【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

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第7章 試練!砕かれた心とヒーローの涙

偽りの黄金騎士と、失墜する英雄譚

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『嘆きの森』の一件以来、僕たち『プリズム・ナイツ』の名は、一陣の風となって王都を駆け巡っていた。
酒場では、吟遊詩人が僕たちの活躍を大げさな身振り手振りで語り、子供たちは「フレア・ナックル!」「ブリザード・ブレード!」と叫びながら、チャンバラごっこに興じている。王都の新聞の一面には、三人の少女たちの似顔絵(あまり似ていない)と共に、『王都を護る三色の閃光!謎の英雄プリズム・ナイツ現る!』などという、実に扇情的な見出しが躍っていた。

「ふむ、民衆の認知度が向上しているのは喜ばしいことだ。だが、このイラストは問題だな。セーラー・フレアのスカートのプリーツの角度が、空気力学的に見て明らかに間違っている。これでは高速戦闘時に無駄な抵抗が生まれてしまう」

学院の僕の工房で、新聞を片手に僕が頭を悩ませていると、淹れたての紅茶を運んできたリゼットが、ぷんすかと頬を膨らませた。

「もー、アルトったら、そこじゃないでしょ!それより、見て見て!最近、私のパン屋さん、『セーラー・フレアの応援パン』がすっごく売れてるんだから!」
「ほう、それは興味深い。君の英雄的活動が、実店舗の売り上げに直接的な影響を及ぼしていると。いわゆる、コラボレーション効果というやつか」
「こらぼれーしょん?よくわかんないけど、みんなが応援してくれてるってことよね!えへへ!」

嬉しそうに笑うリゼット。その隣では、クラウディアが腕を組み、澄ました顔で報告書に目を通している。

「騎士団の上層部も、私たちの活躍を正式に認めたわ。先日の一件は、騎士団の特務としての功績として記録されるそうよ。まあ、当然の結果だけれど」
「あらあら、皆さん、お茶菓子にクッキーはいかがですか?昨日、教会で皆さんのために、心を込めて焼いてきたんです」

エミリアが、バスケットから取り出したクッキーは、少しだけ形が不揃いだったが、バターの優しい香りがした。
英雄としての名声。民衆からの声援。仲間たちとの、穏やかな時間。
それは、僕がかつて夢見た、ヒーローが活躍した後の、理想的な日常そのものだった。
この平和が、ずっと続けばいい。誰もが、そう信じていた。

――だが、ヒーロー譚という物語には、常に新たな『敵』か、あるいは、新たな『ヒーロー』が登場するのが、お約束というものだ。

その日、王都の中央広場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
原因は、突如として王都に現れた、新たなる英雄の存在だった。

その名は、『ゴールデン・ジャスティス』。

「見よ!あれこそが、我らが王都の新たな守護神、ゴールデン・ジャスティス様だ!」
民衆の一人が叫ぶ。その視線の先。広場の中央に設けられた演説台の上に、その男は立っていた。
全身を、寸分の隙間もなく黄金の鎧で覆っている。太陽の光を反射して輝くその姿は、神々しいとさえ言える。背中には、純白のマントが風にたなびいていた。

ゴォンッ!という轟音と共に、街に常駐していた警備ゴーレムの一体が、訓練用の的として広場に運び込まれる。
民衆が固唾を呑んで見守る中、ゴールデン・ジャスティスは、ゆっくりと右腕を天に掲げた。

「我が名はジャスティス!この王都に仇なす、全ての悪を裁く、黄金の光なり!」

その声は、拡声の魔法がかけられているのか、広場の隅々にまで朗々と響き渡る。
次の瞬間、彼の掲げた右腕に、太陽の光が収束していく。眩いほどの黄金のエネルギーが、螺旋を描きながら一点に集束し、巨大な光の槍を形成した。

「喰らうがいい!必殺!ジャスティス・スピアァァァッ!!」

放たれた光の槍は、不可視の速度で空を切り裂き、鋼鉄のゴーレムに直撃した。
閃光。
轟音。
そして、数秒後。そこに立っていたはずのゴーレムは、跡形もなく消滅していた。ただ、地面に巨大なクレーターが穿たれているだけ。その威力は、僕の分析によれば、セーラー・フレアの必殺技『フレア・ナックル』の、およそ3.7倍のエネルギー量に相当する。

「おおおおおおおっ!!」

広場を、割れんばかりの歓声が揺るがした。
民衆は、その圧倒的な力、そして、わかりやすい『正義』の姿に、熱狂していた。

「すごい…!プリズム・ナイツなんて目じゃないぜ!」
「ああ!彼こそが、本物の英雄だ!」

昨日まで、プリズム・ナイツに声援を送っていたはずの民衆が、手のひらを返したように、黄金の英雄を称賛している。
僕たち四人は、その光景を、広場の片隅から、ただ呆然と見つめていることしかできなかった。

「な、なによ、あれ…」
リゼットが、悔しそうに唇を噛む。

「…派手なだけのパフォーマンスだわ。エネルギー効率が悪い。だが…民衆の心を掴む術は、確かに心得ているようね」
クラウディアが、冷静に、しかし、その碧眼の奥に警戒の色を宿して分析する。

