太陽と可哀想な男たち【BL】

いんげん

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公園にて……

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もう…それは、それは意気込んで出てきた。
アドレナリン大放出中の俺は、傘をさして走った。
電車に乗ってヒコさんちの最寄り駅で降りて、雨も収まってきたから傘を畳んでまた走った。
凄い豪雨だったせいか、歩行者は全然見当たらない。
真っ暗な夜道に溜まった雨水が街灯の光で仄かに光っている。

「そうだ…」

今から会いに行くって一方的にメッセージを送ってから、スマホを見ていない。
ヒコさん用事があったらどうしようか。
公園の前の道で立ち止まってスマホを取り出す。

「あっ…」

尻のポケットから部屋の鍵が落ちた。ニジイロクワガタのキーチャームがコンクリートの上でひっくりかえっている。
幸い水たまりに落ちることは避けられた。お辞儀するように手を伸ばして鍵を拾い上げようとした時…

ドゥルル……ビシャァァ

「うわああ……」

横の道を通った大型トラックが、車道の脇に溜まった雨水を巻き上げた。
俺に降り注ぐ大量の泥水。思わず飛び退いて逃げたけれど、水しぶきが大きすぎて逃げ切れなかった。

「嘘だろ…」

恐らく金髪の髪もドロドロだし…白いカブト虫Tシャツは泥水色に染まった。
黒のズボンは、今は汚れが目立たないだろうけど…乾いたら酷いだろう。

「ああぁぁ…もう……何なんだよ…」

昨日からヒコさんに告白する気、満々なのに…上手くいかない!
幾らなんでも…こんな格好で愛の告白なんて出来ないっつーの。

何だかぐったりした気分で…鍵もスマホもポケットにしまった。
ヒコさんの家にも行けないし…すぐに帰る気にもなれず…目の前の公園へと向かった。
豪雨のせいで、すこし水が溢れ気味の水道で、汚れたサンダルと足を水で流した。

「ぐちょぐちょする……」

足の水を切る為に近くのベンチに座った。

「あぁ~、ベンチ濡れてる……そりゃそうか……」

暗くてみえなかったけど、濡れていたベンチのせいで今度はパンツまで濡れた。
もう駄目…踏んだり蹴ったりだ。ちょっと泣けてくる。

「……くそぉぉ……あー!仕切り直し!今日のは無し!大丈夫、オッケイ。次がある」

ヤケクソになって、濡れたベンチに寝転んで自分の頬を叩いた。
雨雲が去ったあとの夜の空は、以外と星が出ていて綺麗だった。

「……綺麗じゃん」

うん、夏の夜空の下での告白もロマンチックで良いかもしれない。よし、明日ヒコさんを改めて誘おう。
何て言って気持ちを伝えたら良いだろうか?

ヒコさんのことを考えると、こんな最悪な状況でも楽しくなる。

スマホを取り出して、顔の上に掲げた。

『お前…今どこに居るんだ?』
『おい…いつも思うが…もうちょっと落ち着け…マメに連絡しろ……こっちがヒヤヒヤする』
『連絡しろ』

「あ…怒ってる…やべぇ」

起き上がってメッセージを入力する。寝転んだから背中の方までビショビショになった。
もう…ひでぇな…こんな姿で帰ると亮平も心配するだろうから、もうちょっと此処に居るか。
亮平が寝た頃に帰ろう。

『ごめん、ヒコさん。また明日にする』

メッセージを送ると、すぐにヒコさんから着信があった。
俺は、ちょっと躊躇ったけれど、画面をオフにして通話を始めた。

『おい…お前、今どこで何しているんだ?』
「ヒコさん…こんばんは!ごめん…ちょっと行く予定だったけど…今日は駄目になったから、明日にする」

泥水でベタベタと張り付いたテーシャツの胸元をつまみ上げてパタパタする。

『駄目になったって……何かあったのか?今、家にいるのか』
「そう、家にいるよ。ヒコさんは?」

こんなダサい姿で会いたくない。気は引けるけど嘘をついた。本当はヒコさんの家のすぐ近くの公園だけどね…。

『お前が…来るかと思ったからな……家を出て歩いている』

ギクリ!と体が震えた。
やべぇ…ヒコさんのマンション駅から徒歩五分…しかも駅に向かう道は…多分此処を通る。

「そうなの!?ごめんね……もうお家に戻って良いよ」

俺は見つかったらヤバいっと、ベンチから立ち上がって通りから見えない場所をキョロキョロと探した。
古ぼけたトイレが目に入った。お化けでも出そうな暗さだ…凄く気が引けるけれど、この際仕方ないからあの後ろに身を隠そう。

『……おい……お前近くにいるんだろ……』
電話越しのヒコさんの声が低くなった。こわっ…なんでバレたんだろう?

「いっ…いないよ。家だし」
コソコソとツツジの植え込みの横を通り抜けて、トイレの方に向かって歩く。

『……レオン……レオン!』
「…っ!!」

スマホから聞こえてくる大音量で音が割れた。
音で探す気か?ちょっと強引というか無理じゃない?

