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佐藤が安全なホテルをつくりたくなる話
後ろから誰かに抱きつかれた。
僕よりも大きな男。相手の右腕が僕の首に、左腕が腹部にまわされている。
僕のお尻から腰のあたりに、男の股間が押しつけられているのだけれど……気持ち悪い……勃起している!?
怖い
誰も居るはず無い部屋に居た男
そいつが僕を拘束して興奮している…。
恐怖で声も出ない。
こんな時、大きな声をあげたり、逃げたりすれば良いのかもしれないけど……
ただ、ただ怖かった。
「おかえり。千歳くん。待ってたよ」
男が僕の頭に顔をすり寄せてきた。
この男、多分…αだ!α性薄そうだけど…。
どうしよう…今…首輪していない。
「ちょっと侵入するのに手間取ったけど、千歳君と番になるのは僕だから…頑張ったんだよ…」
男が僕の項に、ふっと息を吹きかけた。
「やっ!!離せ!!」
本能的な嫌悪感にかられて、やっと声が出た。
なんとか体を動かして相手の拘束から逃れた。簡単に抜けられたってことは、離す気があったんだ…。
相手の顔が見えたが、誰だか分からない。
αらしく背が高く、小綺麗な顔をしているが、最近は凄い人ばかり見ていたせいか印象が薄い。
長くも無く短くも無い髪、あっさりとした顔。
一見これといった特徴の無い万人受けしそうな好青年だ。
よく犯罪を起こした人の周りのひとが、犯人は普段、いい人そうな人だったというが……
「だれ??」
記憶が無い。職場にも、高校の同級生にも…居なかったと思う。
「君は僕の事知らないけど、僕は毎日見ていたよ」
男がテレビのリモコンを手に取り、ピッとテレビをつけた。
隙を見て逃げ出したいけれど、出口は男の方で、まともに行ったら捕まるだけだ…。
テレビがついて、レポーターが写った。
帝都ホテルが映し出されている。
『あと30分ほどで、佐藤建設の佐藤氏の会見が始まる予定です。会見が始まり次第中継いたします。』
テレビには佐藤の過去の写真が写っている。
佐藤…助けて…
「君の運命の番は、モテるよね。僕の雇い主も彼に夢中なんだ。だから、君たちがまだ本当の番になっていない事を知って、僕に命令したんだ。君のことを番にしろって。」
「……番って…人に命令されてなるものじゃ……」
なんでそんな事しようとするんだろう??
確かにαとΩの番の制度は、絶対的にαの優位だ。
Ωはαが居なくなったら困るけど、αにとっては何ともない。
発情抑制剤を飲みつづければ良いけど、薬だって長年服用すれば無害じゃ無い。
うっかりすることもある。
番が居ればΩは助かるけど、相手に縛られるのもまた真実。
その相手にしか発情しなくなるんだから…発情して相手にされなかったら地獄だ。
本当に不公平だ。
ただ、お互いに愛する人と番になるならば、こんなに幸せなことは無い。
「僕、雇い主に借金があるんだよ。だから、逆らえないし、可愛い性奴隷が手に入るくらいの気持ちで、君のこと見ていたんだけど、君いつもドタバタしてて一生懸命で面白いし、すっかりはまっちゃってね……本当に欲しくなっちゃったんだ。」
この男、最低だ!
人を何だと思っているんだ!?
気持ち悪い!!
何も考えないで、すぐ欲しいと思ったものに手を出すから借金だってあるに違いない!
「僕は、あんたなんかと番にならない!まっとうに働いて借金かえして、ちゃんと好きになって貰えるひとと付き合えよ!」
僕は叫びながら男と距離を取った。
何とかして、この部屋から抜け出したい。
「項噛んで番になったら、この男の事も忘れて、僕の事を好きになるよ。」
男がテレビを指さして、ゆっくりと近づいてくる。
ニヤニヤ笑いながら。
あぁ、この男も結局Ωを差別している。
Ωなんて番になれば、αに惚れて尻尾振るとでも思って居るんだ…。
「僕、Ωとのセックスは大好きだよ。直ぐに気持ちよくしてあげるよ」
許せない!
この男何様なんだ!?どれだけ自信あるの!
僕は佐藤としかしたことないけど!佐藤としかしたいと思わない!
「あんたなんかと、したくない!!この独りよがり!お前みたいなのが居るから、いつまで経ってもΩも女性も暮らしにくいんだ!!」
手近にあった硬そうなティシュケースを投げた。
それは男には当たらず、むなしく床に落ちた。
「Ωがαに勝てるわけないだろ。ベッドでいやいや鳴かれるのは好きだけどね…」
さっきまでの恐怖が、強い怒りと闘争心になっている。
喧嘩なんて一度もしたこと無いし、勝てると思って居るわけじゃないけど!
ぜったいこの男には屈したくない!
「お前なんか、全世界のΩと女性の為に、僕が倒す!!」
怒りに震えて相手を指さす。
何か武器は無いかと、ちらっと周り見渡す。
テレビは佐藤の画像から、外のレポーターの中継になった。
なんだか騒がしくて何かあったみたい……。
「うわあぁ!!」
一瞬、注意がそれている間に男が僕の目の前までやってきて、突き飛ばされた。
対して防御もできず、床に倒されて右の肘がしびれている。
「うぅ……」
その間に男が馬乗りになってきた。
殴られる!?
目をつぶり歯を食いしばったが、衝撃が来ない。
「さっきまでの威勢はどうしたの?怖いんでしょ?」
男が僕を征服した気になってニヤニヤ笑っている。
くそっ!!
