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第二十七話 お迎え
しおりを挟む残された寧々は、涙を拭うと、公園内に居た人々の注目を浴びていた事に気が付き、人気の無い公園の備蓄倉庫の影へと移動した。
唇を噛みしめ、夕焼け色に変わってきた空を見上げて、再び流れそうな涙を飲み込んだ。すると、スマホが振動して詠臣からの着信を知らせた。
寧々は『帰るには、もう少し時間が掛かります』とメッセージを送ると、そっとスマホの電源を切った。いざという時のためにGPSのアプリが入っているので、迎えに来られても困る。
(今は、顔を合わせられない……まだ、美怜ちゃんと会っていると思うよね……どうしよう、詠臣さん……聞いたら本当の事を教えてくれるかな? SDIには行って欲しくない気持ちがあるけど……匠さんや琳士が行った初期の頃よりも、体制は整っただろうし、詠臣さんが行きたいなら……私も一緒に連れて行ってほしい! 私のせいで軍を辞めるなんて、絶対に駄目)
「ねぇ、君どうしたの?」
寧々が一人で思考していると、中年の男性が近づいて来た。着古したスエットの上下の服装で、髪もボサボサで、無精髭が生えている。心配して声を掛けているとは思えないくらい、ニヤニヤと笑っていた。
「あ、何でも、ありません」
寧々は恐怖を感じて、すぐに此処から立ち去ろうとしたが、相手が進路に立ちはだかった。
「何でもなくないだろ、泣いてただろう……俺が慰めてやるよ」
男は嫌な笑いを浮かべると、一歩、寧々に近づいた。
「嫌です……近づかないでください。警察を呼びます」
寧々がスマホを取り出して、慌てて電源をいれるが、そんなに直ぐには起動しない。
焦って起動中の画面を見ながら後ずさると、男が一気に近づいてきて、寧々のスマホを取り上げた。男の酒とタバコの匂いが襲ってきて、噎せ返りそうになった。
そして、男の反対の手が、逃げようとする寧々の手首を掴んだ。
「やぁっ!」
痛みと恐怖で寧々が、男の顔を見た。興奮して鼻を広げた男の顔の横では、掲げるように持たれていた寧々のスマホが起動していた。
「いやっ……離して」
寧々が縋るようにスマホを見て、掴まれている腕を振り払おうとしていると――それが、後ろから誰かに取り上げられた。
「私の妻に、何の用ですか」
男の向こう側に、頭一つ分は大きな詠臣が立っていた。
寧々が見たこと無い程、怖い顔で男を見下ろしている。
「詠臣さん!」
寧々の手首を掴む男の手が離れた。
「ぐっ……いてぇ!」
詠臣は、男の手首を握りしめ、奪い返したスマホをズボンのポケットに仕舞い込んだ。
男は、掴まれた腕を引き剥がそうと「痛い、痛い」と騒ぎ、振り返った。そして詠臣の顔を見て、ギョッとしている。自分より背も高く、明らかに鍛えている、勝てそうもない相手の出現に、腰が引けて今にも逃げ出しそうだ。
「ここは、あの監視カメラで良く映っていると思います。後ほど、身分証と一緒に通報しておきます」
詠臣が、男のポケットから取り出した財布を手にして言った。男が驚き、スエットの後ろのポケットを叩いている。
「か、返せ!」
ドタバタと重い動きで詠臣に向かっていった男だったが、詠臣は、すっと後ろに下がり男を躱した。
「どうぞ」
そして詠臣は、免許証だけ抜いた財布を、遠くに投げ捨てると、寧々の前に立った。
男が財布の方を確認してから、詠臣の方に向き直った。
相手が詠臣に向かってくるのではないかと、寧々は心配して詠臣に近づいたが、詠臣が腕を伸ばし、寧々を背中に追いやった。詠臣の鋭い目が、男を威圧する。これ以上近づいて来たら――許さないと。
恐怖に震えた男は、身を翻し、慌てて財布を取りに走ると、一度だけ此方を振り返って、走って逃げていった。
「……大丈夫ですか?」
男の背中が見えなくなると、詠臣が寧々を振り返った。
先ほどまでは怒ったような表情だったが、今は心配そうな顔で寧々の様子を窺っている。怪我が無いか、具合が悪くなっていないか、そう視線で聞かれている気がした。
寧々が詠臣を見上げて、大丈夫です、と頷くと詠臣が安堵のため息をついた。そして、寧々に一歩近づくと、少し戸惑った様子で腕を広げ、そっと寧々の体を抱き寄せた。
嗅ぎ慣れた詠臣の匂いに、寧々の表情が、柔らかくなった。
「詠臣さん……ありがとうございます」
頭の天辺に感じる詠臣の吐息がくすぐったくて、笑顔もこぼれた。
「無事で良かったです。でも、なぜ電源を切ったのですか?」
寧々は、詠臣の腕の中で、ほっとしたのもつかの間、ギクリと体を震わせた。
「それは……」
寧々が中々言葉を紡げないでいると、詠臣が体を離した。
「とにかく、帰りましょう」
詠臣の大きな手が、寧々の手をとり、その手首に傷が無いか確認をした。
寧々が大丈夫ですと、詠臣と手を繋いだ。
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