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大会
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翌日は雨が降った。
先日も小雨が降り驚いたが、今日は本格的な雨が降り続いた。ところどころ水たまりができ、ぬかるみに入るたびに足が汚れた。この世界で傘をさしているものはいない。全員ずぶ濡れになりながら作業していた。
雨は夕方からさらに強まり、風も強く吹いた。風にも驚く。こんな地底の世界で風がどうして吹くものか。
雨水が洞穴の中にも入ってきた。なるべく入らぬよう入り口に穴を掘り、土を盛った。
こんな日に限って、左の男がまた漏らた。ほおっておくわけにも行かず仕方なく世話をした。服は雨水で適当に洗い、入り口を水の侵入をなるべく防ぐべく同じように手当した。ナポリタンおじさんの方も気になり見に行くと洞穴の中にはおらず、少し離れた場所で上半身裸で口を開けたまま上を向いていた。スィーがその上をゆっくりと旋回している。呆れたが、そのままほおっておくのもどうかと思い、声をかけ洞穴のなかへと移動し、全身を拭いてあげた。ナポリタンおじさんは「神の涙じゃ。ありがたや。」「わしもまた成長できる。」などとずっと呟いていた。
雨が心配でしばらく寝付けなかった。たまに外の様子を見た。そうこうしているうちにいつの間にか寝ていた。
翌朝、すっかり雨があがっていた。外には川のほうへ向かっていく者がいた。
大雨の翌日は、魚や流木を目当てに川へ行くものが多いようだ。特に目当てはなかったが僕も行ってみることにした。
川辺には、石や流木、枯れ葉が溜まっていた。他の川などで良く見かけたプラスチックゴミなどは皆無だ。それを数人が物色していた。川近くの水たまりには、小魚の死体がおりそれを捕まえているものもいた。
川の下流に目をやると、何やら黒い物が群がっているのが見えた。カラスだった。同じく小魚などを突いているのかと思いよく見ると、一人の男が横たわり死んでいた。近くの者が「大雨のなか川に出て流されたんじゃないか。」と語っていた。やがてカラスの大群の中へスィーの大群が割り込むように入り、その男を持ち上げ、ゆっくりと黒の森の方へと移動した。それをカラスの大群も追うように飛び去った。
この世界では事故などで命を失うものが多い。この世界のものは頭以外の体を怪我しても死なずにやがて回復するが、頭を怪我し脳が停止すると駄目らしい。あとは寿命でなくなるものが多い。その後死体がスィーに見つかるとスィーによって黒の森の方へ移動されてゆく。おそらくそこでカラスの餌になるのだろうと言われている。しかしながら訪問販売で人肉のような物が良く売られている。もしかすると加工され食肉にされるのではという噂もある。
過酷な労働、不自由な生活を強いられ、最期はカラスか人の餌となる。尊厳死も何もあったものではない。それが運命かと思うと胸が苦しくなる。
数日後、スィーが格闘大会に出るかを聞いてきた。出ないと即答しつつ、見学できるのかを聞くと、その日の午後は監視係を除き全員休みとなる。興味あるものは自由に見れるとのことだった。人数は集まるだろうか。一つ楽しみができた。
それからも厳しく単調な日々が続いた。
訪問販売、急に言われる「お休み」、たまにするショウイチさんやタカオさんとの食事、それだけが唯一の些細な楽しみで、大部分が苦痛を伴う生活だった。考えるとさらに苦痛が増すのを悟ったかのように作業中は全員なるべく何も考えず淡々と作業をしていた。その生活に耐えられない者ももちろんいて、たまに発狂し暴れだす者もいた。その者はやがてスィーの大群に囲まれどこかに連れてかれていった。連れて行かれたが最後、それから一度も見かけない者もいた。
タカオさんはスィーに連れてかれた後、戻ってきた人を見たことが数回あると言っていた。ある人は左腕がなくなっていた、またある人は全身に火傷の後が残っていたし、またある人は腕や足が傷だらけだったと言う。ある人に話を聞いたときは、「地獄だった」と意気消沈しきった様子で語っていたとのことだった。
数週間後、スィーが「格闘大会開催」と教えてくれた。数日後が楽しみになった。
そして格闘大会当日を迎えた。
タカオさんと一緒に会場へと向かった。歯車回ししていた場所をさらに奥へと進むとその場は姿を表した。
真ん中には、1mくらいの高さの木の柵で囲われた正方形のエリアがある。1辺30mくらいか。意外と広い。地面は土で固められている。そのエリアから10mほど隙間を空けまわりを岩山が囲う。その岩山は段々に削られている。7段くらいある。椅子のようになっており、観客はそこで座って観戦するらしい。椅子はとても丁寧に削られていてしっかりしている。ここの作業場の者がコツコツと作り上げたのであろう。一部はまだ作業中と思われる箇所がある。褒め過ぎかもしれないが、国技館、コロッセオを思わせる。
数名がもう席に座っている。また、木の柵の周辺にも間近で見ようと数名が陣取っている。何をしているかわからないがスィーがそこら中にいて忙しそうに浮遊している。僕のスィーも、タカオさんのスィーも会場につくや否や、僕らを置いてどこかに行ってしまった。
人がどんどん集まる。こんなにいたのか?と思わせる。
やがて選手と思われる人が姿を表す。その姿を見て驚く。木で作られた盾のようなものに、鎧のようなものを見に付け、手には石槍のようなものを持っている。またある者は盾と、何かを詰めた袋を腰に巻いている。総合格闘技、プロレスのようなものを想像していたが違うようだ。まさにコロッセオで行われていたような剣闘士試合なのだろうか?
「武器でも、何でもありさ。あまりこの世界には凶悪な武器はないけどね。過去には死人が出たこともあるらしい。ギブアップを宣言するか、柵の外に追い出されるか、監視のスィーに外に連れて行かれたら負けさ。」
タカオさんが説明してくれた。
「それでトーナメント戦のように戦うのですか?」
「いや、いっせいに全員が柵の中に入り、最期の一人になるまで戦い続ける。バトルロイヤルのような形式だよ。だから1試合で30分もしないうちに終わるよ。」
聞きながら、闘技場の辺りをみると、リュウジさんが木の棒を持って立っていた。リュウジさんなら参加してもおかしくない。好きそうだ。しかし遠くから見たその様子は戸惑っているように見えた。他の参加者との装備の違いに驚いているのだろう。スィーはその辺りは何も説明しないのだろうか?
続々と見学者、参加者が集まる。参加者は12人ほどか。柵の外の思い思いの場所に陣取る。開始と同時に自分で柵を乗り越え中に入るようだ。
会場の四方八方から木を叩く音が鳴り響く。まもなく開始のようだ。辺りが男たちの歓声で振動する。日頃溜まった鬱憤が大気中に集まりそのエネルギーが爆発するかのようだ。改めて冷静に考えるとここにいる者たちは全員犯罪歴のある者たちだ。そう考えると鳥肌が立つ。
戦士たちが柵の中へと入る。なかなか中央の方へは歩み寄らない。全員が左右を見ながら一定の距離を取り警戒している。リュウジさんは未だスィーに何かを訴えている様子だ。そのリュウジさんを挟む二人は、近くに獲物がいるとばかりに狙いを定めている。
歓声、罵声が飛び交う中、スィーの声でルールが説明される。その声は拡張器を通したかのような大音量だ。もちろんそんな機械はこの世界にはないはずだ。どのようにしているのか不思議でならない。
優勝賞金は12000ポイント。他に一人を倒すと1000ポイント。複数人で一人を倒した場合は1000ポイント山分けとなる。また試合中、柵の中を飛ぶ不思議な光に触れると50から200ポイントもらえる。普通に戦い、負けた場合は負けてもそのままポイントがもらえるが、わざと負ける、裏で共謀している、戦う気がないなどとスィーが判断した場合は、反則と判断されポイントはすべて没収される。それどころかその後拷問の可能性もある。
そのように説明されているうちに柵内上空に何匹ものスィーが入ってきては旋回しながら監視し始める。
「カイシー」
ひときわ大きな声がこだまする。周りの歓声、罵声が更に大きくなる。
全員、左右を警戒する。警戒していると、スィーが戦えとばかりに針で尻や背を突く。
一人が少し中央へと走る。中央のほうが安全と考えたか。
そうこうしていると、辺りに不思議な光が2,3個現れだす。近くの男がそれに釣られて寄ってゆく。
リュウジさんの左右の男は、獲物を狩るとばかりに徐々に盾を構え槍を突き出しながら間合いを狭めてゆく。リュウジさんは左右を見ながらオロオロした様子だ。
一箇所で戦いが始まった。と思いきや、数回盾と武器が重なっただけで、すぐに離れる。その戦いを他のものが見て、一斉に襲おうとしたことに気がついたからだ。
なかなか硬直し戦いは起きない。
スィーがまた戦えとばかり尻や背を突く。
そうしていると、一箇所で、また戦いが起きた。その戦いは一瞬でケリが就いた。勝ったのはガタイの良い男で大外刈のように相手を倒しその後首を締め上げ気絶させ、柵の外へと投げ飛ばした。
勝った男はよく見ると腹に帯のようなものを巻いている。
「あの男、前回も出ていた。柔道の経験者らしいね。」
前回は、光に釣られているうちに複数人に押し倒され負けたらしい。
その逆側では、リュウジさんが一人の男と喧嘩していた。うまく槍を避け殴り合いに持ち込んだようだ。しかし、もう一人が後ろから、もみ合っている2人に向かい石を投げてつけて攻撃している。危うくリュウジさんの肩の辺りに当たりそうになる。危ない。
中央でも戦いが始まっている。2人の男が牽制し合いながらややへっぴり腰で槍でつつき合って戦っている。
「やれー。やっちまえー。」
「ビビってんじゃねぇ。」
「なめてるのか。気合い入れろー。」
自分たちはビビって参加すらしないというのに、柵近くの観客は言いたい放題だ。中には興奮しすぎて石やら砂やらを手に持ち中の者たちに投げ込んでいる者もいる。中にはスィーに囲まれて注意されている者の姿も見受けられる。興奮する気持ちも分かる。闘技場自体が広く、いろいろな場所で戦いが起きては離れ、牽制し、また戦いが起きる。小学生のときの運動会の騎馬戦を見ているかのような印象を受ける。
また一人脱落する。他のものに気を取られているうちに背中から襲われ、そのまま複数人にリンチされギブアップしたようだ。後ろから襲った男はさっきっからうまく逃げ回ってはたまに隙きを付き、攻撃している。金的を狙ったり、石を投げたりと正当方ではない。
先程の柔道男も同じように立ち回っている。柔道男は1対1なら相当の自信がある模様だ。とにかく1対1の状況を作るよう立ち回っている。相当、事前に作戦を練ってきたのであろう。複数人に囲われそうになると、同じく石や砂を投げ警戒し間合いを取る。
そうこうしているうちにリュウジさんが、3人の男にかつぎ上げられ柵の外へと追いだされた。負けてしまった。思わず肩の力が抜けてしまう。
人数が減るにつれスィー達も戦うよう強くあおっている様子だ。不思議な光もある一箇所に集中するようになった。光でおびき寄せているのだろう。
徐々に人数が減ってきた。柔道男がうまく立ち回りつつ一人一人仕留めている。同じく、ガタイが良い筋肉質の男が一人一人仕留めている。倒し方や、倒した後の構えから空手や少林寺、合気道などの経験者のようにみえる。
ついに逃げ回っていた男も柔道男に捕まり、外へ投げ飛ばされた。
そして面白いことに柔道男と空手男が最後に残った。観客もまるで異種格闘技戦でも見ているかのような雰囲気となり、ますます歓声が高くなる。
空手男が掴まれないよう間合いを図りながら拳を投げる。柔道男は慎重にそれを避け、どこか掴もうと試みる。間合いの距離はやや空手男のほうが広いようだ。だが大差はない。数発、軽く蹴りや拳が柔道男をかすめる。そのたびに歓声がこだまする。あまり見ることのない技と技のぶつかり合いに感心するほどだ。
しかしながら、この勝負は気持ちよくは終わらなかった。空手男が拳を突き出したとき、柔道男が手に持っていた砂を空手男の顔めがけて投げ、怯んだ隙きに押し倒し、金的辺りを数発攻撃したのち、寝技に持ち込み締め上げた。これで決着が付いた。柔道男はハナからまともな武道などするつもりはなかったようだ。
辺りは歓声に包まれた。柔道男は勝利と同時に雄叫びを上げていた。
試合後、僕はリュウジさんが心配になり、リュウジさんが押し出されたところへと行った。同じ気持ちだったのか、ショウイチさんや、あの島で一緒になった数人もいた。久しぶりに再会した。
リュウジさんは数箇所怪我をしており、血もにじみ出ていた。皆、状態を心配すると、リュウジさんは「たいしたことねえ。大丈夫だ」と言った。それを聞き、皆、安心した。
柔道男はまだ吠えていた。相当嬉しかったようだ。観客の数人が罵声を放っていたが一切 気にしていない様子だった。
柔道男が自分がいた近くの柵を超え外に出ようとしたときふと小さく呟いた。
「これでアドミニストレーターに会える・・」
その後、その場であの島で一緒だった人たちと数分ほど団欒した。皆、ここに来て数日はどうして良いかわからず非常に苦労したとの事だった。当たり前だ。ある人は、適当な洞穴もなく数日外で野宿したと言っていた。数日食事もなくこのまま餓死するかと思ったと語った者もいた。一人はこの闘技場係で、毎日石を削る作業をしているとのことだった。
この世界の噂話になりそうになると、スィーが「オワリニ シロ」と抑止してきたため団欒は終わりとなった。
「また皆で会えるといいな。」
リュウジさんが最後、みんなに向かって言った。
ここで団欒できたのもリュウジさんが格闘大会に出てくれたおかげだ。感謝しなければならない。
先日も小雨が降り驚いたが、今日は本格的な雨が降り続いた。ところどころ水たまりができ、ぬかるみに入るたびに足が汚れた。この世界で傘をさしているものはいない。全員ずぶ濡れになりながら作業していた。
雨は夕方からさらに強まり、風も強く吹いた。風にも驚く。こんな地底の世界で風がどうして吹くものか。
雨水が洞穴の中にも入ってきた。なるべく入らぬよう入り口に穴を掘り、土を盛った。
こんな日に限って、左の男がまた漏らた。ほおっておくわけにも行かず仕方なく世話をした。服は雨水で適当に洗い、入り口を水の侵入をなるべく防ぐべく同じように手当した。ナポリタンおじさんの方も気になり見に行くと洞穴の中にはおらず、少し離れた場所で上半身裸で口を開けたまま上を向いていた。スィーがその上をゆっくりと旋回している。呆れたが、そのままほおっておくのもどうかと思い、声をかけ洞穴のなかへと移動し、全身を拭いてあげた。ナポリタンおじさんは「神の涙じゃ。ありがたや。」「わしもまた成長できる。」などとずっと呟いていた。
雨が心配でしばらく寝付けなかった。たまに外の様子を見た。そうこうしているうちにいつの間にか寝ていた。
翌朝、すっかり雨があがっていた。外には川のほうへ向かっていく者がいた。
大雨の翌日は、魚や流木を目当てに川へ行くものが多いようだ。特に目当てはなかったが僕も行ってみることにした。
川辺には、石や流木、枯れ葉が溜まっていた。他の川などで良く見かけたプラスチックゴミなどは皆無だ。それを数人が物色していた。川近くの水たまりには、小魚の死体がおりそれを捕まえているものもいた。
