞淑じゃなきゃいけないのよね。」
「そんなこと言いたいんじゃないよ。」
「そうね。あなたは自由だしね。」
「変な意味で言ってるんじゃないんだ。でも、君らしくないよ。」
「なんか、今日は優しいのね。」

言い返せなかった。そう、俺は結婚してからサチに優しくなかった。
「俺さ、親父に言われたよ。」
「何?」
「サチを幸せにしてから活動しろって。」
「お父様はわかってるわ。」
「何を?」
「活動することの危険を。」
「でも、君だってやってたじゃないか?」
「あの時とは随分変わってしまったのよ。」
「どう言う意味?」
「戦争はまた新しいのが始まりそうだし、貧富の差は広がるばかり。」
「だからこそ、俺は今の政府の考えもおかしいと思ってるんだ。」
「それって、重要なこと?」
「重要だよ。」
「そう。でもね。あなたの周りのいろんな人たちが不幸な目に遭ってからじゃ遅いのよ。」
「え?」
「私の家族のことを前に言ったけど、あなたの事務所の人も取引先の人も被害が出るかもしれないのよ。」
「俺は、そんなに大まっぴらに活動してないよ。」
「あなたの夢中になる性格知ってるから、言ってるの。」


サチからそう言われて、俺は思い返した。
夢中になると周りが見えないのだ。
でも、この時、自分の恵まれた境遇を逆に恨んだ。
伊藤のように煩わされない立場であることを羨ましいと思った。

「ねえ、約束して。」
「どうした?」
「私、あなたの一番じゃなくてもいい。でも私のこと、大切にして。」

この時のサチは切実な表情をしていた。
彼女に深酒をさせた原因は俺だ。

不甲斐ない自分を思いつつ、俺は眠りにつくまでサチのそばにいた。

と言うことで、今日はこの辺りで。さらばである。
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