超短編小説集 4.5.6月

いとくめ

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2023.4月

出番

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見事なタイミングで登場し、鮮やかな切り返しと気の利いたセリフでその場を制する。
重要な決断は堂々たる態度で下し、その結果はいつも正しい。
まるで台本が用意されているみたいにすべてが完璧。
そうでないなら君には価値などないと言われているようで、いつも不安だった。
愚かなわたしはなんとかして期待に応えようと頑張ってみたが、結果は散々だった。
タイミングは常にずれ、間の悪い瞬間には必ず居合せ、口から出てくるのは平凡なセリフだけ。
何もかも期待外れに終わり、気まずい空気が流れたことしか覚えていない。
もう出番などいらないので、残りの人生叶うことなら小さな箱の中で静かに寝て暮らしたい。
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