好きになった女子が愛人にしかなる気がないと言っていたので、形だけの彼女を作って愛人として付き合ってもらった。

無自信

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第40話

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 「セイ!早く早く!こっちこっち!」

ナツキに急かされながらイルカショーが行われる会場に着いた。まだイルカショーまで30分近くあるのに、もうすでに席に座って待っている人たちがいた。

「やっぱり!もういい席は確保されちゃってるね。でも、まだ前の席で空いているところがあるから、そこに座ろ!」

ナツキが最前列の席に行こうと階段を降りようとしたので、俺は、もう言うしかない!と覚悟を決めて、「ナツキ!前の席に座るのはやめとかない?ほら、後ろの席の方が全体を見ることができるしさ。」と本当の理由は言えなかったが前の席に座るのはやめようと伝えた。

「え?前の席の方が迫力があってきっと楽しいよ!水しぶきも飛んでくるしねっ!だから前の席に座ろっ!」

ダメだ、こいつ。ナツキの奴、水しぶきが飛んでくることは理解しているのに肝心なことが頭から抜けてる。もう言うしかないのか?えーい!ナツキが恥ずかしい思いをしないためだ!覚悟を決めろ!

「水しぶきが飛んでくるから良くないんだよ。ほら、服が濡れるじゃん?」

「今日こんな暑いんだから、服なんてすぐに乾くよ!あれ?セイって、イルカの飛ばしてきた水は嫌だとか思う潔癖症だったっけ?」

「そうじゃない!あーもう、何で分かんないかな。濡れたら服が透けるだろ!って言いたいんだよ!」

今日は暑くなると天気予報で言ってたので、俺もナツキも薄着だった。こんな状態で服が濡れたらどうなるか、やっとナツキも理解したらしく、「そっか。そうだよね。服が透けたらまずいよね。それじゃあ、最後列の席に座ろうか?」と提案してきた。

俺はナツキの提案を受け入れて(ほぼ俺が提案したも同然だったが)最後列の空いてる席に座った。

イルカショーが始まるまでの20分ほどの時間はナツキとさっきまで見ていた展示物の話をして待った。時間が経つにつれて会場の席は人で埋まっていった。

イルカショーが始まると会場は大盛り上がりだった。

イルカがトレーナーさんの指示通りに泳いだりジャンプしたりするたびに歓声が沸き起こった。予想した通り前の席に座っている人たちにはイルカがジャンプした時の水しぶきが飛んでいた。それを見たナツキが、「座らなくて良かったぁ。」とボソッと口に出していたので、俺は、「ごめんな。俺が合羽を用意しておけばよかったんだけど。」と俺の不手際を謝罪した。

するとナツキは、「ううん。大丈夫だよ。後ろの席も全体が見渡せて楽しいよ。」と俺の不手際を責めなかったので、いくらか救われた気持ちになった。イルカだけでなくアシカのショーもあったりして20分ほどでショーは終わった。ショーが終わるともう12時近くだったので、俺は、「そろそろお昼だし、フードコートに行こうか?」と提案した。

しかしナツキは、「ううん。大丈夫だよ。」と提案を拒んだ。

「え?何で?お腹すいてない?」と俺が聞き返すと、「実は……その……お昼作って来たんだよね。」とナツキは顔を少し赤くしながらバッグからお弁当箱を取り出した。

彼女がお弁当を作ってきてくれる。なんてデートっぽいんだろう。と俺は少し感動していた。ちなみに感動が少しだったのは、お弁当を作って来たのがナツキだったからだ。カジワラが作ってきてくれたらすごく感動していたと思う。もちろん、そんな失礼なことは口に出したりせずに、「え?作ってきてくれたのか?ありがとう。」とお礼の言葉を言った。

「上手くできたかどうか分からないけど……。」と言いながらお弁当箱を開き始めた。お弁当の中身はサンドイッチと唐揚げと卵焼きとウインナーとフルーツといった感じだった。

見た目は全然悪くないので、「美味しそうだなぁ。いただきまーす!」と見た目の感想を述べてからサンドイッチを手に取り食べ始めた。ナツキは俺の味の感想をじっと待っているようだった。一口食べると、一般的なレタスとハムを挟んだハムサンドと言った感じだった。飛び切り美味しいという訳ではなかったが、全然まずくもなかったので、「うん。美味しい美味しい!」と感想を言うと、ナツキはホッとした様子だった。

「それじゃあ、私も。いただきます。」と言ってナツキも食べ始めた。

2人用にしては量が多いかな?と思ったが、ナツキも俺と同じくらい食べたので意外と食べきることができた。でもお腹いっぱいでしばらくは動きたくないなぁと思っていると、またイルカショーが始まる時間になったので、それをボーっと2人で眺めていた。

2回目のイルカショーを見終わると、まだ見てない展示物を見に行った。アザラシやペンギンなどの展示物を見てナツキは喜んでいた。俺もただ泳いでいるだけの魚を見るよりは楽しかった。午後2時半にはすべての展示物を見終えたので、このあとどうするかナツキに尋ねると、もう一度大きな水槽を見たいといったので、最初の方に見た大きな水槽を見に行った。

