1 / 14
よろしくね。
しおりを挟む僕らの出会いは、いつの頃だっただろうか?
そう…確か…あれは、15年前、小学生の頃だった。
「彼が来たんだ」
新学期早々に習っていた体操教室で、足を捻挫した僕は、母の心配性もあって新しいクラスになって一週間ほど学校を休んでいた。
僕の席はクラスの一番後ろの窓際だと聞いている。
そして、その隣は殆ど空席なはずだった。
その席の主は、いわゆる不登校とは、少し違う。
自由に登校する少年の席だ。
ひと学年2クラスしかないけど、4年生まで一緒になったことが無かった、不知火くん。
彼の席に、ビニール袋がかかっていた。
不知火くんは、みんなが布の上履き袋を使う中、学校で、ただ一人コンビのエイトイレブンの袋にビーチサンダルを入れてくる、とても変わった少年だった。
その席を見つめていると、前の席の上田くんが、立ち上がって僕に近寄り話しかけた。
「そうなんだよ!ツバメくん…アイツ去年は殆ど来なかったけど、このクラスになってから毎日来てるんだよ…」
「へぇ…そうなんだ…で、不知火くんは?」
「なんか…先生に呼び出されて行っちゃったよ……アイツなにやったんだろうね」
彼の問いに僕は、困ったように首をかしげた。
色々と、みんなと違う不知火くんは、完全に学校で浮いた存在だった。
別に彼の言動が荒っぽいとか、授業を妨害したりするわけではない。
ただ、とにかく周囲は怖がっているんだと思う。異質な存在を。
「…俺、最初の日に、隣の席の奴はどうしたって聞かれたんだ…ツバメくんって不知火と実は仲いいの?」
「…ううん…一言も話したこと無いけど…」
僕はランドセルの中から、教科書を取り出しながら答えた。
「そっか…あっ!」
上田くんが、教室の入り口から入ってくる不知火くんに気づくと、慌てて着席して前を向いた。
まだ肌寒い日も多い春なのに、Tシャツと短パン、さらにはビーチサンダル姿の不知火くんが歩いてくる。
「…」
この街で有名な彼のお父さん譲りの金髪の髪の毛がサラサラと揺れている。
剥き出しになっている手足は、真っ白で日本人の遺伝子とは違う。
不知火くんのお父様は、一年にひと季節くらい、この街に滞在するのだけど…とにかく目立つ。
2メートルくらいありそうな、大きな背に…ハリウッド映画のヒーローみたいな逆三角形の鋼の肉体。傷だらけの顔や腕。
田舎では見かけない、タトゥー。
買い物で見かけるお父様は、とにかく声が大きくて…カートを2台くらい満タンにして、買った荷物を担いで歩いている。
2年前…山から下りてきた熊が現れたとき、お父様が「AHAHAHAHaaaa!」と笑いながら戦い熊を生け捕りにした時は、街中の人々が戦慄した。
そして、不知火くんのお母さんも、変わった人だ。
女冒険家と名乗り、世界各国、日本中を飛び回っているらしい。
不知火くん自身も、とても変わっている。
海岸で一人、本格的な木の船を作っていたり…山に住む変わり者のお爺さんと木を切り倒して、丸太小屋を作っているとか…。
学校には、気が向くと登校するらしい…。
この頃登校しているのは、気が乗っているからなのだろうか?
僕は、席までやってきた不知火くんに向き合った。
「おはよう、不知火くん。木ノ下だよ、よろしくね」
微笑んで挨拶をすると、不知火くんは少し目を見張った。
アレ?遠目で見るより…なんか…凄く可愛い!
無造作に伸びた、長い前髪とおかっぱ頭が印象強くて、顔までちゃんと見てなかった。
「あぁ……」
ムスッと席に座った不知火くんからは、フローラルなボディソープの匂いがした。
勝手に不衛生なイメージあったけど…本物は違った。
罪悪感が胸に広がる。
「一学期は、ずっと一緒だね」
「……」
「ツバメって呼んでね」
僕のことを無視しているのか、不知火くんは机を睨んでいる。
「僕、一週間も休んでて…良くわからない事があったら教えてね」
不知火くんの細い肩に、そっと手を置いたら、彼の体がビクッと上がった。
熊を倒す男の子供は……華奢で可愛かった。
長い金色のまつ毛に縁取られた、濃い緑色の瞳。
筋の通った鼻。形の良い薄い唇。
今まで見たことないくらいの美少女だ。
僕の胸は、ドキンと高鳴った。
「……これ……出してないのは、俺たちだけだって」
美少女の口から出る、俺は…逆に可愛い。
不知火くんポケットから、ぐちゃぐちゃに畳まれたプリントが2枚出てきた。
カサカサと開いてみると…。
「4年2組 きぼうする係、アンケートか……ねぇ、不知火くん、一緒にやらない?」
僕は椅子を不知火くんに近づけた。
「……やだ」
不知火くんが、プイっと反対を向いた。
なんだろう…相手にされないのが、面白い。
今まで僕は、そこそこ裕福な家に生まれ、容姿にも恵まれ、運動も勉強も常にトップクラスで、クラスの中心だった。
誰に声をかけても、みんな喜んで応えてくれた。
「仕事は僕がやるよ。だからその間、お話しよう、ね、駄目かな」
不知火くんの握り締めた手に、僕の手を重ねた。
「………ふん!」
不知火くんが、僕の手を振り払って机の中からボールペンを取り出した。
みんなが決められた鉛筆を使うのに、ボールペンって…変わってる。
面白いかも。
不知火くんは、ボールペンで記名欄だけ記入すると、紙を僕の机に置いた。
「不知火くん……なにもやらないの?」
まぁ、クラスのみんなは、不知火くんが係をやる方が驚くだろうけど。
「……お前が……お前が…」
「?」
「お前が…勝手に書け!Underwood
!」
不知火くんが、教科書を出してソレに顔を埋めた。
それは…3年生の教科書だ。
「ふふ……そっか、アンダーウッドって木ノ下だからか!じゃあ書いて出しておくね」
可愛い!
これがテレビで言ってたツンデレ萌ってやつかなぁ?
凄く可愛い。
僕はクスクス笑いながら、二人分のプリントを書き込んだ。
二人っきりになれる役割は…。
22
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる