超短編小説集 4.5.6月

いとくめ

文字の大きさ
上 下
21 / 65
2023.4月

罪悪感

しおりを挟む
 あなたたちはわたしに死ぬなと怒ったが、それがわたしのために言ったんじゃないのは知っている。
 目の前でわたしに死なれたら、わたしの亡骸を見ることになるのがいやなのだ。
 止めることができなかった責任を感じて、その事実を忘れられなくなるのがいやなのだ。
 それまで愉快な気持ちでいたことを突然邪魔されることに我慢ならないのだ。
 だからあなたたちはわたしから体の自由を奪い、わたしが勝手に命を断つことを許さない。

 仕方がないので、わたしはわたしの心と体を傷つけた者たちの死を心の中で願うことにした。
 彼らがあらゆる不幸に見舞われ、むごたらしい死を遂げればいいと願った。
 その様子を何度も繰り返し思い描いて、毎日祈り続けた。
 なのにそれを知ったあなたたちは、わたしにそれもやめろと言う。
 憎しみは忘れ、すべてを水に流せと言う。
 死ぬことも憎むことも取り上げて、元通りに生きろと言う。
 暗い顔をして辛そうにするのもやめろと言う。
 笑えと言う。
 周りの人間を不安に不愉快にすることを許されないから、わたしは黙って薄笑いを浮かべることしかできない。

 あなたたちの言葉に従ったわたしが死ぬのも憎むのもやめると、あなたたちは自分たちの楽しい人生の続きをしに戻っていった。
 あなたたちには、わたしのような人間を支える気も、わたしをこんな風にした人間を罰するつもりもない。
 わたしがまた死のうとしたら、再びあなたたちはやってくるのだろう。
 助ける気などないくせに、きれいごとを言ってさらにわたしを追い詰める。
しおりを挟む

処理中です...