「いくら魚が動いてるからって同じの見て楽しいか?」

俺は正直に疑問に思ったことをナツキに尋ねた。するとナツキは水槽を眺めながら、「こういうのはね、誰と見るかも大事なんだよ。」と答えた。

誰と見るかが大事か。ナツキは俺と見てるから楽しいのか?形だけの彼氏と見て楽しいのかな?そういえば、形だけの彼氏に何で弁当なんて作ってきてくれたんだろう?うーん?これは深く考えない方がいいやつだな。

俺は結論を出すのをやめて、ナツキが水槽を満足するまで眺めるのを待った。午後3時くらいになるとナツキも満足したらしく俺たちは水族館を出た。そしてバスに乗って駅まで戻り、歩いて家まで帰ってきた。

「今日は楽しかったよ。付き合ってくれてありがとう。」

「私も楽しかったよ。それじゃ、また明日ね。」

「ああ、また明日な。」

2人同時にそれぞれの家の玄関のドアを開けて家の中に入って行った。


 この日は家に帰ると母さんにナツキとのデートはどうだったかと質問攻めにあった。

母さんの質問攻めから逃れるため、俺は晩ご飯を食べ終えるとすぐに風呂に入って、さっさと自分の部屋に行った。部屋に入るとすぐに机に向かいノートを広げた。この日のナツキとのデートでカジワラとのデートに参考にできそうなことや改善すべきことをノートに書き始めた。

駅に9時に着いたのは良かったな。水族館に向かうバスにすんなりと乗ることができたから。カジワラとは9時に駅に待ち合わせすればいいかな?あと、カジワラにも学生証を持ってきてもらわないと。イルカショーを見る時、カジワラも前の席に座りたがるかもしれないから合羽を2つ用意しておかないと。

ナツキとは午後3時まで水族館にいたけど、カジワラとは午後3時まで水族館にいるかわからないよな。もっと長く滞在するのは一向に構わないんだけど、ナツキよりも早く切り上げられたらどうしよう?あー何で俺は水族館のあとにナツキとどこかの店に入ってお茶をしなかったんだ?そうしとけばカジワラと過ごせる時間を長くすることができたのに!これは今後気を付けなきゃいけないな!

フー。まあこんなところかな。俺はノートを閉じてスマホを手にした。カジワラにデートの約束を取り付けるためだ。

まだ午後8時前だし起きてるよな。

俺は、「今日ナツキとデートしたから、カジワラも都合がいい日にデートしてくれるか?」とメッセージを送った。

ずっとスマホの画面を見ていると、数分後に既読になり、さらに数分後にカジワラから返信が来た。

「へー。ヒナタさんとデートしたんだ?」
「それなら私もデートしてあげるよ。」
立て続けに2件のメッセージが送られて来た。

俺が2件目の「デートしてあげる。」というメッセージで喜んでいたら、「どこに行ったの?」と次のメッセージが送られて来た。

「水族館だけど。」と答えると、「へー。悪くないね。」「次の日曜日は予定ないから、その日でいい?」とまた2件メッセージが送られて来た。

ハタケに相談しといてよかったぁ。ハタケありがとう!と俺はハタケに心の中で感謝しながら、「俺も予定ないから、次の日曜日で全然構わないよ。」と返信した。

「了解。それじゃあ、次の日曜日ね。」

「うん。次の日曜日な。それじゃあ、おやすみ。」

「おやすみ~。」

カジワラとのラインでのやり取りを終えると、俺は小躍りするほど喜んだ。(実際に少し小躍りしていた)

よーし!これでやっとカジワラとデートができる!それもこれも俺の形だけの彼女になってくれて、デートまでしてくれたナツキのおかげだ!ナツキには感謝しないとな!

まだ午後8時半を少し過ぎたくらいだったので、俺はナツキに「まだ起きてるか?起きてるなら通話してもいいか?」とメッセージを送った。

数十秒後に「OK」という意味のスタンプが送られてきたので、通話をかけた。

「セイ、どうしたの?こんな時間に?」

「ごめんごめん!ナツキにお礼が言いたいから通話をかけたんだ。」

「お礼?何の?」

「今日俺とデートしてくれたことだよ。そのおかげでカジワラが俺とデートしてもいいって言ってくれたんだ。いや~、これもナツキのおかげだよ!ありがとう!」

「へー。そうなんだ?良かったじゃん。」

「ああ、ホント良かったよ!あ!でも、今後もカジワラとデートする前にはナツキとデートしなくちゃいけないから、部活が休みの日とかあったら教えてくれよな。」

「……うん。了解。話はそれで終わり?それじゃあ、私そろそろ寝るから通話切るね。おやすみ。」

「ああ、おやすみ~。」

ナツキとの通話が終わったあと、何だかナツキの元気がなかったことが気になった。

まあ、そろそろ寝るって言ってたし、眠かったのかもしれないな。と深く考えずに結論を出してしまったが、もう少し深く考えておけばよかった。と後々俺は後悔した。
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