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捜査開始 ~ 特殊能力捜査班、松山灯馬視点 ~
しおりを挟む警視庁、特殊能力捜査班として働く毎日は、とにかく時間が無い。特殊能力も持たず、警視庁からの入庁でも無い、ノンキャリアの俺が此処に居るのは戦闘要員として評価され採用されているからだ。厄介な能力者を相手にしても、現代の武器と自らの肉体、戦闘能力だけで相手をねじ伏せる、それが仕事だ。
「ま、参りました! ギブ、ギブです! 松山先輩、ストップ!」
今日は後輩の戸田と訓練をしながら当直の任務中だ。能力を感知する捜査官と、その他、捜査に有効な能力を持つ者は、部屋に詰めているが、戦闘要員は訓練をして時間を潰す。
「現場に参ったはないぞ」
戸田の腕を捻り上げながら、その巨体を潰す。戸田のアメフトの選手のようなバンプアップした筋肉は肉厚だ。
「そう、ですけど、今は幸いにもぉぉ、訓練です!」
「お前、もう少し俊敏にならないと、本当に只の弾よけだぞ」
俺は、戸田の腕を離し、踏みつけていた膝をどかした。
「いっ、ててて。これでも、今まで俊敏なアメコミ系ヒーローだったんですよ……先輩が異常です。だからサイボーグ説が流れるんですよ」
「……なんだそれ」
「特能の松山警部補は、改造手術を受けたサイボーグだって言われてるんですよ。常に冷静沈着でいて、犯人に対しては冷酷。瞬時に敵を排除。笑った顔は見たことが無い」
ペラペラと勢い良く話はじめた後輩を、何だ、元気じゃ無いかと思いながら見下ろす。
「それに、見た目が完璧すぎる! 長身に骨太の逞しい肉体。なのに俺らのようなゴリラ感はゼロな、色気溢れる雄、キングオブ雄! ワイルドなのに秀麗! 女も男も、その暴力的フェロモンでねじ伏せる!」
「……」
段々五月蠅くなってきた。よし、希望通り暴力的にねじ伏せよう。俺は、戸田のワイシャツの襟を掴んで引き寄せ、大外刈りで床に沈めた。
「ぐえ」
「反応も抵抗も遅い。すぐ死ぬぞ」
「辞めて下さいよぉ、それ、死亡フラグですから。俺は、先輩のバディとして、これから伝説を作っていくんですから」
「俺は、職務を遂行しているだけだ。伝説なんて作らない」
「かっ……かっけぇ、いえ、スイマセン」
角刈りの筋骨隆々の男が、顔に手を当てて、目を潤ませて俺を見上げている。とても暑苦しく、見るに堪えない。俺が憧れの眼差しを受けて誇らしい気持ちになるのは、弟の理斗だけだ。
俺と弟の理斗は、同じ両親から生まれたのに、まったくタイプの違う兄弟になった。丈夫で逞しく、無口な俺と、小柄で愛らしく、よく微笑む理斗。五歳も離れていたし、自己主張の少ない理斗とは喧嘩になった記憶が無い。理斗はいつも、兄の俺を慕ってくれていた。母が死んで、頼る親戚もなく施設に入ってからも理斗は荒れたりすることもなく、常に大人が望むような良い子だった。俺は、それが、心配だった。
やっと、二人で暮らせるようになって、のびのびと生活して欲しいと願っていた矢先に、理斗は居なくなった。ちょうど、十年前の今日、九月二日だった。
警察に入った俺には、日本の年間の失踪者が十代、二十代だけでも三万人近くいることは理解していた。
「うちの子に限って、家出なんてありえない」その言葉を、今まで軽く受け止めていた。気がつかなかっただけだろうと。だが、いざ自分が失踪者の家族になって、身に染みた。
俺は、理斗は家出ではないと思っている。その一方で、自問自答している。俺が理斗の気持ちに無頓着だったのではないか、自分の都合の良い一面しか見ていなかったのではないかと。
理斗が失踪して十年。時間を捻出して探しているが、理斗の足取りは全くつかめていない。理斗は、あの日、いつも通りファミリーレストランでアルバイトをした。一緒に働いていた仲間達に聴取したが、変わった様子はなく、むしろ少しウキウキしている様子だったと。その後、近くの洋菓子店の監視カメラに映ったのが最後で、目撃者も無い。電話は繋がらず「電波の届かないところか電源が入っていない……」とアナウンスが流れる。だが、諦めきれずに、未だに解約せず、何度も掛けている。
理斗は、きっと何かの事件に巻き込まれたに違いない。理斗は、人目を惹く容姿をしていた。性犯罪者に誘拐された可能性もある。
想像するだけでもはらわたが煮えくり返り、つい、逮捕する犯罪者への攻撃が過激になる。罪を憎んで人を憎まずとは言うが、俺は誰よりも犯罪者を憎んでいた。
「先輩、顔が怖いですよ。格好いいですけど」
「今日は、朝まで訓練したいようだな」
戸田が目の前で手を降っていたので、はたき落として言った。なぜか喜んでいる。ふざけた後輩の気を引き締めるトレーニングを頭に描いていると、訓練所に警報音が鳴った。
「行くぞ」
「はい!」
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