ハッコウ少女とネクラな俺と

無自信

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第18話

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 とりあえず教室でセキネさんを待つ間、セキネさんと話す話題を考えてみたが全く思いつかなかった。そもそもナカマくんに言われて考えた3つの話題も何日も考えてやっと思いついたものなので、(厳密にはそのうちの1つは母さんが俺に聞いてきたことをそのまま流用している)2,30分考えたぐらいで思いつくわけがなかった。

どうしよう?どうしよう?一緒にお茶をするってことは、その時の会話が盛り上がるか盛り上がらないかで一緒にいる時間が決まるってことだよな。会話が盛り上がれば時間なんてあっという間に過ぎるだろうし、会話が盛り上がらなければ「そろそろ帰ろうか?」と言って切り上げられてしまうかもしれないしなぁ。

それだけじゃなく会話が盛り上がらない相手と友だちになろうと思う人はいないだろうから、是が非でも会話を盛り上げなきゃいけない!あ~でも全然いい話題が思いつかない!そろそろセキネさんも戻ってきちゃうだろうしどうすればいいんだ?俺が教室のスペースがあるところでグルグルと歩き回りながらあーだこーだ考えていると、「根倉くん!」と俺を呼ぶセキネさんの声が聞こえた。

声の聞こえた方を振り向くと、セキネさんが教室の入り口の近くで膝に手を当てながら前傾姿勢になって息を整えていた。俺を待たせている申し訳なさからか、息を整えなきゃいけないくらい急いで教室に来てくれたことが俺は嬉しかった。

「…ごめんね。…ずいぶん…待たせちゃったよね?」

「そんなことないですよ!セキネさんは美化委員の仕事があったわけですから仕方ないですよ!」

「…ホントに…ごめんね。…今、帰る準備…するから。」

そう言うとセキネさんは自分の席に行ってカバンに教科書などを詰め始めた。そんな様子を見ながら、俺は時計に目をやり、(今3時10分か。ということはセキネさんの家の門限とかもあるだろうけど、長ければ5時くらいまでは一緒にお茶できるだろう。話を盛り上げられるように頑張ろう!)などと考えていた。

1,2分後セキネさんがカバンに荷物を詰め終えると「それじゃ根倉くん!行こうか?」と言ってきたので、「はい。」と返事をしてセキネさんに付いて行き教室を後にした。

セキネさんが教室に来るまでは不安でいっぱいだったが、今は一緒にお茶できる喜びでいっぱいだった。

「とりあえずA駅前まで行ってみようか?駅前ならカフェとかファミレスとか結構あるだろうし。」

「そうですね。」

「根倉くんはカフェとファミレスだったらどっちがいい?」

「僕はどちらでも構わないです。セキネさんがいい方で。」

「あはは!根倉くんは優しいね!じゃあ私が決めちゃっていいかな?」

「はい!お願いします。」

このままじゃ全然ダメだ!セキネさんが話しかけてくれているから何とかなっているが、セキネさんが「根倉くんと話していても楽しくない!もうお茶をさっさと飲んで解散しちゃおう!」と考え始めたら、俺に話しかけることをやめてしまうかもしれない!それはまずい!俺から話しかけられないなら、セキネさんが振ってくれた話題をもっと広げなくては!

「この前も言ったけど、根倉くんとナカマくんが美化活動に参加してくれてホントに良かったよ!美化活動の時間はあまり変えられないから有志で参加してくれる人の人数でゴミの拾える範囲が広がるからね。」

あ!この話題ならあの質問ができるんじゃないか。と考えた俺は「あの、気になっていることがあるんですけど聞いてもいいですか?」と、まずは質問をしてもいいかセキネさんに尋ねた。

「え?なになに?答えられることだったら答えるけど。」

セキネさんは笑顔で「答える。」と言ってくれたので、俺は安心して質問することにした。

「あの、何で美化活動って定期試験の前にもあるんですか?部活動とかは休みなのに美化活動は休みにならないんですか?」

「あ!やっぱりそれ気になってたか。それに答える前に質問を質問で返して悪いけど、根倉くんは美化委員の活動ってどんなものがあると思う?」

「美化委員の活動?え~と?土曜日のゴミ拾いと……あ!学校のゴミ箱のゴミを集めた後、ちゃんと分別されているか確認してますよね?あとは何だろう?」

「あとは文化祭の時に出たゴミを業者さんへ引き渡すのを手伝ったりするみたいだよ。学校のゴミ箱のゴミの分別は当番制だから、毎週美化委員全員でやらなくちゃいけないのは土曜日のゴミ拾いだけなんだけど、それは何年か前の熱意のある美化委員の先輩が校長に直談判して、活動時間を短くする代わりに毎週学校の敷地や近くの公園のゴミ拾いをする美化活動をすることを認めさせて始まったみたいだよ。」

「やっぱり活動時間が短いからだったんですね。ナカマくんともそうじゃないかなって話してたんですよ。でも定期試験の前くらい休みにしてほしいですよね?」

「そうだね。でも何年も毎週ゴミ拾いするところを学校の周りに住んでいる人たちに見られていたから、やらない週があると学校の体裁が悪くなるから休みにできないって噂もあるみたいだよ。」

「そうなんですか?それが本当ならひどい話ですね!」

「あはは!まあ噂だけどね。実際は今の美化委員長のイガラシさんも熱意のある人だから定期試験前も美化活動をできるように先生たちにお願いしているんだと思うよ。」

「そうですか。セキネさんも大変ですね。」

「ううん。活動内容は分かってて美化委員に入ったから、それほど大変でもないよ。」

ニコニコしながら話すセキネさんを見ていると、本当に美化委員の活動が大変じゃないんだな。と思う。大変かどうかなんて人それぞれの尺度で変わってくるからな。疑問も解決したし話も少し弾んでいるし(ほとんどセキネさんが話しているのは変わらないが)これなら一気にセキネさんと仲良くなることが出来るんじゃないか?と俺が考えているとA駅前までいつの間にか着いていた。

「それじゃ、お茶するお店を探そうか?」

「そうですね。」

俺とセキネさんがお茶をする店を探し始めてA駅前をぶらぶらし始めると「あれ?アカリじゃない?」と後ろからセキネさんに話しかける声が聞こえた。

セキネさんと俺が振り向くと、そこにはセキネさんやアオヤマさんと比べるとメイクが派手な他校の女子が3人いた。俺は4月に引っ越してきたばかりで、まだ着ている制服だけで、どこの高校かは判別できないが、セキネさんと着ている制服が違ったので他校の人だと分かった。

「久しぶりじゃん。中学の卒業式以来だっけ?最近ライン送ってなかったけど元気だった?」

真ん中にいる女子がセキネさんに話しかけて来る。声から察するにさっきセキネさんに話しかけてきたのも、この人なのだろうと分かった。

「久しぶり。ルリさん。マチさん。ミサさん。」

心なしか挨拶するセキネさんの声のトーンがさっきまで俺と話していた時よりも暗くなった感じがした。

「マチとミサは最近アカリにラインした?」

「私はしてな~い。」

「私も~。」

真ん中の女子が左右にいる女子にセキネさんにラインしたか聞いたため、真ん中の女子がルリさんだと分かった。もしかしたらセキネさんとルリさんたちは会話の内容からして、中学の時それほど仲良くなかったのかもしれない。卒業式の時に一応ラインのIDを教えたが、その後は段々とメッセージを送らなくなるような間柄の感じがした。

「ごめんね~。アカリ。もっと頻繁にラインしたかったんだけど、同じ高校の友だちの方を優先しちゃってた。ホントにごめん。」

「ごめん。アカリ~。」

「ごめ~ん。」

「全然いいよ。私の方からラインしなかったのも悪いんだし。」

「ところでアカリ、一緒にいる男子は誰なの?もしかして彼氏?」

ルリさんがセキネさんに俺のことを尋ねてきた。

「違うよ!彼は根倉くん!友だちだよ!」

「へ~。友だち?そうだったんだ。勘違いしちゃってごめんね~。アカリ。根暗くん。」

「ううん。大丈夫だよ。ね!根倉くん?」

「う、うん。そうそう気にしないでください。」

俺はセキネさんに「友だちだ。」と他人に紹介されたことが嬉しくて、恐れ多いことにセキネさんの彼氏と勘違いされたことや「根暗」というアクセントで呼ばれたことはたいして気にならなかった。

もちろん今一緒に駅前をぶらぶらしていた俺を他人に紹介するときに「クラスメート」と言うよりも「友だち」と言った方が変にいろいろ説明しなくて済んでいいから、そう言ったのだということは俺も分かっているがやっぱり嬉しかった。

「それで2人は何してたの?」

「一緒にお茶する場所を探してたんだよ。」

「お茶?それならちょうど良かった!私たちもお茶しようとしてたんだ。積もる話もあるし、一緒にお茶しない?」

ルリさんがにっこり笑いながら提案してきた。

「私はいいけど、根倉くんの意見も聞いてみないと。根倉くんはいいかな?」

セキネさんが不安そうな顔で俺に尋ねてきた。

俺はセキネさんとルリさんたちはそんなに仲良くなかったのではないか?と思っていたがセキネさんが一緒にお茶してもいいと言っているなら、それは誤解だったんだ。と思い直した。きっと知らない人と一緒にお茶をしなきゃいけなくなる俺を心配してくれているんだ。と思い、そんな心配は全然必要ない!という思いを込めて「セキネさんが構わないなら僕も構いません。」と答えた。

(この時、セキネさんの本当の気持ちに気付いていたらと俺はずっと後悔するようになる。)

「それじゃあ根暗くんもOKみたいだし、あそこのファミレスで一緒にお茶しようか?」

ルリさんに促されて俺たち5人は近くのファミレスに入った。
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