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重い事実

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私は感情を捨てるかのように頭をブンブンと横に振る。そして大きく深呼吸をし、ぐっと拳を握った。

「やっぱりダメです。ちゃんと帰ってください。奥様が待っているんですよね?」

意を決して言ったのに、日下さんは何も動じない。けれど無言になった。
しびれを切らし、私は日下さんの左手を取る。

「これ!指輪、してるじゃないですか!」

責めるように言うと、日下さんはふいと私から視線を外し目を伏せた。

「そう、だね」

呟くように頷く日下さんはまるで生気が抜けたようになって俯く。その姿はまるで自分が被害者でもあるかのようで、その態度にムカムカとした気持ちがわき上がった。

「私は日下さんが好きですけど、だからといって不倫はしたくありません。奥様を大事にしてください。私はもう絶対流されませんからっ」

吐き捨てるように言うと、私は日下さんの返事も待たずその場から逃げ出した。

ムカムカした嫌な気持ちが体の奥から込み上げて目頭が熱くなる。日下さんの前で泣いたら負けだと思い我慢したが、一人夜の街を駆け抜けているといろいろな気持ちが止めどなく溢れてきて叫びたい衝動に駆られた。

「うっ、ううっ……」

涙を拭ってくれる人は誰もいない。
ひとりぼっちの夜はひどく身にしみた。
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