超短編小説集 2024

いとくめ

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一生に一度

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手順はだいたい同じだし
体の構造も似たりよったりだし
独創性を発揮しようと
無理しても滑稽なだけだし
そもそもそれさえ
誰かが試したあとだったりするし
いつかは果てる行為を
相手を変えひたすら繰り返し
数や量を競ってみたところで
結局疲れるだけだし

自分や誰かの性衝動に振り回されるのは
正直うんざりしていたから
誰もが一生に一度しかできなくて
行為を終えたら命を落とす
そんな仕組みの体が欲しくなる

文字通り命がけだから
誰もが相手を慎重に選ぶようになるだろう
肉体を商品にすることもほぼ不可能になり
衝動的な行為に情けない言い訳をすることも
他人の尊厳を踏みにじるための道具にもできなくなる

言葉やまなざしだけで
恋はゆっくりと進行し
その価値があると互いに了承したら
ようやく身体を重ねるときが訪れる

一生に一度だけ
愛を交わして亡骸となった二人は
そのままひとつの棺に納められ埋葬される
結婚式と葬式が同時に執り行われ
参列者はうらやましそうにため息をつく

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