「なんだか…あの人の光、少しだけ、冷たいような気がしますです…」
エミリアが、不安そうに胸の前で十字を切った。

ゴールデン・ジャスティスの登場は、序章に過ぎなかった。
それからというもの、彼は王都で頻発するゴブリンの討伐や、盗賊団の捕縛など、様々な事件を、メディア(新聞社)を引き連れて、次々と解決していった。
彼の戦い方は、常に派手で、劇的だった。そして、戦いの後には必ず、民衆の前で高らかに『正義』を語り、自らの偉大さをアピールすることを忘れなかった。
巧みなメディア戦略。プリズム・ナイツが秘密裏に活動していたのとは、対照的だった。
王都の民衆の心は、瞬く間に、わかりやすい黄金の英雄へと傾いていった。

そして、運命の日がやってくる。
王都の騎士団が主催する、大規模な公開演習。その特別ゲストとして、プリズム・ナイツと、ゴールデン・ジャスティスの両名が招聘されたのだ。
名目は、『王都を守る二大英雄による、夢の共演』。
だが、その実態が、僕たちの英雄譚を地に落とすための、公開処刑の舞台であることを、この時の僕たちは、まだ知らなかった。



演習当日。王城の前に設けられた巨大な演習場は、溢れんばかりの観客で埋め尽くされていた。
僕たちプリズム・ナイツが姿を現すと、観客席からは、まばらな拍手と、好奇の視線が送られる。だが、ゴールデン・ジャスティスが黄金の鎧を輝かせて登場した瞬間、地鳴りのような大歓声が巻き起こった。
その人気の差は、歴然だった。

「さて、プリズム・ナイツの諸君」

ゴールデン・ジャスティスは、芝居がかった口調で僕たちを見下ろす。

「君たちの噂は聞いている。だが、その力、本物かな?この私との模擬戦を通して、君たちが王都の英雄を名乗るにふさわしいか、この民衆の前で、証明してもらおうじゃないか!」

それは、あまりにも傲慢で、一方的な挑戦状だった。

「な…!望むところよ!」
リゼットが、挑発に乗って前に出ようとするのを、僕は手で制した。
(まずいな…完全に、相手の土俵だ)
民衆の支持という、絶対的なアドバンテージを、彼は掌握している。ここで僕たちが勝利したとしても、「新人をいじめる悪役」という印象を植え付けられかねない。だが、断れば、「臆病者」の烙印を押されるだろう。
完全に、詰んでいた。

模擬戦が、開始される。
「変神っ!」の掛け声と共に、三色の閃光が走り、セーラー・フレア、ナイト・ブリザード、ヒーリング・エンジェルが顕現する。
三人は、完璧な連携でゴールデン・ジャスティスに襲いかかった。
炎が舞い、氷が煌めき、癒やしの光が仲間を支援する。これまでの戦いで培ってきた、プリズム・ナイツの総力戦だった。

だが。
「ふん、児戯に等しいな」

ゴールデン・ジャスティスは、その全てを、黄金の鎧に受け止め、涼しい顔で立っていた。
セーラー・フレアの炎は、その鎧に傷一つつけられず、ナイト・ブリザードの氷は、触れた瞬間、蒸発するように消えていく。ヒーリング・エンジェルの支援魔法すら、彼の身体から放たれる黄金のオーラに阻まれ、届かない。

「な…嘘でしょ…!?」
「私たちの攻撃が、全く…!」
「こ、こんな…!」

愕然とする三人。
その一瞬の隙を、偽りの英雄は見逃さなかった。

「終わりだ。ジャスティス・インパクト」

彼が軽く右ストレートを放つ。その拳から放たれた黄金の衝撃波は、三人をまとめて吹き飛ばした。
変神が解け、地に倒れ伏す、三人の少女たち。
勝敗は、あまりにも、あっけなく決した。

ゴールデン・ジャスティスは、倒れた三人を見下ろし、そして、観客席に向かって、高らかに宣言した。

「見たまえ、諸君!これが、真実だ!彼女たちは、未熟!あまりにも、未熟だ!こんな者たちが、英雄を騙っていたとは、片腹痛い!」

その言葉が、引き金だった。
観客席から、これまで抑えられていた感情が、一斉に爆発する。

「偽物だったのか!」
「俺たちの期待を裏切りやがって!」
「出ていけ!お前たちなんかが、英雄じゃない!」

昨日まで、声援を送ってくれていたはずの民衆からの、冷たい罵声。
それは、どんな強力な物理攻撃よりも、三人の少女たちの心を、深く、深く抉った。

リゼットは、悔しさに涙を浮かべながら、地面を叩いた。
クラウディアは、砕かれたプライドを隠すように、顔を伏せた。
エミリアは、人々の悪意に当てられ、ただ小さく震えているだけだった。

僕たちの、ささやかな英雄譚が、音を立てて崩れ落ちていく。
黄金の偽りの光が、三人の少女たちの、本物の輝きを覆い隠していく。
その光景を、僕は、プロデューサーとして、ただ無力に、見つめていることしかできなかった。
空は、どこまでも青く澄み渡っていたが、僕たちの心には、冷たい冬の嵐が吹き荒れ始めていた。
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