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トリガー
しおりを挟む「やめてくれー!!」
カチ…カチ…
「……」
僕は、ギュッと目を瞑り、渾身の力で引き金を引いた。
しかし、トリガーは動かなかった。
疑問に思って、こめかみから銃を離して覗き込もうとすると…。
「ヒナタ!」
アスカ兄さんにキツく抱きしめられて、バイウーに拳銃を奪われた。
「……どうして…僕…ちゃんと……兄さんの邪魔にならないように……」
兄の腕の中で愕然とした。
僕の体は馬鹿みたいに震えている。
「…ふっ…銃の扱いも禄にしらないのか……ははっ……」
バイウーの乾いた笑いが引き金となって、僕の涙腺が決壊した。
あぁ…そうか、イキナリ引き金を引いても弾は発射されないのか…。
この世界は治安が悪くて、暴力沙汰や武器の類いも身近にある。殴られたり蹴られたりすることも何度かあった。でも、やり返す力も無い僕は、ひたすら逃げるか、兄に助けられるかするだけだった。
兄が家に武器を隠し持っているのは知っていたけど、興味をもって手にすることもなかった。
「良かった…ヒナタ……良かった……」
兄さんが、僕の頭を抱きしめて泣いている…。
どうして、兄さんが泣いているのだろうか。
優しすぎる。兄さんは、僕なんかにも優しすぎる。
「……」
どうしよう…折角のチャンスを無駄にしてしまった。
このままでは、兄さんは僕を守ってバイウーや、ここの人達と戦わないといけない。
嫌だ。僕のせいで兄さんが傷つく姿なんて見たくない!
「……バイウー……も…もう一度…チャンスを……」
近くに立つバイウーを、泣きながら見上げた。
兄の胸に潰されていた右手を何とか差しだそうとしたけれど、腰は抜けたみたいだし、上手くいかない。
「もういい!お前らを殺しても何の得にもならない…」
「バイウー?」
乱れた髪を掻き上げて、深いため息をついたバイウーは、媚薬の入ったケースを持ち上げた。
僕を抱きしめていた兄さんが振り返り、鋭い目でバイウーを睨んでいる。
「いいか、これは貸しだ。坂巻ヒナタ…いつか返してもらうかなら…」
何処か疲れたようなバイウーが、出口に向かって歩き出した。
もしかして…僕らは見逃して貰えたのだろうか?
ドアを出ようとするバイウーと目が合う。その表情が微笑んでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「……」
兄さんが舌打ちをした音が、ドアが閉まる音に重なった。
「ヒナタッ!」
静かな部屋に二人きりになり、気が抜けた僕は腰どころか全身の力が抜けた。
崩れ落ちそうになった僕を、兄の腕が再び抱きしめてくれた。
「……」
なにか、しゃべらないと、と思うけど。声も出ない。
「ヒナタ…どうした?何処が痛い⁉」
僕の両肩を掴んで、兄が僕の体を見ている。
乱れた衣服、汚れたパンツ。手錠の後がついた手首。あまりにも情けない格好だ。
僕は、恥ずかしくてバイウーが残していったジャケットを手に取りパンツを隠した。
「…ごめんなさい…大丈夫です…」
僕は、兄にニッコリと微笑んだつもりだったけど…口角がひきつってしまった。
やっと体の力が戻ってきたので、兄の腕をそっと外した。
「……ヒナタ…遅れてすまない……俺のせいで……お前をこんな目に遭わせた……」
アスカ兄さんが床に拳を叩きつけた。
鈍い音がした。
「にっ兄さん!!やめて!」
僕は驚いて、兄さんの腕を取って抱き寄せた。
どうして…こんな事を…。擦り切れた皮膚から血が滲んでいる。
「……俺がもっと早く来れば……お前は…あんな男に……されずにすんだ…それに…」
「ちょ…ちょと待って兄さん……」
まさか、僕がバイウーと…最後までしてると思っている?
いや、最後とか関係ないよね…十分に淫らなことをしていた。しかも、媚薬のせいとはいえど…兄さんには見せられないような…事態に。
兄さんが必死に僕を救出しようとしてたときに…僕は、バイウー相手に腰を振ってた。
最低だ。
まさか…僕がよがっている気持ち悪い声…兄さんに聞こえていたのだろうか⁉
「……兄さん……僕の…声……聞こえてた…?」
聞きたくないけど、口が止まらなかった。
死の危険が去ったら、色々な事が気になってきた。
おそらくダクト的な所から現れた兄さんには、僕らの声とか筒抜けだったのでは?
は…恥ずかしさで爆発しそうだ!
「……」
アスカ兄さんが、ギュッと目を瞑り俯いている。
こ…これは聞こえていた。
ああああああ!!!
最悪だ!僕のいつもより高くなっていた喘ぎが!
兄さんやバイウー達の素晴らしく艶やかな声優さんの声では無い、僕の喘ぎが!!
「に…にいさん……僕…決して…好きであんな…あんなっ……」
好きであんな気持ち悪い声を出していたんじゃないですから!!
僕は恥ずかしくて、顔面を叩くように押さえた。
「ヒナタ…分かっている!……泣かないでくれ……かわいそうに……遅くなってすまない……」
兄さんの手が僕の肩に恐る恐る触れた。そして、すぐに離れた。
いや、兄さんがもっと早く来てたら、衝撃の映像をお見せすることになっていたから、終わった後で良かった。
本当に…あんな姿見せていたら耐えられない。
兄さんに軽蔑されたら……そう思うだけで、心臓が冷える。
「…兄さん……僕のこと、気持ち悪くなった?」
「なっ!馬鹿なことを言うな!」
再び強い力で抱きしめられた。
兄さんの温もりと匂いに、ほっとする。
良かった、気持ち悪いって嫌われないで。
「……ヒナタ……頼むから…何があっても、俺からお前を奪わないでくれ」
「…え?」
「…自分を傷つけたりしないでくれ…」
さっきの事だろうか。
それは、約束できない。
今回は、運良くバイウーの気がそれて助かったけれど、次もそうとは限らない。
すこし落ち着いたら、僕は自立と称して兄の側を離れよう。
それが上手くいかずに、もしまた兄さんの足枷になるような事があれば…。
「分かったか、ヒナタ…」
「…うん」
僕は、兄さんの背中にそっと手を回し、その大きな体を抱き返した。
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