31 / 33
豪邸編 前編
□□ 豪邸編 前編 □□□
「見て、石川くん」
午前の仕事を終え、仕事仲間で、エンペラー佐藤を追いかける同志、富山さんと、なぜかいつの間にか同志となった細川さんと休憩室でお弁当を食べている。
早々とお弁当を食べ終えた富山さんが、月間雑誌【お前だけのアルファ】を取り出した。
ペラペラと数ページめくった後で開かれたページには…
「えっ……なんですか?」
三連でお買い得だったハムを挟んで作ったサンドイッチを頬張りながら、富山さんがお弁当箱の横においてくれた雑誌に目を向ける。
「エンペラー、十億の城がついに完成? はぁ?」
驚きでつい手に力が入ると、賞味期限が二日ほど切れてパサパサだった食パンサンドイッチが、前と後ろに分かれて花開いた。
「さすがよね、エンペラー佐藤。美術館で奇跡的にお会いした後、こんな只のおばちゃんに、わざわざお見舞いの品まで送ってくれる優しさ・・・もう、いまでは私もすっかりエンペラー担当」
細川さんが、干し芋を握りしめながら頬を染めている。
「送られてきたお菓子の箱・・・まだ捨てられないもの」
何やら、お二人が思い出にふけっていらっしゃるけれど、僕はそれどころじゃない。
なんていい加減な記事なのだ。
佐藤は仕事で家を建てたのであって、僕らの住む家ではない。
この記事を読む限りだと、まるで佐藤の私邸みたいじゃないか。
「この雑誌、嘘ですよ。僕たち十億の家なんて建設してません」
サンドイッチのパンを、ぎゅっぎゅとくっつけながら言った。
「あらあら、石川くんはエンペラーとマンション暮らし設定だものね」
富山さんが、微笑んでいる。
「いや、設定じゃなくて。真実にマンション暮らしです」
最近、片付けに目覚めた佐藤が、不要なものを中古買取に出しているけど……断じて豪邸に引っ越してなどいない。
というか、モフハウスで三千円になったぜって喜んで、駅前の鯛焼き買うやつが、十億の家は建てないでしょ。
「でも、ほら、もう出来たみたいだし、そろそろ設定をアップグレードの時期じゃないかしら」
「そうそう、更新をダウンロードよ、石川くん」
「えっ? ん?」
もしかして、僕らの会話って嚙み合ってない?
あれ?
まさか…そんな……まさかだけど、お二人は僕の旦那が佐藤だってご存じない?
僕は、あまりの衝撃に固まった頭をほぐすために、ブンブンと首を振った。
いやいや、そんなことないよね。
だって婚約した時から言っているし、ちょいちょい、佐藤の話しているし。
「あの・・・お二人は、僕の旦那はどんな人物だと思ってます?」
サンドイッチを胃に流し込んで、二人の顔色をうかがう。
なぜか、僕から目をそらしたお二人が、眉を挙げて可愛い顔をして沈黙した。
え? なんで?
「リアルの方の旦那様よね」
「リアルの方⁉」
ちょっと、まって……リアルの方ってどういうこと?
「ガテンのマッチョおじさんで……」
富山さんが細川さんと見つめあう。
「発達した前歯をお持ちの、割と良い人よね」
発達した前歯⁉
おおぉぉい!
僕は、ガバッと項を抑えた。
これだ!
このネズミの噛み跡になった番の証のせいだ!
「違うんです! これには事情があって! あの発情誘発剤のせいで!」
必死に言い訳をする僕を、お二人が生暖かい優しい眼差しで見ている。
そう、まるでお地蔵様のような……聖母マリアのような。
あるいは、中二病を発症した孫でも見守るような。
「いいのよ、石川くん。妄想は生きる糧」
「大いに盛り上がりましょう」
「いや、本当です!僕、本当に佐藤三郎太の嫁なんです!」
まずい、この機会を逃したら絶対に信じてもらえない気がする。
なんとか、なんとか佐藤を呼び出さないと。
「お二人は、今日仕事のあと用は有りますか!僕の旦那に会ってください!」
あなたにおすすめの小説
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
【本編完結済】巣作り出来ないΩくん
こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。
悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。
心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚
貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。
相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。
しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。
アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。
【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。
村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました!
ありがとうございました!!
いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い
<あらすじ>
魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。
見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。
いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。
ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。
親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。
※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。
└性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
長年仮番として務めてきましたが、王子は正式な番を娶るそうです
けふ
BL
王都を守る巨大結界は、王族の魔力によって維持されている。
第二王子アデルの傍らには、常に一人の騎士がいた。
近衛騎士レオン。
彼は長年、王子の「仮番」として特別な任務を担っている。
しかし王子は、他国の王女との正式な番契約が決まってしまった。
仮番の役目は、そこで終わるはずだった。
だが結界塔で行われる儀式の中で、
二人の関係は次第に変わり始める。
王族と騎士。
主と臣下。
越えてはならない境界を前にしても、
王子は騎士の手を取る。
「共に立て」
※オメガバースではありません
※ふんわり読んでください
※なんでも許せる方向け
※イラストはChatGPTさん