『俺は良く職務質問に遭う。このまま何度か叫んで通報されたら迎えに来てくれるんだよな…』

やっ…やくざだ…。あの雰囲気に似合いすぎている!

「ちょ…ちょっとまって…確かにヒコさんちの途中まで来たんだけど……今日はもう嫌なの…」

いつだって格好よくて可愛いレオンで居たいという健気な心を理解しろ…って無理か、状況を話してないからな。

『お前は……まったく……』

余りにも我が儘だっただろうか…嫌いになっちゃうかな…。
ヒコさんに嫌われたら…泣ける。

しょんぼり肩を落としながら、人影の無いトイレと木々の間へと体を滑り込ませた。
すると…そこには……先約が居て。

「うわあああ!」
「ひぃ!!」
『レオン!?』

へ…変態さんだった。
トイレの建物の壁に寄りかかって、下半身を露出した中年男性が…性器をしごいていた。

いや…俺…セフレ居たし…純情ぶるつもりは無いけど!これはビビった!
普通に怖い。だってなんで夜の雨上がりの公園でオナニーすんの!?見たくないのに、時が止まったように一瞬見入ってしまった…相手のそれに…。

「…うっ…」

気持ち悪い。
日常に現れる好きでも無い男の性器…凄い気持ち悪い。

「ぐっ…う…」

俺と目が合った変態が、逃げるでも無く……俺を見上げて激しく手を動かし始めた。
熱の籠もった目で見つめられ、背中に悪寒が走った。

「うっあああ…」

固まって動かなかった体に一気に力が戻った。でも…足が震える。
思い通りに動かない足を必死に動かして走り始めた。

「ひっ…ヒコさん!ヒコさん!!」

叫ぶようにヒコさんの名前を呼びながら、公園の出口へと急ぐ。
後ろから変態が追って来ている気がして怖くて怖くて仕方ない。
手に持っていたはずのスマホはいつの間にか無くなっていた。

「レオン!!」

俺の叫び声が聞こえたのか、公園の外からヒコさんが駆け込んで来た。
その姿を見て、全身の血が下がったみたいな感覚になって、俺の足は止まって躓いた。
地面に衝突した膝が痛かったけど…今はそれどころじゃない。

「レオン!」

駆け寄ってきたヒコさんが、膝立ちになった俺を強く抱きしめた。

「どうした……何があった!お前……」

腕の中に居る俺を見下ろしたヒコさんの表情が曇る。
切れ長の目はいつもより鋭く細い。眉間の皺も深く刻まれている。

「……」

頭の中が混乱して、言葉が出ない。
かっこ悪い。俺…凄いかっこ悪い。一人で大騒ぎしてこんな所まで来て、ちょっと変態に遭っただけで、こんなに怖くなって逃げ出して……泥まみれで…。
我慢しようと思うけれど…涙が出てくる。
泣いているダサい姿を見られたくなくて…でも、ヒコさんが汚れるのも嫌で…体を離して俯いて、腕で顔を隠す。

「…レオン……もう大丈夫だ……何があった…」

ヒコさんは優しい声で俺の背中に手を当てた。体を傾けて顔を覗き込まれる。
腕の間から見える心配そうなヒコさんの顔が、俺の涙腺を崩壊させる。

「……うぅ……く…」

歯を食いしばって涙を堪えると、喉が引きつる。手の震えが止まらない。
喋ろうとすると…嗚咽が止まらなくて……ひんひん言ってしゃがみ込んでいる俺をヒコさんは背中を撫でて待ってくれた。
時より周囲を鋭い目で見回しながら…。


時間が経って…気持ちが落ち着いたけど……もう恥ずかしすぎてすぐに家に逃げ帰りたかった。

「……あっ……スマホ……無くした…」
「…あそこに落ちているぞ……取ってくる」

俺が走ってきた方向を指さしたヒコさんが、腰を上げようとしたのを、つい縋り付いて止めてしまった。

「……」

シャツを握りしめる指を優しく外されて…ヒコさんが俺の前にしゃがんだ。

「ほら……お前のベンツだろ…」

俺が捻挫した時の言葉だ。

「ヒコさぁぁん」

俺は、大きなヒコさんの背中に飛び込んだ。
ヒコさんは、ぐっと足を踏ん張って、ふらつく事もなく立ち上がった。

あっ……そうだ…俺、今泥だらけだったんだ。申し訳ないけど……もう離れたくなくて、ヒコさんの首に腕を回してギュッと抱きついた。
ヒコさんの広い背中と、太い腕…安心する香りにホッとする。思わず後頭部に頬を擦り寄せた。

ヒコさんは、男一人背負っているのに、少しもふらつかない足取りで前へ進む。

「……よっ……」

俺をおんぶしたまま、スマホを拾い上げるって凄い…。
そして、ソレは半袖シャツの胸ポケットへとしまわれた。

「とりあえず、うちに行くぞ……いいか?」
「うん」





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