何とか抵抗したくて、暴れるけど、びくともしない。
悔しい!!悔しい! 恐怖じゃ無くて悔しくて涙がでる。
「大人しくしていれば、優しくしてあげるよ」
男が僕の顔に、自分の顔を寄せてきた。
ゴン!!
「……っ!?」
「……うう…」
男の顔に思いっきり頭突きした。
凄い痛い!目の前に星がきらめいた。シューティングスターだ。
丁度男の眉間に入ったみたいで、奴は僕の上からおりて悶絶している。
勝った??
僕勝った!!!
「ぷはははは」
「!?」
突然、出口の方から笑い声が聞こえた。
嘘…まだ仲間が居たの!?黒幕の上司ってひと??
僕は頭を押さえながら、よろよろと後退してポケットのスマホを探った。
「まって、まって。俺はその男の仲間じゃ無いよ。ちょっとばかり追われてて、たしか佐藤三郎太の部屋だったはずだから、無人かなっと思って入ったんだけど……」
現れた男は、帝都ホテルの従業員の格好をしていた。
帽子を目深にかぶっていて大きな黒縁眼鏡をかけていて顔がよくわからない。
すらりとした長身なのは分かるけど…。
追われているって…きっと本当の従業員じゃないし…オートロックのホテルの部屋に音もなく侵入するなんて……。
「…ホテルって全然安全じゃ無い!!」
「あははは、まぁ確かにね」
従業員の格好をした男がフラフラッと此方に歩いてくる。
僕は、再び後退する。
彼は踊るように足を上げたと思ったら、僕を襲って今眉間を押さえて蹲る男を蹴り倒した。
「うわ…」
そんなに凄く強く蹴ったように見えなかったのに、男が飛ばされた。
顔から着地してお尻を突き上げるように倒れている。い…生きてる??
あっ…なんかピクピク動いてるから大丈夫そう…。
僕…改めて、危機??
「大丈夫だって。何もしないよ。ははは…君、凄く格好いいね」
眼鏡の男は、蹴り倒した男の服を脱がせて、今度は、自分の従業員服を脱ぎだした…
一体何をするつもりなんだろ?
今のうちに佐藤にメールを送信した。
一言、助けてと。
「今ね、そのテレビでやってるんだけど、ちょっと追われててね」
男に指さされたテレビを見る。
オークションの目玉、2億相当のピンクダイアモンドの指輪盗まれる。
「まさか!?泥棒??」
「ピンポーン」
今度は堂々とスマホを取り出して、警察に…
「ちょっとまってぇ。この男起こしてもいいんだよ。こんな男の番になりたくないでしょ??それに、俺泥棒だけど、悪い奴からしか奪わない信念あるんだよ」
「そんなの、言い訳にならないよ!泥棒は泥棒!」
眼鏡男は話している間に、倒した男の服を着ている。
帽子を取ったら、顔全体が見えるようになった。
なんだろう…シュッとした小顔であっさり、切れ長の目の、しょうゆ顔なんだけど、格好いいと、特徴的な顔の絶妙なラインだ。
凄く味わいのある格好良さでもあり、うっかりすると崩れているようでもある。
はまると深そうな沼だ。
「千歳くんだっけ?きっと今まで周囲に大切にされてきたんだろうね。すごくのびのびしていて可愛いし面白い。でもね、今回はたまたま上手くいったけど、世の中は怖ーいことが沢山あるんだよ。周りの人を悲しませない為に、やんちゃしすぎないようにね」
男が僕の目の前までやって来た。
「じゃあ、ちょっとこれ預かっててね。後で引き取りに行くから。誰かに話したら……怖ーいことが起きちゃうよ」
僕のズボンのホックが外されて、パンツの中に何か入れられた。
「えっ!?ちょとなに!?」
僕のパンツの中に硬い何かが入ってきた!
「今、取ってきた指輪。君ならボディーチェックもされないし、きっと金属探知機とかもされないよ。助けてあげたんだから、それ外に持ち出すの手伝ってね」
それって泥棒の手助けをさせられちゃうんじゃない!?
嫌だ!絶対に!でも、怖いことってなに!?
「2億円なんてもの怖くて持っていられない!」
パンツの中に手を入れようとしたけど…。
「またまたぁ、佐藤三郎太の嫁でしょ。総資産40億は下らないでしょ」
「そうなの!?40億っていくら??」
「……まぁ、とにかく、それ以上騒ぐならお尻に入れるよ…」
僕はブンブン頭を振った。
それは絶対に嫌だ!!
「それに、もう仲間でしょ。何て警察にいうの?佐藤建設も痛くない腹を探られるよ。たかだか2億の指輪の為に。それじゃあ、よろしくね千歳くん。そろそろダーリンがくるからね」
「ちょっと!まって!こんなの困る!!」
追いかけようと思ったけど、パンツの中がゴロゴロして気になって気になって……
今日はスーツにラインが出ないようにぴったりとした奴履いてるから余計に……
気がついたら男が消えていた。
どうしよう…
困った…
指輪捨てようか…
この倒れている男のポケットに入れてやろうか…
いや、さすがにそれは…
とりあえず、佐藤が来る前にパンツから出そう。
チャックを下ろして…
「千歳!!!」
「ふぁああ!!」
佐藤が大きな声で部屋に乗り込んで来て、びっくりして床に倒れ込んだ。
思いっきりお尻打った!
痛い!!
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