運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん

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恋のキューピット

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「はぁ…」

昨日は結局、佐藤は電話に出てくれなかった。
怒っているんだ。
あの優しい佐藤を怒らせてしまった。
僕は今まで恋人なんていなかったから、実際に喧嘩をしたらどうやって謝って良いか分からない。
ただ、会わないとって思って、佐藤に会いに来たんだ。

早瀬さんに自宅を聞いてやってきた。
初めて佐藤の住処を訪れる。
教えて貰った住所は此処なんだけど…。

「結構都内の良い場所…山手線の円の中じゃん…」
探してみてもアパートとか宿とかないよ。
有るのは新しくて大きい高級な感じのビル?ホテル?いや、これはマンション??
敷地も広くてグーグル先生がいう住所は此処だと思う。密集していれば、どこかなぁと思うけど…。この住所はここに間違いないと思うけど…。
早瀬さん間違えたな。あんな優秀な人でも間違えるのか。

「どうしよう…」
エントランスの前でウロウロしていて通報されないかなぁ…。
「あれ?君…」
中から人が出てきた。
佐藤と同じようなガテン体系のラフな格好の男性だ。
失礼だけど、ここに住んでいるのかと思う。
「僕ですか?」
「そう!その可愛い顔、間違いない!親方のお稚児さんでしょ?現場から親方を拉致っていった」
「はぁ??お稚児さん??」
なんだそれ?っというか親方って佐藤の事か!
確かに両親と会うときに佐藤の現場で待ち合わせたけど…
「あっ、今はパパ活とかいうの?愛人?援助交際?」
それって全部金銭関係の交際では…。なぜ…。
「僕は、彼と婚約している者です…」
佐藤に許して貰えたら…結婚するし。
確かに親子くらい離れてるし、焼き肉屋でも店員さんに素敵な親子ですねって言われたことある。佐藤が地味に凹んでた。

「えええ!?そうなの?すげーな、親方。こんな若くて可愛いΩの奥さん!うらやましい!さすが親方だぜ」
おぉ…佐藤、部下からの信頼は獲得している。
できる男なんだな。
「あの…彼の住まいは此処で合ってます?こんな凄い所に住んでいるんですか?」
だってめちゃくちゃ高そうなマンションだよ!?
無理でしょ、家賃払えないでしょ…

ま…まさか… 脱税…。
佐藤、脱税しているの!?

「あぁ、すげーよな、天下の佐藤建設!俺たち現場の下々のものでも優秀だったり、長く真面目に努めていると格安でこんなところ貸してくれるんだぜ。親方もここに住んでるぜ」
そうだったのか…佐藤は佐藤建設の親戚だし、下請けしているんだもんね…
「アポ無しで来ちゃったんですけど、今日って現場は?」
「今日はもう午前でバラして終わったけど、親方ここ数日、なんか大工の仕事みたいなこと始めて、色んな打ち合わせとかで抜けてたし忙しいみたいだぜ。そうか親方結婚決まって仕事張り切ってんだなぁ!」
「そうですか…」

佐藤忙しいのか。いや、いつも忙しそうだけど…。
たまに夜中にふと目が覚めると、何やら仕事してるもんね…。
さらに大工さんまで始めて健康は大丈夫なのかな?

「あっ、親方だ」
「っ!」
謝るつもりで来たけど、いざとなると緊張する。
ギギギと後ろを振り返ると、いつも通り作業着姿の佐藤がやって来た。
「おい、青田!まさかウチの嫁をナンパしてるんじゃねーだろうな」

佐藤が青田と呼ばれた人を鋭い目で睨む。
なにそれ、カッコいい。
トキメキとんとんとん。

「勘弁してくださいよ、親方!俺らβをこんな上等のオメガが相手してくれるわけ無いっすよ。腐ってもαの親方じゃないと」
「なんだそりゃ」
佐藤、仕事の人と仲いいんだなぁ。
すごいなぁ。
僕働いて半年だけど、まだ一緒に働いているパートのお姉さまがたに、からかわれて遊ばれているだけで、打ち解ける所まで来ていない。
なんだかんだ兄さん達とも電話で、難しい話で盛り上がってたりして、すっかり懐に入ってるし…。
佐藤のコミュニケーション能力、本当に感心する。

「じゃ、台が呼んでるんで、俺行くっす」
青田さんが右手をひねる謎の動きをしている。
台??
「あんまり注ぎ込むなよ。今月はもう貸さねーぞ」
「大丈夫っす!親方たちのご祝儀も稼いで来るんで」
青田さんが笑いながら立ち去って行った。佐藤がしょうがねーなぁと笑っている。
え?これから仕事?

