【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

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第3章 炎の変神(ヘンシン)!その名はセーラー・フレア

戦いの後で、伝わらない心

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紅蓮の戦士、セーラー・フレアが戦場に仁王立ちすると、それまでの喧騒が嘘のような静寂が訪れた。
周囲には、黒い炭と化した魔獣の残骸が転がり、村の家々から立ち上る炎の揺らめきだけが、先程までの死闘の激しさを物語っている。

「はぁ…っ、はぁ…っ…」

リゼットの、荒い呼吸だけが静寂の中に響く。
彼女は、自らの手を見つめた。ついさっきまで、パンをこねることしか知らなかった、ごく普通の少女の手。その手が今、炎を操り、巨大な魔獣をいとも容易く屠ってみせたのだ。

(すごい…これが、私の力…?アルトが、くれた力…?)

身体の奥底から、未だ経験したことのない強大な魔力が満ち溢れてくるのがわかる。全能感にも似たその感覚に、リゼットは一瞬、我を忘れてしまいそうになった。
だが、その時。

ふっ、と身体を包んでいた灼熱のオーラが、蝋燭の火のように揺らめいて消えた。
同時に、体中を駆け巡っていた力が、急速に、まるで潮が引くように消えていく。

「あ…」

光の粒子が、リゼットの身体からふわりと解けていく。炎をまとった戦闘服は、まるで幻だったかのように消え去り、気づけば彼女は、元の、少しだけ煤けた村娘の服を着て立っていた。
力が抜けた身体は、もはや立っていることすらできず、膝からがくりと崩れ落ちる。

もう、炎の魔法戦士ではない。
ただの、恐怖と戦った、一人の少女に戻ったのだ。

その彼女の身体を、背後からそっと、しかし力強く支える腕があった。

「リゼット!」

アルトの声だ。
その声を聞いた瞬間、張り詰めていたリゼットの心の糸が、ぷつりと切れた。
恐怖、安堵、興奮、そして、無事だった喜び。あらゆる感情が一度に押し寄せ、熱い雫となって彼女の瞳から溢れ出す。

「アルトぉ…っ!」

リゼットは振り返り、夢中で彼の胸に飛び込んだ。子供のように、わんわんと声を上げて泣きじゃくる。

「うわぁぁぁん…!怖かった…!私、もうダメかと思った…!でも、アルトが来てくれて…!」 

――リゼット・ブラウンは、今、心の底から思う。

(よかった…!生きてる…!アルトが、助けに来てくれた…!)

(私のヒーローは、やっぱりあなただけよ…!)

温かい胸板、自分をしっかりと抱きとめてくれる腕の強さ。その全てが、今のリゼットにとっては世界そのものだった。感動的な再会。物語ならば、ここで二人が見つめ合い、ロマンチックな雰囲気になるはずの、最高の場面。

……のはずだった。

「ああ、リゼット!無事で何よりだ!素晴らしい!本当に素晴らしかったぞ!」

アルトは、確かにリゼットの背中をポンポンと叩いてはいる。だが、その声は感動に打ち震えているというよりは、世紀の大発見をした科学者の、興奮しきった声色だった。
彼の瞳は、リゼットの潤んだ瞳ではなく、彼女の腕にはめられたプリズム・チャームに釘付けになっている。

「やはり僕の仮説は正しかった!使用者の『勇気』という精神エネルギーが、マナ粒子の励起状態をトリガーし、エーテル体を再構築する!まさに奇跡の数式だ!」

そして、アルトはそっとリゼットを抱きしめていた腕を解くと、彼女と距離を取った。そして、腰のポーチから、見たこともないカチャカチャと音を立てる機械を取り出したのである。

「リゼット、感動の再会に水を差して申し訳ないが、一分一秒を争うんだ!変身直後のバイタルデータを取らせてくれ!これは、今後の人類の進化を左右する、何物にも代えがたい貴重なサンプルなんだ!」 

「へ…?」

呆然とするリゼットを尻目に、アルトは目を輝かせながら彼女の腕を取り、手際よく計測器のセンサーを取り付けていく 。

「心拍数、魔力残量、皮膚の電気抵抗!おお、マナ粒子の残留反応が色濃く出ている!このデータがあれば、変身シークエンスの最適化と、出力の安定化が図れるぞ!」

早口でまくしたてるアルトの顔は、リゼットが知る限り、最高に生き生きとしていた。
目の前には、命を懸けて戦い抜き、感動のあまり抱きついてきた幼馴染の少女がいるというのに、彼の頭の中は、完全にデータと数式で埋め尽くされている。

「……」

リゼットは、泣くのをやめた。
そして、自分の腕で嬉々として作業を続ける、愛すべき天才科学者の横顔を、ただじっと見つめる。

(助けてくれて、嬉しい。すごく、嬉しい…んだけど…)

(なんだろう、この、ちょっとだけ、ガッカリした気持ちは…)

喜びと、安堵と、そしてほんのちょっぴりのガッカリが混ざり合った、なんとも言えない複雑な表情を、彼女は浮かべていた 。


かくして、紅蓮の魔法戦士セーラー・フレアの記念すべき初陣は、天才プロデューサーの飽くなき探究心によって、少しだけ締まらない形で幕を下ろすのだった。
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