華族の悪役夫人に転生。復讐されないよう、家庭円満を目指します。

いんげん

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七五三お祝い

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 二人の七五三をお祝いすることになった。

 博弥さんは5歳、貴世実さんは、4歳。二人とも黒い紋付き袴姿で、とても凛々しい。同じ仕立てにしたのに、着る者によって印象は別だった。
 お祝い感が出ている貴世実さんと、お葬式みたいな博弥さん。どちらも目を惹く。
 
 それに、今日は宵さまも黒の袴姿だ。正直、家族の中で一番目立っている。命を狩りに来た、死神か。襲名披露に乗り込んできた組の刺客か。とにかく平和な空気がしない。モデル出身の9頭身のお体が、どんな服装も着こなしている。腰の位置が異次元だ。

 今日も私に刺さる。

「宵さま、今日も素敵ですね」
 頬に手を当てて、溜息をついた。
「……君は目がおかしい」
「いいえ、おかしくありません」
「見ろ、皆、怪異を見る目で見ている。君は、異形に捕まった哀れな麗人だ」
 七五三の参拝の為に、普段より人が多い。
 訪れた人々は、やってきた私たち家族をちらちらと眺めている。
 わかる。私も神が撮影で目の前に現れたら、ちらちら見るもん。
「いいえ、みな羨ましがっているのです。私にはわかります」
「……」
 宵さまが、遠い目をして口を噤んだ。
「父さま、良かったですね。母さまが特殊な嗜好をお持ちで」
 博弥さんが、ニヒルに笑った。
「兄さま、それはどういう意味ですか?」
「誰よりも優れている審美眼を持っているということですよ」
 私が答えると、宵さまは、顔を押さえて俯いた。

「ご存じでしょうが、貴方たちのお父様は、誰よりも働き者で、優しくて、素敵なのですよ。将来は、お父様を見習って、立派な大人になってくださいね。職業は何でも良いですけど、家族仲良くです」
 今のうちから、正しく教育していかなければ。
 もう、二人が宵さまに敵対すると思えないけれど、いつ私がどうなってもいいように、種をまいていかないと。
「僕、父様のような大人になって、母さまと結婚します」
「貴世実、母さまとは婚姻できない」
「えぇー!」
 二人が可愛い会話をしていると、妙な視線を感じて、そちらを向いた。神社の建物の陰に消える男性の後ろ姿。何となく見たことがあるような、ないような。
「もう、行くぞ……祈祷の時間だ」
「はい」

 神社の境内は、多くの家族連れでにぎわっている。
 それぞれの事情により、拝殿前で中へは入らず簡単に済ませる一家もいれば、玉串料を納め、中で本格的に祈祷を受ける家族もいる。私たちは、事前に使用人の手により手続きが済まされていた。恭しく、巫女さんがお迎えしてくれた。
 
 簡単に説明を受け、拝殿へ向かおうとしたところ、儀式を行ってくれる宮司さまが現れた。

「よろしくお願いします」
 宵さまに合わせて、私たちも頭を下げた。
「おやおや、これはまた――」
 日々の祝詞で鍛えられた宮司さまのお声が、良く通る。
 何かあるのかと頭を上げたら、ばっちりと目があった。宮司さまは、烏帽子に狩衣姿で、平安貴族みたいな服装だ。年のころは50くらいで、たぬきっぽい。そして、若干ふくよかなお体をしている。パッチリとした大きな目が、私を見透かすように眺めている。

「ちょっと失礼しますよ」
 私に近寄って来た宮司さまは、笏で口元を隠しながら、私の周りをぐるりと一周した。
「これは何とも奇怪な。そうですか、そうですか」
 物珍しいモノを見たような、好奇心を含んだ声色だ。

 な、なにかバレている?
 中身と、外身が違うことがバレている?
 私は、冷や汗をかきながら、誤魔化すように愛想笑いを浮かべている。

「あなた……」
「妻が何か?」
 宵さまが、私の前に一歩踏み出した。
「いいえ、ちょっと珍しいことになっているなぁと思いまして」
「どういう意味でしょうか」
「いや、それはまだ確証がないので。まぁ、とにかく七五三ですよね。参りましょう」
「……」

 ど、ドキドキが止まらない。
 宮司さま、絶対になにかピンと来ている気がする。それに、確証ってなに⁉

 動揺が収まらない私だったが、宮司さまが歩き出すと、博弥さんと貴世実さんが付いて歩き出した。
「絹子」
 大丈夫かと、肩に腕を回された。
「も、問題ありません!」
 非常に高い、焦った声が出た。宵さまの眉が盛大に顰められている。私は話題を切り上げるように、宵様から離れ歩き出した。

 そして、広い畳張りの拝殿の中へと上がった。
 神様は、この奥の本殿に祀られている。一番奥に仰々しい扉があり、私たちがすわったすぐ近くには太鼓が置かれている。
 博弥さんと、貴世実さんは太鼓に目が釘付けになっている。

 私たちが座り、落ち着くと、太鼓が鳴らされた。大きな音に、二人は目が覚めたような顔で喜んでいる。

 そして、宮司様が白い紙の束のような祭具を振り、祓詞はらいことばの奏上が始まった。

 宮司様の御声で、私はまるで心地よい眠りに苛まれ
 ――――
 ―――
 ――
 ―

 意識が召されていった。


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