川の下流に目をやると、何やら黒い物が群がっているのが見えた。カラスだった。同じく小魚などを突いているのかと思いよく見ると、一人の男が横たわり死んでいた。近くの者が「大雨のなか川に出て流されたんじゃないか。」と語っていた。やがてカラスの大群の中へスィーの大群が割り込むように入り、その男を持ち上げ、ゆっくりと黒の森の方へと移動した。それをカラスの大群も追うように飛び去った。
この世界では事故などで命を失うものが多い。この世界のものは頭以外の体を怪我しても死なずにやがて回復するが、頭を怪我し脳が停止すると駄目らしい。あとは寿命でなくなるものが多い。その後死体がスィーに見つかるとスィーによって黒の森の方へ移動されてゆく。おそらくそこでカラスの餌になるのだろうと言われている。しかしながら訪問販売で人肉のような物が良く売られている。もしかすると加工され食肉にされるのではという噂もある。
過酷な労働、不自由な生活を強いられ、最期はカラスか人の餌となる。尊厳死も何もあったものではない。それが運命かと思うと胸が苦しくなる。
数日後、スィーが格闘大会に出るかを聞いてきた。出ないと即答しつつ、見学できるのかを聞くと、その日の午後は監視係を除き全員休みとなる。興味あるものは自由に見れるとのことだった。人数は集まるだろうか。一つ楽しみができた。
それからも厳しく単調な日々が続いた。
訪問販売、急に言われる「お休み」、たまにするショウイチさんやタカオさんとの食事、それだけが唯一の些細な楽しみで、大部分が苦痛を伴う生活だった。考えるとさらに苦痛が増すのを悟ったかのように作業中は全員なるべく何も考えず淡々と作業をしていた。その生活に耐えられない者ももちろんいて、たまに発狂し暴れだす者もいた。その者はやがてスィーの大群に囲まれどこかに連れてかれていった。連れて行かれたが最後、それから一度も見かけない者もいた。
タカオさんはスィーに連れてかれた後、戻ってきた人を見たことが数回あると言っていた。ある人は左腕がなくなっていた、またある人は全身に火傷の後が残っていたし、またある人は腕や足が傷だらけだったと言う。ある人に話を聞いたときは、「地獄だった」と意気消沈しきった様子で語っていたとのことだった。
数週間後、スィーが「格闘大会開催」と教えてくれた。数日後が楽しみになった。
そして格闘大会当日を迎えた。
タカオさんと一緒に会場へと向かった。歯車回ししていた場所をさらに奥へと進むとその場は姿を表した。
真ん中には、1mくらいの高さの木の柵で囲われた正方形のエリアがある。1辺30mくらいか。意外と広い。地面は土で固められている。そのエリアから10mほど隙間を空けまわりを岩山が囲う。その岩山は段々に削られている。7段くらいある。椅子のようになっており、観客はそこで座って観戦するらしい。椅子はとても丁寧に削られていてしっかりしている。ここの作業場の者がコツコツと作り上げたのであろう。一部はまだ作業中と思われる箇所がある。褒め過ぎかもしれないが、国技館、コロッセオを思わせる。
数名がもう席に座っている。また、木の柵の周辺にも間近で見ようと数名が陣取っている。何をしているかわからないがスィーがそこら中にいて忙しそうに浮遊している。僕のスィーも、タカオさんのスィーも会場につくや否や、僕らを置いてどこかに行ってしまった。
人がどんどん集まる。こんなにいたのか?と思わせる。
やがて選手と思われる人が姿を表す。その姿を見て驚く。木で作られた盾のようなものに、鎧のようなものを見に付け、手には石槍のようなものを持っている。またある者は盾と、何かを詰めた袋を腰に巻いている。総合格闘技、プロレスのようなものを想像していたが違うようだ。まさにコロッセオで行われていたような剣闘士試合なのだろうか?
「武器でも、何でもありさ。あまりこの世界には凶悪な武器はないけどね。過去には死人が出たこともあるらしい。ギブアップを宣言するか、柵の外に追い出されるか、監視のスィーに外に連れて行かれたら負けさ。」
タカオさんが説明してくれた。
「それでトーナメント戦のように戦うのですか?」
「いや、いっせいに全員が柵の中に入り、最期の一人になるまで戦い続ける。バトルロイヤルのような形式だよ。だから1試合で30分もしないうちに終わるよ。」
聞きながら、闘技場の辺りをみると、リュウジさんが木の棒を持って立っていた。リュウジさんなら参加してもおかしくない。好きそうだ。しかし遠くから見たその様子は戸惑っているように見えた。他の参加者との装備の違いに驚いているのだろう。スィーはその辺りは何も説明しないのだろうか?
続々と見学者、参加者が集まる。参加者は12人ほどか。柵の外の思い思いの場所に陣取る。開始と同時に自分で柵を乗り越え中に入るようだ。
会場の四方八方から木を叩く音が鳴り響く。まもなく開始のようだ。辺りが男たちの歓声で振動する。日頃溜まった鬱憤が大気中に集まりそのエネルギーが爆発するかのようだ。改めて冷静に考えるとここにいる者たちは全員犯罪歴のある者たちだ。そう考えると鳥肌が立つ。
戦士たちが柵の中へと入る。なかなか中央の方へは歩み寄らない。全員が左右を見ながら一定の距離を取り警戒している。リュウジさんは未だスィーに何かを訴えている様子だ。そのリュウジさんを挟む二人は、近くに獲物がいるとばかりに狙いを定めている。
歓声、罵声が飛び交う中、スィーの声でルールが説明される。その声は拡張器を通したかのような大音量だ。もちろんそんな機械はこの世界にはないはずだ。どのようにしているのか不思議でならない。
優勝賞金は12000ポイント。他に一人を倒すと1000ポイント。複数人で一人を倒した場合は1000ポイント山分けとなる。また試合中、柵の中を飛ぶ不思議な光に触れると50から200ポイントもらえる。普通に戦い、負けた場合は負けてもそのままポイントがもらえるが、わざと負ける、裏で共謀している、戦う気がないなどとスィーが判断した場合は、反則と判断されポイントはすべて没収される。それどころかその後拷問の可能性もある。
そのように説明されているうちに柵内上空に何匹ものスィーが入ってきては旋回しながら監視し始める。
「カイシー」
ひときわ大きな声がこだまする。周りの歓声、罵声が更に大きくなる。
全員、左右を警戒する。警戒していると、スィーが戦えとばかりに針で尻や背を突く。
一人が少し中央へと走る。中央のほうが安全と考えたか。
そうこうしていると、辺りに不思議な光が2,3個現れだす。近くの男がそれに釣られて寄ってゆく。
リュウジさんの左右の男は、獲物を狩るとばかりに徐々に盾を構え槍を突き出しながら間合いを狭めてゆく。リュウジさんは左右を見ながらオロオロした様子だ。
一箇所で戦いが始まった。と思いきや、数回盾と武器が重なっただけで、すぐに離れる。その戦いを他のものが見て、一斉に襲おうとしたことに気がついたからだ。
なかなか硬直し戦いは起きない。
スィーがまた戦えとばかり尻や背を突く。
そうしていると、一箇所で、また戦いが起きた。その戦いは一瞬でケリが就いた。勝ったのはガタイの良い男で大外刈のように相手を倒しその後首を締め上げ気絶させ、柵の外へと投げ飛ばした。
勝った男はよく見ると腹に帯のようなものを巻いている。
「あの男、前回も出ていた。柔道の経験者らしいね。」
前回は、光に釣られているうちに複数人に押し倒され負けたらしい。
その逆側では、リュウジさんが一人の男と喧嘩していた。うまく槍を避け殴り合いに持ち込んだようだ。しかし、もう一人が後ろから、もみ合っている2人に向かい石を投げてつけて攻撃している。危うくリュウジさんの肩の辺りに当たりそうになる。危ない。
中央でも戦いが始まっている。2人の男が牽制し合いながらややへっぴり腰で槍でつつき合って戦っている。
「やれー。やっちまえー。」
「ビビってんじゃねぇ。」
「なめてるのか。気合い入れろー。」
自分たちはビビって参加すらしないというのに、柵近くの観客は言いたい放題だ。中には興奮しすぎて石やら砂やらを手に持ち中の者たちに投げ込んでいる者もいる。中にはスィーに囲まれて注意されている者の姿も見受けられる。興奮する気持ちも分かる。闘技場自体が広く、いろいろな場所で戦いが起きては離れ、牽制し、また戦いが起きる。小学生のときの運動会の騎馬戦を見ているかのような印象を受ける。
また一人脱落する。他のものに気を取られているうちに背中から襲われ、そのまま複数人にリンチされギブアップしたようだ。後ろから襲った男はさっきっからうまく逃げ回ってはたまに隙きを付き、攻撃している。金的を狙ったり、石を投げたりと正当方ではない。
先程の柔道男も同じように立ち回っている。柔道男は1対1なら相当の自信がある模様だ。とにかく1対1の状況を作るよう立ち回っている。相当、事前に作戦を練ってきたのであろう。複数人に囲われそうになると、同じく石や砂を投げ警戒し間合いを取る。
そうこうしているうちにリュウジさんが、3人の男にかつぎ上げられ柵の外へと追いだされた。負けてしまった。思わず肩の力が抜けてしまう。
人数が減るにつれスィー達も戦うよう強くあおっている様子だ。不思議な光もある一箇所に集中するようになった。光でおびき寄せているのだろう。
徐々に人数が減ってきた。柔道男がうまく立ち回りつつ一人一人仕留めている。同じく、ガタイが良い筋肉質の男が一人一人仕留めている。倒し方や、倒した後の構えから空手や少林寺、合気道などの経験者のようにみえる。
ついに逃げ回っていた男も柔道男に捕まり、外へ投げ飛ばされた。
そして面白いことに柔道男と空手男が最後に残った。観客もまるで異種格闘技戦でも見ているかのような雰囲気となり、ますます歓声が高くなる。
空手男が掴まれないよう間合いを図りながら拳を投げる。柔道男は慎重にそれを避け、どこか掴もうと試みる。間合いの距離はやや空手男のほうが広いようだ。だが大差はない。数発、軽く蹴りや拳が柔道男をかすめる。そのたびに歓声がこだまする。あまり見ることのない技と技のぶつかり合いに感心するほどだ。
しかしながら、この勝負は気持ちよくは終わらなかった。空手男が拳を突き出したとき、柔道男が手に持っていた砂を空手男の顔めがけて投げ、怯んだ隙きに押し倒し、金的辺りを数発攻撃したのち、寝技に持ち込み締め上げた。これで決着が付いた。柔道男はハナからまともな武道などするつもりはなかったようだ。
辺りは歓声に包まれた。柔道男は勝利と同時に雄叫びを上げていた。
試合後、僕はリュウジさんが心配になり、リュウジさんが押し出されたところへと行った。同じ気持ちだったのか、ショウイチさんや、あの島で一緒になった数人もいた。久しぶりに再会した。
リュウジさんは数箇所怪我をしており、血もにじみ出ていた。皆、状態を心配すると、リュウジさんは「たいしたことねえ。大丈夫だ」と言った。それを聞き、皆、安心した。
柔道男はまだ吠えていた。相当嬉しかったようだ。観客の数人が罵声を放っていたが一切 気にしていない様子だった。
柔道男が自分がいた近くの柵を超え外に出ようとしたときふと小さく呟いた。
「これでアドミニストレーターに会える・・」
その後、その場であの島で一緒だった人たちと数分ほど団欒した。皆、ここに来て数日はどうして良いかわからず非常に苦労したとの事だった。当たり前だ。ある人は、適当な洞穴もなく数日外で野宿したと言っていた。数日食事もなくこのまま餓死するかと思ったと語った者もいた。一人はこの闘技場係で、毎日石を削る作業をしているとのことだった。
この世界の噂話になりそうになると、スィーが「オワリニ シロ」と抑止してきたため団欒は終わりとなった。
「また皆で会えるといいな。」
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ここで団欒できたのもリュウジさんが格闘大会に出てくれたおかげだ。感謝しなければならない。
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一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
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