16 / 45
捜査開始 ~ 特殊能力捜査班、松山灯馬視点 ~
しおりを挟む警視庁、特殊能力捜査班として働く毎日は、とにかく時間が無い。特殊能力も持たず、警視庁からの入庁でも無い、ノンキャリアの俺が此処に居るのは戦闘要員として評価され採用されているからだ。厄介な能力者を相手にしても、現代の武器と自らの肉体、戦闘能力だけで相手をねじ伏せる、それが仕事だ。
「ま、参りました! ギブ、ギブです! 松山先輩、ストップ!」
今日は後輩の戸田と訓練をしながら当直の任務中だ。能力を感知する捜査官と、その他、捜査に有効な能力を持つ者は、部屋に詰めているが、戦闘要員は訓練をして時間を潰す。
「現場に参ったはないぞ」
戸田の腕を捻り上げながら、その巨体を潰す。戸田のアメフトの選手のようなバンプアップした筋肉は肉厚だ。
「そう、ですけど、今は幸いにもぉぉ、訓練です!」
「お前、もう少し俊敏にならないと、本当に只の弾よけだぞ」
俺は、戸田の腕を離し、踏みつけていた膝をどかした。
「いっ、ててて。これでも、今まで俊敏なアメコミ系ヒーローだったんですよ……先輩が異常です。だからサイボーグ説が流れるんですよ」
「……なんだそれ」
「特能の松山警部補は、改造手術を受けたサイボーグだって言われてるんですよ。常に冷静沈着でいて、犯人に対しては冷酷。瞬時に敵を排除。笑った顔は見たことが無い」
ペラペラと勢い良く話はじめた後輩を、何だ、元気じゃ無いかと思いながら見下ろす。
「それに、見た目が完璧すぎる! 長身に骨太の逞しい肉体。なのに俺らのようなゴリラ感はゼロな、色気溢れる雄、キングオブ雄! ワイルドなのに秀麗! 女も男も、その暴力的フェロモンでねじ伏せる!」
「……」
段々五月蠅くなってきた。よし、希望通り暴力的にねじ伏せよう。俺は、戸田のワイシャツの襟を掴んで引き寄せ、大外刈りで床に沈めた。
「ぐえ」
「反応も抵抗も遅い。すぐ死ぬぞ」
「辞めて下さいよぉ、それ、死亡フラグですから。俺は、先輩のバディとして、これから伝説を作っていくんですから」
「俺は、職務を遂行しているだけだ。伝説なんて作らない」
「かっ……かっけぇ、いえ、スイマセン」
角刈りの筋骨隆々の男が、顔に手を当てて、目を潤ませて俺を見上げている。とても暑苦しく、見るに堪えない。俺が憧れの眼差しを受けて誇らしい気持ちになるのは、弟の理斗だけだ。
俺と弟の理斗は、同じ両親から生まれたのに、まったくタイプの違う兄弟になった。丈夫で逞しく、無口な俺と、小柄で愛らしく、よく微笑む理斗。五歳も離れていたし、自己主張の少ない理斗とは喧嘩になった記憶が無い。理斗はいつも、兄の俺を慕ってくれていた。母が死んで、頼る親戚もなく施設に入ってからも理斗は荒れたりすることもなく、常に大人が望むような良い子だった。俺は、それが、心配だった。
やっと、二人で暮らせるようになって、のびのびと生活して欲しいと願っていた矢先に、理斗は居なくなった。ちょうど、十年前の今日、九月二日だった。
警察に入った俺には、日本の年間の失踪者が十代、二十代だけでも三万人近くいることは理解していた。
「うちの子に限って、家出なんてありえない」その言葉を、今まで軽く受け止めていた。気がつかなかっただけだろうと。だが、いざ自分が失踪者の家族になって、身に染みた。
俺は、理斗は家出ではないと思っている。その一方で、自問自答している。俺が理斗の気持ちに無頓着だったのではないか、自分の都合の良い一面しか見ていなかったのではないかと。
理斗が失踪して十年。時間を捻出して探しているが、理斗の足取りは全くつかめていない。理斗は、あの日、いつも通りファミリーレストランでアルバイトをした。一緒に働いていた仲間達に聴取したが、変わった様子はなく、むしろ少しウキウキしている様子だったと。その後、近くの洋菓子店の監視カメラに映ったのが最後で、目撃者も無い。電話は繋がらず「電波の届かないところか電源が入っていない……」とアナウンスが流れる。だが、諦めきれずに、未だに解約せず、何度も掛けている。
理斗は、きっと何かの事件に巻き込まれたに違いない。理斗は、人目を惹く容姿をしていた。性犯罪者に誘拐された可能性もある。
想像するだけでもはらわたが煮えくり返り、つい、逮捕する犯罪者への攻撃が過激になる。罪を憎んで人を憎まずとは言うが、俺は誰よりも犯罪者を憎んでいた。
「先輩、顔が怖いですよ。格好いいですけど」
「今日は、朝まで訓練したいようだな」
戸田が目の前で手を降っていたので、はたき落として言った。なぜか喜んでいる。ふざけた後輩の気を引き締めるトレーニングを頭に描いていると、訓練所に警報音が鳴った。
「行くぞ」
「はい!」
11
あなたにおすすめの小説
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる