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37・緊急脳内会議
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わかってしまった。
光太郎は、青山くんのことが好きなのだ。
まあ、わたしが言うのもなんだけど当然だ。
だって青山くんは素敵だもの。
容姿の美しさが商売道具の光太郎にはかなわないかもしれないが、青山くんは背も高くすらりとして、端正な顔だちだ。
おまけに性格も穏やかで、どんな人にも礼儀正しく物腰柔らかで、いつも口やかましい誰かさんとは大違いなのだ。
青山くんの優しい瞳に見つめられたら、さすがの光太郎だって毒気を抜かれてしまうに違いない。
そう考えると、撮影所での光太郎の言動も説明がつく。
わざわざ妻だと紹介したのは、青山くんと親しそうにしていたわたしを引き離し牽制したかったからだ。
そして今光太郎は、わたしが青山くんとただの友だちなのか確かめようと必死なのだ。
つまり…、とわたしは顔を上げ眼前に迫る光太郎を見た。
光太郎がわたしの恋敵?
そう思った瞬間に、全身から力が抜けた。
ダメだわこの勝負、残念ながら負ける気しかしない。
青山くんの恋愛対象は異性のはずだから、わたしのほうが有利なのでは?とも考えた。
だとしても、わたしに勝ち目はなさそうだ。
考えてみてほしい。
池上光太郎が誰かを本気で落としにかかったら、果たしてそれに抗える人がどれだけいるだろう?
ああもう悔しいったらない。
「…おい、何を考えている?」
「え、あ」
人生初の壁ドン中に開かれたわたしの緊急脳内会議は中断された。
気づけば光太郎はさらに近づいており、わたしの顔をのぞき込んでいた。
「答えてくれ。付き合って、いるのか?」
光太郎の表情は真剣そのものだった。
「つ…つきあってません」
「そうか」
わたしの答えを聞いた光太郎は、安堵した様子で小さく笑った。
そんなに青山くんのことを好きなのか。
わたしなんかに嫉妬して、カッコ悪いくらい取り乱すなんて。
腹が立つよりも、なんだか光太郎が健気に思えてきた。
この人はわたしの想像以上に苦労しているのかもしれない。
誰にも打ち明けられない恋心を抱え、ひとりでここまで来たのだろう。
人を好きになるって苦しいけど素敵なことだなあ。
そんなことを思ったら涙が自然とこぼれた。
「おい、大丈夫か?」
光太郎は狼狽したが、わたしも自分の涙に驚いた。
「大丈夫です、ただ、えーと…」
わたしは涙をエプロンで押さえながら、光太郎にかける言葉を考えた。
がんばって、なんて言うのもなんだか上から目線だ。
だけど光太郎を応援したい気持ちは伝えたい。
考えた末、心配そうにこちらをのぞき込む光太郎の頭にそっと手を伸ばした。
払いのけられるかなと思ったが、光太郎はおとなしくわたしに頭をなでさせた。
がんばってください、応援してますから。
頭をなでるほんの数秒間、口には出さなかったけどわたしはライバルの恋の成就を願った。
「そ、それじゃまた明日」
壁ドンしたままの光太郎の腕をくぐり抜け、わたしは自分の部屋に戻った。
ドアを閉め、息を吐く。
おかしなことに心臓の鼓動がいつもよりはやい。
胸に手を当てて確かめようと思ったがやめた。
手のひらにはさっきまで触れていた光太郎の髪の感触が残っているのに気づいたから。
光太郎は、青山くんのことが好きなのだ。
まあ、わたしが言うのもなんだけど当然だ。
だって青山くんは素敵だもの。
容姿の美しさが商売道具の光太郎にはかなわないかもしれないが、青山くんは背も高くすらりとして、端正な顔だちだ。
おまけに性格も穏やかで、どんな人にも礼儀正しく物腰柔らかで、いつも口やかましい誰かさんとは大違いなのだ。
青山くんの優しい瞳に見つめられたら、さすがの光太郎だって毒気を抜かれてしまうに違いない。
そう考えると、撮影所での光太郎の言動も説明がつく。
わざわざ妻だと紹介したのは、青山くんと親しそうにしていたわたしを引き離し牽制したかったからだ。
そして今光太郎は、わたしが青山くんとただの友だちなのか確かめようと必死なのだ。
つまり…、とわたしは顔を上げ眼前に迫る光太郎を見た。
光太郎がわたしの恋敵?
そう思った瞬間に、全身から力が抜けた。
ダメだわこの勝負、残念ながら負ける気しかしない。
青山くんの恋愛対象は異性のはずだから、わたしのほうが有利なのでは?とも考えた。
だとしても、わたしに勝ち目はなさそうだ。
考えてみてほしい。
池上光太郎が誰かを本気で落としにかかったら、果たしてそれに抗える人がどれだけいるだろう?
ああもう悔しいったらない。
「…おい、何を考えている?」
「え、あ」
人生初の壁ドン中に開かれたわたしの緊急脳内会議は中断された。
気づけば光太郎はさらに近づいており、わたしの顔をのぞき込んでいた。
「答えてくれ。付き合って、いるのか?」
光太郎の表情は真剣そのものだった。
「つ…つきあってません」
「そうか」
わたしの答えを聞いた光太郎は、安堵した様子で小さく笑った。
そんなに青山くんのことを好きなのか。
わたしなんかに嫉妬して、カッコ悪いくらい取り乱すなんて。
腹が立つよりも、なんだか光太郎が健気に思えてきた。
この人はわたしの想像以上に苦労しているのかもしれない。
誰にも打ち明けられない恋心を抱え、ひとりでここまで来たのだろう。
人を好きになるって苦しいけど素敵なことだなあ。
そんなことを思ったら涙が自然とこぼれた。
「おい、大丈夫か?」
光太郎は狼狽したが、わたしも自分の涙に驚いた。
「大丈夫です、ただ、えーと…」
わたしは涙をエプロンで押さえながら、光太郎にかける言葉を考えた。
がんばって、なんて言うのもなんだか上から目線だ。
だけど光太郎を応援したい気持ちは伝えたい。
考えた末、心配そうにこちらをのぞき込む光太郎の頭にそっと手を伸ばした。
払いのけられるかなと思ったが、光太郎はおとなしくわたしに頭をなでさせた。
がんばってください、応援してますから。
頭をなでるほんの数秒間、口には出さなかったけどわたしはライバルの恋の成就を願った。
「そ、それじゃまた明日」
壁ドンしたままの光太郎の腕をくぐり抜け、わたしは自分の部屋に戻った。
ドアを閉め、息を吐く。
おかしなことに心臓の鼓動がいつもよりはやい。
胸に手を当てて確かめようと思ったがやめた。
手のひらにはさっきまで触れていた光太郎の髪の感触が残っているのに気づいたから。
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