華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

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宵と養母

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朝日が昇る前、まだ薄暗い時間。
三神 宵が使用人が開いた玄関を潜ると、その先には、養母が大欠伸をしながら立っていた。

宵は、彼女が話そうとしている議題について頭を巡らせた。
今、養父が手を出そうとしている投資についての苦言か、それとも他の用途の金の無心か。

しかし、彼女の口から飛び出してきたのは、予想の範疇はんちゅうを超えた。

「博弥の母親について聞かれたわ」

誰に、それは絹子にだろう。
宵は分かり切っていたが、思わず確認したくなった言葉を飲み込みうつむいた。

ここ数日、様子がおかしい妻の顔が、宵の脳裏に蘇った。
妻の顔を思い出すとき、今までは、美しいが冷たく、自分を嫌悪する顔だった。

でも、今はどうだ。

「……そうですか」

顔をあげ、養母に向き合った。
彼女は、やれやれ、という表情を作りながら、どこか楽しんでいるように見えた。

「貴方に聞きなさいと言っておいたわ」
「……」

養父には、外の子供が幾人かいる。
それを養母は、もちろん快く思っていない。「遺産の取り分が減る。ネズミが来る」と言っていた。

「それにしても、絹子さん……何かに取り憑かれたのかしら? お祓いでもしようかしら」
「必要ありません」

宵は、基本的に養母には好きにさせていた。
過去についてアレコレ詮索された時も、見てみぬふりをしていた。
何かのげんを担ぐ為に、アレコレ指示してくるのも、程々に流していたが。

今回は、とっさに否定の声が出た。

「あ、あと。あのピアノどうにかならないの?」
「……?」
「急に毎日弾き始めたのよ。しかも、とんでもなく下手になってるのよ。なのに、毎日、きっちり一時間、ヘタクソな音出してるわ。あんな騒音聞こえてくる間は、お客さん誰も呼べないじゃない」
「好きにさせてください」
宵の返答に、養母が肩を竦めた。
そして、軽く一礼して通り過ぎる宵の背中に、声をかけた。

「これから、どうするつもりなの?あの子の実家も貴方の援助で持ち直したんでしょ。使い物にならないなら、返してもいいんじゃない。病気みたいだし」
「……」
宵は、振り返らず、足だけを止めた。

運転手は気まずそうに、ドアを開いたまま宵を待って俯いている。

「もっといい話が来てるのよ」

養母が足を踏み出すと、宵も歩き出し車に乗り込んだ。
困惑する運転手を睨みつけ、自らドアを閉めた。

「早くしろ」
「はい! 申し訳ありません!」

運転手は飛び上がり、宵にも養母にもペコペコと頭を下げて運転席へ急いだ。

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