「あいつに付きあってパチンコ行ったら、千歳にまた会えたから、あんなアホでも恋のキューピットなんだぜ、笑っちまうよな」
佐藤が笑ってる。
あれ??佐藤、全然怒ってない!?
うそ!
良いの?僕、許されたの?
大人の包容力で!?

「で、どうしたんだ千歳、こんな所で」
佐藤がいつもの、ちょっとはにかんだ笑顔を僕に向けた。

あぁ、いつもの佐藤だあぁ!
良かった!良かったようぅ!

僕は嬉しくって佐藤の胸にダイブした。

「佐藤に会いに来たに決まってる!!」
大好きな佐藤の厚い胸板に顔を擦り付ける。
「っ!…千歳…」
好き、好き!
全部ひっくるめて佐藤がまるまる大好き。
キューピット青田ありがとう!

今日も仲直りできたし、筋肉天使!

「来るなら言ってくれたら迎えに行ったぜ」
佐藤が僕の頭を抱きしめながら言った。
「だって、佐藤、昨日から全然連絡返してくれなかったから…」
「あ?」
佐藤が僕を離して作業着をあっちこっち叩いて携帯を探す。作業着ってポケットがいっぱいあるよね。

何とか見つけた佐藤がガラケーを取り出す。
「おぉ!悪い!!何でサイレントモードなんだ、今日は朝からバタバタしてて、悪かったな」
無視されてたんじゃなかったのか!
良かったよう!本当に泣きそう…。
「まぁ、とにかく上がっていけよ」
「うん!」


佐藤の部屋はすぐ出かけられるという理由で一階を選んだらしい。
玄関も広いしピカピカだし、部屋も…いち、にー、さん、えっ4LDK!?
嘘だろ!
「すごいね、佐藤建設…。こんな部屋に住めるんだ」
知らなかった、建設業って僕が思っているよりもバブリーなんだ…下請けまでいい部屋貸してくれるんだ。
「ありがとよ」
さすが佐藤の親戚!

僕は佐藤の部屋をキョロキョロみて回る。
かなり綺麗に整っている。
インテリアとか殆ど無くて、シンプルに生活しているみたい。
床には何も落ちてないし、綺麗なものだ。
「佐藤!すごい!トースターあるじゃん!食パン焼いて食べられるじゃん!佐藤、金持ちふー」
仲直りでテンション上がっているよ、僕。
食パンやけるし、グラタン作れる。冷蔵庫も大きい!
この棚開けたらカップやきそば特盛りがでてくるのかな。
「…千歳……自分で言うのもなんだが、佐藤三郎太の嫁だぞ、食パン焼けるくらいで喜ぶか……もっとデカイ願望は無いのか?」
えっ、なに?
佐藤ってば、出世願望あるの?

島村耕一漫画みたいに?
天下とったるど!みたいな?
それで、また大工の仕事も始めたの?

「デカイ願望?そんなの佐藤と一緒にいられればいいよ。佐藤の健康が一番だよ!」
良かったよ、浮気だと思われて別れることにならなくて!
それだけで、嬉しい。
あれ?
佐藤が突然しゃがみこんで下向いたぞ。
まずい、年寄り扱いしたみたいになったかな?
「……天使か」

「ねー佐藤。新生活、この部屋で十分じゃない?」
改めて見ても豪華なお部屋だ。
ごめん。トイレフロ共同の日雇いの宿とか思って。
この部屋で最高に暮らせるじゃないか。
佐藤がガバッと立ち上がった。
「いや、新しい場所で新生活を始めよう!もう俺はその気になって走り出している。ここじゃ駄目だ」
「……」

まさかやっぱり…脱税!?
この家に裏金が隠されているの??
ちらちらと周りを見回す。
「っ!?」
目に入ったものに衝撃を受けた!
これは…。

「佐藤!!これ!」
手にとった写真たてには、佐藤のいとこの写真が入っていた。
今回はサングラスなしのバージョンで硬い印象のスーツ姿。
やばい…また勝手に胸がキュンキュンと…駄目なのに…。
「あぁ、それな。早瀬に頼まれて社長ごっこして佐藤建設のPR写真撮らされたやつな」
社長ごっこ…
ん?
え?
どういうこと?
「昨日は俺のスーツ姿の写真でお前があれしてて、流石にやばかったぜ。スーツ萌ってやつか?」
んん?
あれ、佐藤だったの?
え?社長ごっこ?
はい?
「…これホントに佐藤?」
「あ?当たり前だろ?ヒデーな」
えっ?
これもあれも佐藤本人?

うそ?
なーんだ、もともと浮気じゃないじゃん!!
トキメキ、正常運転じゃん!
昨日からの、悩んでいた時間を返せ!

僕は、ヘラヘラ笑う佐藤の割れた腹筋にゴスっとパンチを食らわす。
「いてぇ!なんだどうした?」
そうか佐藤建設の社長は、まぁあぁ佐藤に似ていて、忙しいし佐藤のほうがカッコいいから、社長のかわりにモデルしてたのかな?
「佐藤がかっこいいのが悪い!」
もう一度、佐藤のお腹にゴスっとパンチをする。
まったく、紛らわしい事するんだから!
「よせやい。照れるだろ」
佐藤がニヤニヤしながら顎の無精髭を掻いている。

「それより、これ見てくれよ」
佐藤が、一台の大きいタブレットをテーブルから取ってきた。
リビングにはデスクトップにノートパソコン、タブレット、佐藤の家電子機器多いな、機械詳しいって本当だったんだ。
「建てる家の大まかな案を考えたんだが、見てくれよ!」
あぁ、さっきキューピット青田が言っていた大工の仕事ね!
佐藤の仕事興味ある!見ていいなら見たい!
「まず、子供が3人くらい産まれても良いように子供部屋3つだろう?夫婦のデカイ寝室に、デカイ風呂と、シャワールームに、アイランドキッチンだろ、シアタールームにもなるプレイルームと、なんとなく地下室とか欲しいよな。」
凄いお金持ちの家を建てることになったんだ。凄いなぁ佐藤。
「それにでけぇガレージと、二階まで吹き抜けるガラス張りのリビング。プールは微妙だよな。2ヶ月くらいしか使わねぇから、子供は海連れてきゃ良いだろ?どう思う?スプリンクラーとか設置するか」
どう思う、って言われても。
別世界だなと思う。掃除大変そうだし。
でも別世界として楽しんで見れば面白いかも。
「玄関は広くてベビーカーとか置けて、荷物も置けるスペース作らねぇとなぁ。場所はどうする?南麻布とか松濤辺り探してるけど」
「高級住宅街なんて歩いたことも無いよ」
僕の貧困なイメージだと高そうな小型犬をつれたマダムが歩いていて、ベンツとか高級外車がすれ違う街みたいな?
犬の首輪もシャネルですの、ほほほほ的な。
ウチもそこそこ裕福だったけど、ギリギリ東京で僕は勉強嫌いだから公立学校行ってたから、THE庶民なんだ。
「じゃあ今度見学に行ってみるか?」
社会科見学だね!

高級住宅街を歩いて、お金持ちの匂いを嗅ぐ!
それで、カフェとか入ってコーヒーが一杯1000円とかで、エイトイレブンで良いじゃんとかなるやつ!
僕ら二人が高級住宅街歩く絵面は場違い極まりないけど、佐藤と歩いていると、きっと工事にきた業者と思われるかなぁ?
おもしろそう、よし、ワークメンでつなぎ買おう!

「うん、行く!面白そう。」


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