ハッコウ少女とネクラな俺と

無自信

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第16話

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 「ナカマ!根暗!なにボーっとしてんのよ?ちゃんと公園に向かう間もゴミ拾いなさいよ!」

久しぶりに友だちができた喜びを噛みしめていたところに、全くゴミ拾いをしていなかった俺とナカマくんを注意しにアオヤマさんが近づいてきた。

「ごめんごめん。アオヤマさん。ちょっと話し込んじゃってさ。これからはちゃんと拾うよ。」

「気をつけてよ!…ところでナカマと根暗って友だちじゃないの?」

アオヤマさんがタイムリーな質問をしてきたので、俺とナカマくんは目を合わせて笑ってしまった。そんな俺たちの様子を見たアオヤマさんは訳が分からないといった表情をしていた。

「アオヤマさん、俺たちは友だちだよ。何で疑問に思ったの?」

「え?だって仲よさそうに見えた割には一緒にお昼を食べてないんでしょ?だからちょっと話す程度の関係なのかな?って思ったから聞いてみたんだけど、友だちだったのね。ごめん!疑ったりして。」

「気にしないでよ!俺たちも気にしてないから。な!根倉!」

「う、うん。そうそう!気にしなくていいよ!」

「そう?ごめんね。…あ!そう言えば『ゴミ拾え!』って言っておいてまだ伝えてなかった。アカリも同じ班でいいってさ。それで集めるゴミの分担は前と同じでいいよね?」

「うん。大丈夫だよ。それじゃあ、俺が空き缶で根倉がペットボトルだったよな。」

「うん。確かそうだったよ。まあ俺とナカマくんの担当が入れ替わっていても特に問題はないと思うけどね。」

「そう言われてみればそうだな。どっちでもいいか。」

「ちょっと!担当はどっちでもいいけど、集める時はちゃんと分けてよ!」

アオヤマさんが心配そうに言ってきたので、ナカマくんが「分かってるよ。そこまで馬鹿じゃないよ。」と微笑みながら返答した。アオヤマさんは言い過ぎたと思ったのか、少し申し訳なさそうに「そう?それならいいけど。」と返答してきた。

「あ!そろそろ公園に着きそうね。着いたらイガラシさんから挨拶があるから、すぐにゴミ拾い始めてみんなから離れていかないでね。」

「分かったよ。」

「うん。分かったよ。」

学校から15分ぐらい歩いて○○公園に着いたが、来る前にイガラシさんに言われた道中のゴミ拾いを会話に夢中で全くしていなかったので申し訳ない気持ちになった。

イガラシさんたちが美化活動の参加者を集めてゴミ拾い開始の挨拶を始めた。

「本日は参加していただきありがとうございます。これから○○公園のゴミ拾いを始めたいと思います。4人1組の班に分かれてもらってゴミ拾いしてください。この公園はボール遊びが禁止されていない公園なので、一応気を付けてゴミ拾いしてください。2時半に今いる場所にまた集まってください。それでは本日はよろしくお願いします。」

○○公園に来るのは初めてだったので意外と広いことに驚いた。パッと見渡した感じだが、イガラシさんの言う通りボール遊びが禁止されていないのでキャッチボールをする若い男性2人組やジョギングする中年男性がいた。

これは先週の学校周りのゴミ拾いよりも広い範囲をゴミ拾いしなくてはいけないから大変そうだな。と考えていると、セキネさんが「おーい!根倉くーん!」と俺に呼びかけてきた。

声のする方を振り向くとセキネさんが手を振って俺を呼んでいた。アオヤマさんとナカマくんはすでにセキネさんのところに集まっていた。俺は急いでセキネさんたちのところへ向かった。

「ごめんごめん。ボーっとしてた。」

「根倉くんも揃ったから、それじゃ行こうか。」

「え?何処に?」

「根倉くんには言ってなかったね。公園の北側に行こうとしてたの。前来た時に結構ゴミが落ちてたから。」

「そうなんだ?」

「うん。それじゃ行こうか。」

セキネさんの説明を聞いてから俺たちは公園の北側に向かった。向かう間も落ちているゴミを拾っていたのだが、セキネさんの言う通り公園の北側に近づくにつれて落ちているゴミが増えていった。遊具が少なくて人があまり来ないからかな?と考えたが本当のところは分からなかった。

落ちているゴミはペットボトルや空き缶が多かった。そのためセキネさんが俺のゴミ袋にペットボトルを入れる時に話しかけようと思うのだけれど、セキネさんに話しかけることの緊張と話しかけることに成功しても話し始めたらアオヤマさんにナカマくんとの時みたいに注意されるのではないかという緊張からなかなか話しかけられずにいた。

どうしよう?このままじゃ先週と同じくセキネさんと仲良くなれずに美化活動が終わってしまう!そもそも参加して2回目で仲良くなれると思っていたのが間違いだったのかな?セキネさんと仲良くなるのを半ば諦め始めていた時、セキネさんが「根倉くーん!これもお願い!」とペットボトルを持って俺に近づいてきた。

俺がセキネさんの方に目を向けると、セキネさんの後方からボールが飛んでくるのが見えた。

言葉に出すよりも早く、体が動いていた。ボールがセキネさんに当たる前にボールとセキネさんの間に入りボールをキャッチした。ボールが一直線で飛んで来たら間に合わなかっただろうけど、山なりに飛んできたので何とか間に合った。

「大丈夫ですか?セキネさん?」

セキネさんの方を振り向くと、セキネさんは何が起こったのか理解できず困惑した表情をしていた。

「なんともないけど。急にどうしたの?根倉くん?」

「すみませーん!大丈夫ですかー?」

おそらくボールをセキネさんの方へ飛ばしてきた小学生らしき3人組が近づいてきた。

ここは毅然とした態度で注意した方がいいと考えたが、「大丈夫だけど、ボールで遊ぶ時は周りに気を付けて遊んでね。」と実際注意すると少し柔和になってしまった。

それでもその小学生の3人組は反省したらしく、「はい。ごめんなさい。」と素直に謝ってきた。

ひねくれた子たちじゃなかったのだろう。反省もしているようだし、もうそんなに強く注意する必要はないかな。

「はい。ボール。」

俺は小学生の3人組にボールを返した。

「ありがとうございます。」

小学生の3人組はボールを受け取るとお礼を言って去って行った。

「そっか。ボールが私に当たる前にキャッチしてくれたんだね。ありがとう!根倉くん!」

今の俺と小学生のやり取りを見て、事態を把握したセキネさんが俺にお礼を言ってきた。

「い、いや、たいしたことないですよ。これくらい。」

「ううん。飛んできたボールに当たらないで済むなんて、私のついてない人生では滅多にないことだよ。ありがとう!根倉くん!」

「いえ、ホントにたいしたことないですから。」

俺は口では謙遜していたが心の中ではセキネさんを飛んでくるボールから守れたことが嬉しくて舞い上がっていた。

「おーい!アカリー!根暗―!そろそろ2時半だから公園の入り口にもどろー!」

離れた所にいたアオヤマさんがナカマくんと一緒に俺たちのところにやって来た。

「ん?何かあった?」

アオヤマさんが敏感に察知して何かあったのではないか聞いてきた。

「ううん。何もなかったよ。ね!根倉くん!」

「え?う、うん。何もなかったよ。」

セキネさんがさっきのことを言いたくないのだな。と察して俺はセキネさんの発言に合わせた発言をした。

「そう?…分かった。それならいいんだけど。」

アオヤマさんは訝しげな表情をしていたが、最終的にはセキネさんの発言を信じたみたいだった。
そのあと、俺たち4人は最初に集まった公園の入り口に戻った。
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