1 / 74
プロローグ
新世界での再起動
しおりを挟む
絶望が支配する炎の海で、一人の少女が叫んだ。
自らの無力さに打ち震えながら、託された最後の希望をその腕に抱き、魂のすべてを振り絞って。
「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」
その叫びは、世界を書き換える起動コマンド。
少女の腕にはめられた機械仕掛けの腕輪(ブレス)が閃光を放ち、襲い来る魔獣の爪を弾き返す光の障壁を展開する。光の中で、彼女の身体は宙に浮き、炎の奔流がリボンとなって絡みついた。村娘の衣服は光の粒子へと分解され、代わってその身に編み上げられていくのは、白を基調としたセーラーカラーの戦闘服。胸元には深紅のリボンが結ばれ、栗色のポニーテールは燃えるような赤色へと染め上げられていく。
やがて光が収束し、変身を終えた少女が、灼熱のオーラをまとって大地に着地する。
もはや、そこに怯える村娘の姿はない。
「――炎の魔法戦士。セーラー・フレア!」
凛とした声で、彼女は自らの名を告げた。その瞳には、すべてを守り抜かんとする不屈の炎が宿っている。彼女は地を蹴り、炎の矢となって迸った。華奢な拳に炎をまとわせ、巨大な魔獣の顎を打ち砕く。その一撃は、絶望を打ち破る希望の鉄槌。まさに、完璧な『ヒーロー』の姿だった。
――そこで、いつも目が覚める。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「3、2、1…メインエンジン、点火(イグニッション)」
2025年、NASAの研究施設。その心臓部であるコントロールルームに、張り詰めた、しかし心地よい興奮が満ちていた。数多のモニターが青白い光を放ち、人類の叡智の結晶たる新型推進エンジンの稼働状況をリアルタイムで映し出している。
その中央、指揮官席に座る若き日本人――天野翔(あまの かける)は、穏やかな笑みを浮かべてコンソールを眺めていた。
「素晴らしい…!見てください、この安定したエネルギー波形。僕の計算通り、いや、それ以上だ」
彼の呟きに、周囲のスタッフたちが安堵と称賛の息を漏らす。弱冠二十代にして、このプロジェクトの頭脳を担う天才。その事実に、嫉妬よりも畏敬の念を抱く者の方が圧倒的に多かった。
だが、その瞬間だった。
――ピピピッ!
けたたましい警告音が、祝福のムードを切り裂いた。一つのモニターが赤く染まり、エラーコードの羅列が高速で流れ始める。
「なっ…なんだ!?エネルギーチャンバー内の圧力が異常上昇!制御不能!」
「冷却システム、応答しません!」
スタッフたちの声が悲鳴に変わる。翔の表情から笑みが消え、超高速で思考が回転を始める。モニターに映し出された数値を瞬時に解析し、最悪の結論を導き出す。
(ダメだ…臨界点を超える…!このままじゃ、ここ一帯が吹き飛ぶ!)
「総員退避!急げ!」
翔が叫ぶ。だが、すぐ隣にいた後輩研究員は、恐怖で足がすくんで動けなくなっていた。その彼を、爆心地から遠ざけるように、翔は力強く突き飛ばした。
「君にはまだ、見るべき未来があるだろう!」
それが、彼の最後の言葉になった。
閃光。
轟音。
そして、すべてを焼き尽くす灼熱の衝撃波。
仲間を庇うように立ち塞がった若き天才の身体は、いとも容易く爆炎に飲み込まれていった。
(ああ…僕の夢も、ここまで、か…)
薄れ、千切れゆく意識の中で、翔の脳裏に浮かんだのは、科学の未来でも、ノーベル賞の栄誉でもなかった。
それは、ずっと昔の記憶。
ブラウン管のテレビの前で、目を輝かせていた幼い自分。
不格好でも、泥臭くても、たった一人の誰かを守るために、必死で立ち上がる銀色の巨人。ピンチの瞬間に駆けつけ、絶望を希望に変える、仮面のヒーロー。
そうだ。僕の原点は、いつだって彼らだった。
科学の力で、世界を平和にしたかった。
でも、本当に作りたかったのは、そんな小難しいものじゃない。
たった一人でいい。
悲しみに暮れる少女の涙を拭い、絶対的な希望で心を照らす――僕だけの『ヒーロー』を、この手で生み出したかったんだ。
(もし…もし、もう一度だけチャンスがあるのなら…)
後悔と、しかし不思議なほど純粋な願いが、光となって魂を包み込む。
(今度こそ、誰かを守れる、僕だけのヒーローを――)
その強い想いは時空を超え、因果律の鎖を断ち切り、やがて――。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
全く新しい世界で、産声となって響き渡った。
柔らかな産着の感触。
自分を優しく抱きしめる、温かい腕。
そして、耳慣れない、しかし慈愛に満ちた言葉。
「まあ、なんて元気な子でしょう。あなたのお名前は『アルト』。アルト・フォン・レヴィナスよ」
(…ここが、僕の新しい研究室…というわけか)
辺境貴族の赤子として、天才科学者の「強くてニューゲーム」が、今、静かに起動した。
これは、後に世界を揺るがす「創造主(プロデューサー)」と、彼によって生み出される「最強のヒロイン(プリズム・ナイツ)」たちの、壮大な勘違いから始まる物語である。
自らの無力さに打ち震えながら、託された最後の希望をその腕に抱き、魂のすべてを振り絞って。
「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」
その叫びは、世界を書き換える起動コマンド。
少女の腕にはめられた機械仕掛けの腕輪(ブレス)が閃光を放ち、襲い来る魔獣の爪を弾き返す光の障壁を展開する。光の中で、彼女の身体は宙に浮き、炎の奔流がリボンとなって絡みついた。村娘の衣服は光の粒子へと分解され、代わってその身に編み上げられていくのは、白を基調としたセーラーカラーの戦闘服。胸元には深紅のリボンが結ばれ、栗色のポニーテールは燃えるような赤色へと染め上げられていく。
やがて光が収束し、変身を終えた少女が、灼熱のオーラをまとって大地に着地する。
もはや、そこに怯える村娘の姿はない。
「――炎の魔法戦士。セーラー・フレア!」
凛とした声で、彼女は自らの名を告げた。その瞳には、すべてを守り抜かんとする不屈の炎が宿っている。彼女は地を蹴り、炎の矢となって迸った。華奢な拳に炎をまとわせ、巨大な魔獣の顎を打ち砕く。その一撃は、絶望を打ち破る希望の鉄槌。まさに、完璧な『ヒーロー』の姿だった。
――そこで、いつも目が覚める。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「3、2、1…メインエンジン、点火(イグニッション)」
