5 / 6
第二章 点と点
1.
しおりを挟む
「あの女しつこいな」
男は息を切らしながら、ビルとビルの隙間を駆け抜けていく。周囲は東洋一の歓楽街と言われており、狭いビルがひしめいている。この場所は男の庭と言っても過言ではない。入り組んだ道をいとも簡単に走り抜ける。目前に塀が迫るが、男は高い壁もパワーシューズの跳躍力で難なく乗り越えた。
「ここまで、逃げればもう大丈夫だろう」
男が一息ついた。念のため、コートの内ポケットを探る。男が掴んだのはレーザー銃だ。旧型のレーザー銃だったが、殺傷能力は十分だ。
「あの女、アンドロイドじゃないだろうな」
逃げ切れた、と思ったのも束の間、頭上から女が飛びかかってきた。
「もう逃げ切れないわ」
男はよろけながら、レーザー銃を構えるが、パンプスを履いた女の長い脚で、手の甲を蹴上げられた。レーザー銃が男の手から滑り落ちる。
女は長い黒髪をなびかせながら、男に近付いてくる。黒のロングコートに手を突っ込んでいる。今の時代には似つかわしくない。
長身の女は、ただでさえ脚が長く、高いヒールを履いているせいで威圧感が増している。この痩身の体躯のどこに、これほどの力が宿っているのだろうか。
「この化け物女!舐めやがって!」
女は武器を使うまでもなかった。男の鳩尾に、肘打ちを食らわせた。男は床に倒れた。男の全身から脂汗が流れ出す。女は男の右腕を片手でいとも簡単に捻じり上げた。
「もう勘弁してくれよ」
男は口を歪めながら、情けない声を出す。
女が瞬きの少ない眼を向けながら、男に手を差し伸べた。男は起き上がろうと、女の手を握り締めた。熱がない。人間の持っている熱を感じなかった。
「姉ちゃん、やっぱりアンドロイドかい?」と言いながら、腕を払おうと試みるが、蹴りを入れられ、その場に倒れ込む。男が呻く。
「痛てぇ!痛てぇよ!」
握った掌に力が込められる。
女は男を片手で簡単に引っ張り上げた。
「お前……いや、お姉さんはアンドロイドなんだろう?」
男は慇懃に訊くが、女は答えない。近くで女の顔を凝視するが、アンドロイドには見えない。人間の皮膚感に違いない。透き通るような純白の肌。肉感的な唇が魅力的だ。ただ、先ほど手に触れたときの感じは人間ではないと男は思った。
女は黙ったまま、男に手錠をかける。靴も脱がされた。
パトカーの側まで連れて行かれると、ドアの目の前に、大男が現れた。
男は「ひぃ」と声を出した。
短髪に不精髭を生やし、眼が鋭い。刑事なのか、その筋のものなのか判然としない。
「羽川マリア巡査長」
大男が言った。
女は表情を変えずに、微かに口元を上げただけだった。
男は息を切らしながら、ビルとビルの隙間を駆け抜けていく。周囲は東洋一の歓楽街と言われており、狭いビルがひしめいている。この場所は男の庭と言っても過言ではない。入り組んだ道をいとも簡単に走り抜ける。目前に塀が迫るが、男は高い壁もパワーシューズの跳躍力で難なく乗り越えた。
「ここまで、逃げればもう大丈夫だろう」
男が一息ついた。念のため、コートの内ポケットを探る。男が掴んだのはレーザー銃だ。旧型のレーザー銃だったが、殺傷能力は十分だ。
「あの女、アンドロイドじゃないだろうな」
逃げ切れた、と思ったのも束の間、頭上から女が飛びかかってきた。
「もう逃げ切れないわ」
男はよろけながら、レーザー銃を構えるが、パンプスを履いた女の長い脚で、手の甲を蹴上げられた。レーザー銃が男の手から滑り落ちる。
女は長い黒髪をなびかせながら、男に近付いてくる。黒のロングコートに手を突っ込んでいる。今の時代には似つかわしくない。
長身の女は、ただでさえ脚が長く、高いヒールを履いているせいで威圧感が増している。この痩身の体躯のどこに、これほどの力が宿っているのだろうか。
「この化け物女!舐めやがって!」
女は武器を使うまでもなかった。男の鳩尾に、肘打ちを食らわせた。男は床に倒れた。男の全身から脂汗が流れ出す。女は男の右腕を片手でいとも簡単に捻じり上げた。
「もう勘弁してくれよ」
男は口を歪めながら、情けない声を出す。
女が瞬きの少ない眼を向けながら、男に手を差し伸べた。男は起き上がろうと、女の手を握り締めた。熱がない。人間の持っている熱を感じなかった。
「姉ちゃん、やっぱりアンドロイドかい?」と言いながら、腕を払おうと試みるが、蹴りを入れられ、その場に倒れ込む。男が呻く。
「痛てぇ!痛てぇよ!」
握った掌に力が込められる。
女は男を片手で簡単に引っ張り上げた。
「お前……いや、お姉さんはアンドロイドなんだろう?」
男は慇懃に訊くが、女は答えない。近くで女の顔を凝視するが、アンドロイドには見えない。人間の皮膚感に違いない。透き通るような純白の肌。肉感的な唇が魅力的だ。ただ、先ほど手に触れたときの感じは人間ではないと男は思った。
女は黙ったまま、男に手錠をかける。靴も脱がされた。
パトカーの側まで連れて行かれると、ドアの目の前に、大男が現れた。
男は「ひぃ」と声を出した。
短髪に不精髭を生やし、眼が鋭い。刑事なのか、その筋のものなのか判然としない。
「羽川マリア巡査長」
大男が言った。
女は表情を変えずに、微かに口元を上げただけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる