ハッコウ少女とネクラな俺と

無自信

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第11話

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 「あ!ナカマと根暗、やっと来た。」

「待たせてごめん。それじゃあ、昇降口に戻ろうか?」

「そうだね。戻ろうか。」

「……。」

4人集まるとアオヤマさん、ナカマくん、セキネさんだけでうまく話が進んでいくので俺は話す必要性がなかった。昇降口に戻る数分間もセキネさんはアオヤマさんと話していて俺が話しかけられそうなタイミングはなかった。昇降口に着くとイガラシさんや風紀委員の方たちが集めてきたごみの細かい分別をしていた。

「あ!セキネさん!一生懸命にやってくれたみたいだね。ありがとう。ゴミはこっちで分別しとくから。」

イガラシさんが俺たちに気が付いて、そうセキネさんに声を掛けた。

するとセキネさんは「いえ、私も分別を手伝います!今日来るのが遅れて準備を手伝えなかったので。」と返事をした。

「そう?じゃあお願いしようかな。」

「はい!それじゃあ、ヒナ、ナカマくん、根倉くん、お疲れ様。」

「お疲れ様。」

「お疲れ様でした。」

ナカマくんと俺は挨拶をして帰ろうとしたがアオヤマさんは「お疲れ。それじゃあアカリ、私は教室で待ってるから。」とセキネさんに伝えていた。

それに対してセキネさんは「分かった。すぐ終わらせて行くから。」と答えていた。

そんなアオヤマさんのセキネさんとの関係性を俺は羨ましく感じていた。今の俺とセキネさんの関係性では決して言えない発言だなぁ。せっかくナカマくんがアシストしてくれたにもかかわらず、今日はほとんどセキネさんとしゃべれなかったしなぁ。俺もアオヤマさんほどじゃなくても、セキネさんとたわいもない会話ができるほどには仲良くなりたいなぁ。来週美化活動に参加した時はもっとセキネさんと話せるようにうまく立ち回るようにしないと。あ!そうだ!今日手伝ってくれたことのお礼をちゃんと言っといたほうがいいよな!え~と、ナカマくんはどこだ…。

「なぁ、根倉。」

俺がナカマくんのことを捜していると後ろからナカマくんに呼びかけられた。

「どうしたの?ナカマくん?」

「根倉はこの後どうするんだ?もう帰るのか?」

「うん。まあ、美化活動も終わったから、これ以上セキネさんと話せる機会は無さそうだしね。」

「そうか。根倉は歩いて帰るのか?」

「ううん。駅までは歩きだけど、そこからは○○駅まで電車だね。」

「そうなのか。俺も駅まで行くから一緒に帰らないか?」

俺はナカマくんが何故話しかけてきたのか分からなかったが、「一緒に帰ろう。」と誘われてやっと俺と一緒に帰ろうとしてくれていたことを理解した。

「…え?う、うん。いいよ。一緒に帰ろう。」

俺はナカマくんの発言に驚いて返答するのが少し遅れてしまった。しかしナカマくんは特に気にすることなく「今日の反省と今後の対策について話し合いたかったからちょうど良かったよ。」と言った。

「…じゃあ、まずは教室に戻ろうか?」

俺とナカマくんは教室にカバンを取りに戻ってから一緒に下校した。

俺たちが通う高校から最寄りの駅までは歩いて15分から20分ぐらいかかった。駅まで歩いている間はナカマくんが言った通りに今日の美化活動の反省や今後の対策について話し合った。と言っても美化活動自体の反省ではなく、美化活動中にセキネさんと話して仲良くなるという目的に対しての反省と対策について話し合った。

「さっきセキネさんと話せたか聞いた時は『ダメだった。』って言ってたけど、全く話せなかったのか?俺が体操着について聞いてみたらって根倉に言ったはずだけど、それも聞けなかったのか?」

「ナカマくんのアドバイス通りに『何で制服じゃなくて体操着を着ているの?』とはセキネさんに聞いたけど、その後何を話すか考えていなくて、ちょっと考えている間にアオヤマさんがセキネさんと話し始めたからセキネさんに話しかけるタイミングを逸してしまったんだ。」

「そうか。それなら今度はセキネさんに振る話題を考えるのとアオヤマさんをどうにかしてセキネさんと離れさせておく方法を考えなくちゃいけないな。まあ、アオヤマさんは俺が話しかけてちょっとの間、遠くに連れて行くことはできなくもないかな。一番の問題は根倉がセキネさんに振る話題だよ。根倉、何かセキネさんと共通の話題とかないのか?」

「…その、あるにはあるよ。」

「え?マジ?じゃあ何で話しかけなかったんだよ?って言いたいけど、根倉はコミュ障っぽいから、話しかける時に緊張でもしたんだろうな。それをいまさら責めてもしょうがないから話を進めよう。どんな話題なんだ?」

「セキネさんはブラッ〇ジャックを読んでいるみたいだからブラッ〇ジャックなら共通の話題だよ。俺も読んだことあるし。」

「そうか。そういえばセキネさんとアオヤマさんが根倉の名前がブラッ〇ジャックと一緒だって言ってたっけ。よし!それじゃあ根倉、今度の美化活動までにブラッ〇ジャックでセキネさんに振れる話題を最低3つか4つは考えておけよ。1つや2つだと心もとないからな。」

「分かった。考えておくよ。」

「これで今度の美化活動でセキネさんに話しかけるための対策が少しはできたから、ちょっと違う話をしてもいいかな?根倉?」

ナカマくんがさっきまでのにこやかな表情から少し気まずそうな表情に変えて、話題を変えていいか聞いてきたので、俺は何を言ってくるんだろう?と少し不安になったが、すぐに「大丈夫だよ。」と返答した。

俺の返事を聞いたナカマくんは気まずそうな表情を変えずに「その…なんだ…セキネさんって何で今日体操着を着てたの?」と尋ねてきた。

俺はナカマくんの質問を聞いて拍子抜けしてしまった。ナカマくんの表情からもっと重大な話題を振ってくるのかな?と思っていたからだ。ナカマくんの話題がたいしたことなかったことに対する安堵とナカマくんもセキネさんが体操着を着ていたことがそんなに気になっているということを知れた面白さから俺は「フッ。」と笑ってしまった。

「なんだよ!笑うことないだろ!」

「ごめん。ごめん。ナカマくんが話を戻してまでセキネさんが体操着を着ていた理由を聞きたいんだなぁ。って思うとおかしくてさ。それなら俺がセキネさんに何で体操着を着ているのかは聞いたよって言った時にすぐ俺にその理由を聞けばよかったんじゃないかなと思うしさ。」

「それはそうなんだけど、話の流れを遮ってまで聞く内容だとは思わなかったし…。あーもういいからさっさとセキネさんが体操着を着ていた理由を教えてくれよ!」

ナカマくんは恥ずかしさを振り払うようにさっきまでよりも大きな声でセキネさんが体操着を着ていた理由を俺に尋ねてきた。

俺は素直に「セキネさんが体操着を着ていた理由は昇降口に向かっている時に水の入ったバケツを持った書道部の人とぶつかって制服が濡れたからだってさ。」と答えた。

「……。」

ナカマくんは何も言わず少し驚いたような表情をしていた。たぶん驚くだろうな。とは思っていたが、そこまで驚くとは思わなかったので俺はナカマくんの反応に驚いてしまった。

「そんなに驚いた?」と俺がナカマくんに尋ねると、ナカマくんは「いや、セキネさんが体操着を着ていた理由も気になったけど、俺が驚いたのは根倉が俺の聞いたことに素直に答えたことに驚いたんだ。もっと『えーどうしようかなぁ。』とか言って教えるのを渋られるかなぁと思ったからさ。でもよく考えれば根倉はそんな奴じゃないよな。」と答えた。

「そんなこと考えもしなかったなぁ。俺に優しくしてくれるナカマくんに意地悪する理由がないからなぁ。」

「ハハハ。根倉は将来詐欺とかに引っ掛かりそうだな。気を付けた方がいいぞ。」

ナカマくんは笑いながら俺の将来を心配してくれた。優しくしてくれた人に優しくしようと思うからといって詐欺には引っ掛からないと思うけどなぁ。でも確か自分は詐欺に引っ掛からないと思っている人の方が詐欺に引っ掛かるんだっけか?

「ハハハ。でも人付き合いするなら意地悪なやつよりは素直なやつの方がいいけどな。」

ナカマくんとあれこれ話しているうちに駅に着いてしまった。

「根倉は○○駅に行くんだよな?俺は2番線に乗るから一緒なのはここまでだな。」

「うん。それじゃあ、また学校で。」

「うん。また来週な。来週は中間テストがあるからお互い頑張ろうぜ。それじゃ。」

中間テスト…そういえばあったな…。とセキネさんに話しかけることに集中しすぎて頭の隅に置いておいた来週の中間テストを俺は思い出し、ナカマくんが2番線のホームへ向かうのをぼーっと見送っていた
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