運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話

いんげん

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豪邸編 前編


□□  豪邸編 前編 □□□ 

「見て、石川くん」 
午前の仕事を終え、仕事仲間で、エンペラー佐藤を追いかける同志、富山さんと、なぜかいつの間にか同志となった細川さんと休憩室でお弁当を食べている。 
早々とお弁当を食べ終えた富山さんが、月間雑誌【お前だけのアルファ】を取り出した。
ペラペラと数ページめくった後で開かれたページには…

「えっ……なんですか?」
三連でお買い得だったハムを挟んで作ったサンドイッチを頬張りながら、富山さんがお弁当箱の横においてくれた雑誌に目を向ける。
「エンペラー、十億の城がついに完成? はぁ?」
驚きでつい手に力が入ると、賞味期限が二日ほど切れてパサパサだった食パンサンドイッチが、前と後ろに分かれて花開いた。
「さすがよね、エンペラー佐藤。美術館で奇跡的にお会いした後、こんな只のおばちゃんに、わざわざお見舞いの品まで送ってくれる優しさ・・・もう、いまでは私もすっかりエンペラー担当」
細川さんが、干し芋を握りしめながら頬を染めている。
「送られてきたお菓子の箱・・・まだ捨てられないもの」
何やら、お二人が思い出にふけっていらっしゃるけれど、僕はそれどころじゃない。

なんていい加減な記事なのだ。
佐藤は仕事で家を建てたのであって、僕らの住む家ではない。
この記事を読む限りだと、まるで佐藤の私邸みたいじゃないか。

「この雑誌、嘘ですよ。僕たち十億の家なんて建設してません」
サンドイッチのパンを、ぎゅっぎゅとくっつけながら言った。

「あらあら、石川くんはエンペラーとマンション暮らし設定だものね」
富山さんが、微笑んでいる。

「いや、設定じゃなくて。真実にマンション暮らしです」
最近、片付けに目覚めた佐藤が、不要なものを中古買取に出しているけど……断じて豪邸に引っ越してなどいない。
というか、モフハウスで三千円になったぜって喜んで、駅前の鯛焼き買うやつが、十億の家は建てないでしょ。 
「でも、ほら、もう出来たみたいだし、そろそろ設定をアップグレードの時期じゃないかしら」 
「そうそう、更新をダウンロードよ、石川くん」 
「えっ? ん?」
 
もしかして、僕らの会話って嚙み合ってない? 
あれ? 
まさか…そんな……まさかだけど、お二人は僕の旦那が佐藤だってご存じない? 

僕は、あまりの衝撃に固まった頭をほぐすために、ブンブンと首を振った。
いやいや、そんなことないよね。
だって婚約した時から言っているし、ちょいちょい、佐藤の話しているし。

「あの・・・お二人は、僕の旦那はどんな人物だと思ってます?」 
サンドイッチを胃に流し込んで、二人の顔色をうかがう。
なぜか、僕から目をそらしたお二人が、眉を挙げて可愛い顔をして沈黙した。 
え? なんで? 

「リアルの方の旦那様よね」
「リアルの方⁉」

ちょっと、まって……リアルの方ってどういうこと?

「ガテンのマッチョおじさんで……」 
富山さんが細川さんと見つめあう。

「発達した前歯をお持ちの、割と良い人よね」 

発達した前歯⁉ 

おおぉぉい! 
僕は、ガバッと項を抑えた。

これだ!
このネズミの噛み跡になった番の証のせいだ!

「違うんです! これには事情があって! あの発情誘発剤のせいで!」 

必死に言い訳をする僕を、お二人が生暖かい優しい眼差しで見ている。
そう、まるでお地蔵様のような……聖母マリアのような。
 
あるいは、中二病を発症した孫でも見守るような。
「いいのよ、石川くん。妄想は生きる糧」 
「大いに盛り上がりましょう」 

「いや、本当です!僕、本当に佐藤三郎太の嫁なんです!」 

まずい、この機会を逃したら絶対に信じてもらえない気がする。
なんとか、なんとか佐藤を呼び出さないと。 

「お二人は、今日仕事のあと用は有りますか!僕の旦那に会ってください!」

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