【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?

のびすけ。

文字の大きさ
60 / 74
第13章 偽りの聖女と、王都に響く希望の歌

英雄たちの孤立と、仕組まれた罠

しおりを挟む
疫病は、緩やかに、しかし、確実に王都を蝕んでいく。

それは、魂の風邪とでも言うべき、奇妙な病だった。

身体を蝕むのではない。

人々の心から、活力を、希望を、そして、他者を信じる気持ちを、静かに奪っていく。



僕たちが開発した薬も、エミ-リアの癒やしも、なぜか思うように効果を発揮しない。

それどころか、僕たちが救いの手を差し伸べようとすると、民衆から、冷たい視線を向けられることすらあった。



「結構です。あなたたちの、得体の知れない薬など、必要ありません」



「我々には、セレーネ様がついている」



「あなたたちの力は、もう必要ない」



かつて、僕たちを英雄と讃えたその口が、今、僕たちを拒絶する。

その現実に、少女たちの心は、じりじりと削られていった。



工房の空気は、鉛のように重い。

窓の外からは、復興が進む街の、活気ある喧騒が聞こえてくる。



だが、その音は、もはや僕たちの心には届かない。

僕たちの工房だけが、この王都から切り離された、孤島のようだった。



「どうして…私たちは、みんなのために戦ってきたのに…」



リゼットの悲痛な声が、工房に虚しく響く。

彼女は、ソファに深くうずくまり、その顔を、膝に埋めていた。

もう、何日も、彼女の、太陽のような笑顔を見ていない。



「…論理的に、説明がつかないわ。民衆の感情というものは、これほどまでに、脆く、移ろいやすいものだったというの…?」



クラウディアが、窓辺に立ち、腕を組んで、静かに呟く。

その声は、いつもと同じ、冷静な響きを装っている。

だが、その握りしめられた拳が、微かに震えているのを、僕は見逃さなかった。



「わたくしたちの、想いが、足りないのでしょうか…。もっと、強く、皆さんのことを信じなければ…」



エミリアが、祈るように、胸の前で手を組む。

その翠の瞳は、悲しみの雨に濡れていた。

誰よりも、人々の心を信じていた彼女が、今、一番、傷ついているのかもしれない。



「…斬る」。

菖蒲が、ただ一言、冷たく呟いた。

その手には、手入れの行き届いた小太刀が握られている。

「主殿と、皆様を、侮辱する者…たとえ、民であろうと、拙者が、この刃で…」。



「やめろ、菖蒲君」



僕が、静かに制止する。



「それは、カイザーの思う壺だ」



「そうよ。ここで私たちが暴れたら、それこそ、あの聖女様の言った通り、『不浄な存在』だって、証明することになるじゃない」



ルージュが、やれやれと溜め息をついた。

その瞳には、いつものような、からかうような色はない。

ただ、深い、深い疲労と、悪意への、冷めた怒りだけがあった。



僕たちは、袋小路に迷い込んでいた。

動けば動くほど、カイザーの敷いたレールの上を、走らされるだけ。

だが、何もしなければ、王都は、偽りの聖女の、狂信的な信仰に、完全に飲み込まれてしまう。

そして、運命の式典当日が、やってきた。







王都大聖堂は、聖女を一目見ようと、溢れんばかりの民衆で埋め尽くされていた。

その熱気は、もはや、異常なレベルに達していた。

誰もが、その目に、狂信的な光を宿し、まだ姿を見せぬ聖女の名を、祈るように、繰り返し唱えている。



僕たちプリズム・ナイツは、国王の勅命により、その警護という、なんとも皮肉な任務についていた。

大聖堂の入り口、その両脇に、僕たちは、まるで罪人のように、静かに佇んでいる。



「…見て。プリズム・ナイ-ツよ」



「まだ、いたのね、あんな人たち」



「聖女様に、何か、よからぬことを企んでいるのかしら…」



僕たちの耳に、民衆の、ひそひそとした声が、容赦なく突き刺さる。

リゼットが、悔しさに、ぐっと唇を噛みしめる。

その肩を、クラウディアが、そっと、無言で支えた。



ファンファーレが、高らかに鳴り響く。

そして、ついに、彼女が、姿を現した。

純白の、光り輝くような法衣に身を包んだ、聖女セレーネ。

銀色の髪が、ステンドグラスから差し込む光を反射して、後光のように輝いている。

その神々しい姿に、民衆は、熱狂の頂点に達した。



「セレーネ様!」「我らが聖女様!」



地鳴りのような歓声が、大聖堂を揺るがす。



祭壇に立つセレーネの神々しい姿に、民衆は熱狂し、祈りを捧げる。

その光景は、もはや、一つの巨大な宗教儀式のようだった。

彼女は、その慈愛に満ちた微笑みを、民衆に向け、そして、ゆっくりと、その腕を広げた。



「愛しき、王都の子羊たちよ。今、この地は、悲しみの闇に覆われています。

ですが、恐れることはありません。信じるのです。光は、必ずや、闇を打ち払うと」



その、透き通るような声が、拡声の魔法によって、広場の隅々にまで、響き渡る。

人々は、涙を流し、その言葉に、聞き入っていた。



だが、僕は、その言葉の中に、巧妙に隠された、毒の存在に気づいていた。

彼女は、決して、「誰が」闇を打ち払うとは、言わない。



ただ、「信じること」の重要性だけを、繰り返し説く。

それは、裏を返せば、「信じない者」を、異端として、排除するための、巧みな布石だった。



そして、その、熱狂の頂点で、カイザーは、次なる駒を動かす。

セレーネが、祝福の祈りの、最後の言葉を、紡ぎ終えた、まさに、その瞬間だった。



「う…ぐ…ああ…っ!」



広場の、最前列にいた、一人の男が、突然、喉を押さえて、その場に崩れ落ちた。

その顔は、土気色に変色し、その瞳は、苦痛に見開かれている。

疫病が、一気に牙を剥いたのだ。



それを皮切りに、悪夢は、連鎖した。

一人、また一人と、広場に集う人々が、次々と、同じ症状を訴えて、苦しみだし、倒れていったのだ。



歓声は、悲鳴に変わる。

祝福の祈りは、断末魔の叫びに、塗り替えられる。

平和だったはずの広場は、一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄へと、その姿を変えた。

カイザーの、悪辣な脚本の、第二幕が、今、上がったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々
ファンタジー
ソドムの少年から平安武士、さらに日本兵から二十一世紀の男子高校生へ。 一つ一つの人生は短かった。 しかし幸か不幸か、今まで自分がどんな人生を歩んできたのかは覚えている。 だからこそ今度こそは長生きして、生きている実感と、生きる希望を持ちたい。 そんな想いを胸に、青年は五度目の命にして今までの四回とは別の世界に転生した。 早死にの男が、今まで死んできた世界とは違う場所で、今度こそ生き方を見つける物語。 本作は、「小説家になろう」、「カクヨム」、にも投稿しております。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

追放された【才能鑑定】スキル持ちの俺、Sランクの原石たちをプロデュースして最強へ

黒崎隼人
ファンタジー
人事コンサルタントの相馬司が転生した異世界で得たのは、人の才能を見抜く【才能鑑定】スキル。しかし自身の戦闘能力はゼロ! 「魔力もない無能」と貴族主義の宮廷魔術師団から追放されてしまう。 だが、それは新たな伝説の始まりだった! 「俺は、ダイヤの原石を磨き上げるプロデューサーになる!」 前世の知識を武器に、司は酒場で燻る剣士、森に引きこもるエルフなど、才能を秘めた「ワケあり」な逸材たちを発掘。彼らの才能を的確に見抜き、最高の育成プランで最強パーティーへと育て上げる! 「あいつは本物だ!」「司さんについていけば間違いない!」 仲間からの絶対的な信頼を背に、司がプロデュースしたパーティーは瞬く間に成り上がっていく。 一方、司を追放した宮廷魔術師たちは才能の壁にぶつかり、没落の一途を辿っていた。そして王国を揺るがす戦乱の時、彼らは思い知ることになる。自分たちが切り捨てた男が、歴史に名を刻む本物の英雄だったということを! 無能と蔑まれた男が、知略と育成術で世界を変える! 爽快・育成ファンタジー、堂々開幕!

処理中です...