2025年、NASAの研究施設。その心臓部であるコントロールルームに、張り詰めた、しかし心地よい興奮が満ちていた。数多のモニターが青白い光を放ち、人類の叡智の結晶たる新型推進エンジンの稼働状況をリアルタイムで映し出している。
その中央、指揮官席に座る若き日本人――天野翔(あまの かける)は、穏やかな笑みを浮かべてコンソールを眺めていた。
「素晴らしい…!見てください、この安定したエネルギー波形。僕の計算通り、いや、それ以上だ」
彼の呟きに、周囲のスタッフたちが安堵と称賛の息を漏らす。弱冠二十代にして、このプロジェクトの頭脳を担う天才。その事実に、嫉妬よりも畏敬の念を抱く者の方が圧倒的に多かった。
だが、その瞬間だった。
――ピピピッ!
けたたましい警告音が、祝福のムードを切り裂いた。一つのモニターが赤く染まり、エラーコードの羅列が高速で流れ始める。
「なっ…なんだ!?エネルギーチャンバー内の圧力が異常上昇!制御不能!」
「冷却システム、応答しません!」
スタッフたちの声が悲鳴に変わる。翔の表情から笑みが消え、超高速で思考が回転を始める。モニターに映し出された数値を瞬時に解析し、最悪の結論を導き出す。
(ダメだ…臨界点を超える…!このままじゃ、ここ一帯が吹き飛ぶ!)
「総員退避!急げ!」
翔が叫ぶ。だが、すぐ隣にいた後輩研究員は、恐怖で足がすくんで動けなくなっていた。その彼を、爆心地から遠ざけるように、翔は力強く突き飛ばした。
「君にはまだ、見るべき未来があるだろう!」
それが、彼の最後の言葉になった。
閃光。
轟音。
そして、すべてを焼き尽くす灼熱の衝撃波。
仲間を庇うように立ち塞がった若き天才の身体は、いとも容易く爆炎に飲み込まれていった。
(ああ…僕の夢も、ここまで、か…)
薄れ、千切れゆく意識の中で、翔の脳裏に浮かんだのは、科学の未来でも、ノーベル賞の栄誉でもなかった。
それは、ずっと昔の記憶。
ブラウン管のテレビの前で、目を輝かせていた幼い自分。
不格好でも、泥臭くても、たった一人の誰かを守るために、必死で立ち上がる銀色の巨人。ピンチの瞬間に駆けつけ、絶望を希望に変える、仮面のヒーロー。
そうだ。僕の原点は、いつだって彼らだった。
科学の力で、世界を平和にしたかった。
でも、本当に作りたかったのは、そんな小難しいものじゃない。
たった一人でいい。
悲しみに暮れる少女の涙を拭い、絶対的な希望で心を照らす――僕だけの『ヒーロー』を、この手で生み出したかったんだ。
(もし…もし、もう一度だけチャンスがあるのなら…)
後悔と、しかし不思議なほど純粋な願いが、光となって魂を包み込む。
(今度こそ、誰かを守れる、僕だけのヒーローを――)
その強い想いは時空を超え、因果律の鎖を断ち切り、やがて――。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
全く新しい世界で、産声となって響き渡った。
柔らかな産着の感触。
自分を優しく抱きしめる、温かい腕。
そして、耳慣れない、しかし慈愛に満ちた言葉。
「まあ、なんて元気な子でしょう。あなたのお名前は『アルト』。アルト・フォン・レヴィナスよ」
(…ここが、僕の新しい研究室…というわけか)
辺境貴族の赤子として、天才科学者の「強くてニューゲーム」が、今、静かに起動した。
これは、後に世界を揺るがす「創造主(プロデューサー)」と、彼によって生み出される「最強のヒロイン(プリズム・ナイツ)」たちの、壮大な勘違いから始まる物語である。
23
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る
がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。
その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。
爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。
爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。
『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』
人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。
『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』
諸事情により不定期更新になります。
完結まで頑張る!
四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜
最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。
一つ一つの人生は短かった。
しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。
だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。
そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。
早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。
本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ
黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ!
「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。
だが、それは新たな伝説の始まりだった!
「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」
前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる!
「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」
仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。
一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを!
無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる