神様のひとさじ

いんげん

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腕輪

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食事が終わり、ラブに支給品を配布する事になった。

「バイバイ、アゲハまたね」
 ラブは、大きく手を振ってアゲハと別れた。

「行くぞ」
「うん」
 ヘビと、フクロウに挟まれ歩き出した。

「ねー、あの部屋は何?」
 ラブは、観音開きの木の扉を指さして聞いた。

「図書室だ」
「本が沢山置いて有る場所で、漫画もあるぞぉ」
「ふーん。ヘビは何の本が好き? あ、愛されるリー」
 ヘビの部屋にあった本のタイトルを叫びそうになった、ラブの口が、黙れとばかりに、ヘビに指さされた。

(愛されたいのは内緒なの?)

 少し照れくさそうにしているヘビを、ジッと眺めた。

(何だか、可愛いな……顔は怖いのに)

 ラブがニコニコ笑うと、ヘビの顔が顰められた。

「パパは、何の本が好き?」
「俺は、将棋や囲碁の本とか、戦記物や、昔の戦術の本が好きだなぁ」
「へー」
「フクロウは、兵器マニアでもある。放って置くと機械や武器ばかり弄っている。もう若くないから夜は寝た方が良い」
「いやぁ、熱中すると時間が溶けててなぁ」
 フクロウの目が、眠そうなのは元々なのか、夜更かしのせいなのか。ラブはジッとフクロウの顔を見つめて考えた。そして、ヘビと見比べた。ヘビは横に広い、鋭い眼差しだ。ちっとも眠そうには見えない。

「ヘビは、夜なにしているの?」
「お前に教えるつもりなはい」
「娘よ。ヘビは、仕事しかしていない。つまらない男だ。時間まで効率よく作業して、食事する。それから時間通り訓練して体鍛えて、ルーティーン通り風呂入って、早々に寝る。あっ、唯一の趣味が」
「フクロウ、余計な事は喋るな」
「あー、はいはい」

「ヘビ、じゃあ 今日から、ラブと繁殖を……わぁあ」
 ラブが何もない所で蹴躓くと、両側から腕を掴まれた。

「おい、ちゃんと前を……いや、やや前下方を見て歩けないのか?」
「だって……」
「すみません、先生。うちの子、すぐフラフラしちゃって」
 フクロウが、頭に手を当てて、申し訳なさそうな演技で言った。

「……」
 ヘビの冷たい目が、ラブの頭上を通り越して、フクロウに注がれている。

「パパが悪いんじゃ無いよ。二人が悪いよ」
「お前ら、いつまで娘設定を続けるつもりだ」
「もうコレで行こうと思ってな」
 フクロウが、言った。

「二人とも大きすぎるから、お話しすると、上向いて歩かなきゃならないんだよ」
 ラブは、自分の頭に手を当てて、もう一方の腕をピンとのばした。彼女の指先が、彼らの頭あたりになる。

「確かに、そうかもしれん」
「じゃあ、しゃべるな」
「だって、ヘビと仲良くなりたい」
「……」
 ヘビは押し黙り、フクロウは、声を出さずに笑っている。


 廊下を歩き続けると、木のドアでは無い、鉄製のドアが並ぶエリアにやって来た。

「あら、おはよう、ラブさん。ちょうど貴方に会いに行こうと思っていたの」
「クイナ、おはよう」
 ドアが自動で開くと、中から白衣姿のクイナが出てきた。右肘には白いトートバッグが欠けられている。

「あら、随分可愛い装いね」
 クイナは、ラブの白いワンピース姿を褒めた。

「ほんと? ねぇ、ヘビ! 私、可愛い?」
「今の言葉をちゃんと聞いたか? 服を褒めていた」
「そんな事無いわよ。とっても似合っていて、より可愛らしいわ」
「ヘビ、装備品を替えることで戦闘力が上がるのは、どのシーンでも同じだろ」
 フクロウの助言に、ラブは首を傾げたが、クイナとヘビは納得している様子だ。

「そうか、まぁ……そう、なのか?」

 ヘビは、ラブに顔を近づけて真剣に眺めた。
 一晩、その服のまま眠ったワンピースは、若干の皺を作っているが、ラブの動きに合わせてヒラヒラと舞い目を惹く。散らかっていた寝癖もいつの間にか、元に戻っている。

 キラキラと輝く大きな瞳、シミ一つ無い真っ白で柔らかそうな肌、艶々の薄い唇。

「ラブさんの様な女性を、過去の人類は、一人だけ神様が特別に作ったって言うのよね、きっと」
「確かにだが、クイナ。やたら褒めるな。お前だって、綺麗だろ?」
 フクロウの言葉に、クイナがギョッとして彼を見た。

「うん、クイナ凄く綺麗で格好いい」
「私は、遺伝子操作で、計算して規則正しく配置しただけの、面白みの無い顔よ」
 クイナは、目を泳がせてポニーテールの結び目に左手を当てた。

「面白み? ヘビ、私のどこら辺が面白い?」
「アホそうに開いてる口だ」
「ヘビは、ラブの口が好きってこと? 私はねぇ、ヘビの眉毛と目が近くて怖く見える所と、怒ってるみたいな口が面白いよ」
「……」
「ヘビの負けだな」
「そうね、あっ、それより。はい、ラブさん。コレが貴方のウエアラブル端末と、日用品ね」

 クイナは、手にしていたトートバッグをラブに渡し、白衣のポケットから赤い腕輪を取り出した。三人の腕輪は黒だ。

「ごめんなさいね、今、色が赤しかなくて」
「赤、凄く好きだよ。ありがとうクイナ」
 ラブは、付けてと右手を差し出した。

「ハジメの指示で、しばらく生活出来るくらいの額が入っているわ。そのかわり午後から受診だけどいいかしら?」
 クイナがラブの腕に、腕輪を付けようとしたが、さっとラブは腕を引いた。

「おい、だから説明しただろう、血は抜き取らないし、針は突き通さない」
 ヘビが、ラブの腕を掴んで、無理矢理 クイナの前に突き出した。

「娘よ、頑張れば、きっとクイナが、お菓子をくれるぞ」
「娘⁉」
 クイナが、驚いて腕輪を取り落とし、ヘビがソレを受け止めた。

「そういう、設定の言葉遊びだ」
 ヘビが一言言いながら
「やめてぇ」
 と叫ぶラブの腕に腕輪を装着する。

「ああー、とって! 酷い」
「飴と、クッキー、ゼリーが有るわ」
「お菓子、美味しい?」
「そうねぇ、このコロニーだと、男性の83%と、女性の91%が、お菓子を美味しいと回答しているわ」
「パパは、イカ類の足が好きだ。ヘビは、クルミを砂糖でコーティングしているのが好きだぞ」
「私も、ヘビが好きなの食べてみる」

(ヘビが好きなら、私も好きかもしれない! だって、二人で一つだもの)

 ラブは、ワクワクして腕輪をクルクル回した。ヘビは、無の表情だ。

「それじゃあ、また後でね」
 クイナがラブに手を振った。

「帰り道は、分かるかい」
 フクロウが聞いた。

「うん、ずっと真っ直ぐ」
 ヘビは、何かを考えるようにラブに視線を送ってから、無言で部屋の中に消えていった。

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