愛することを忘れた彼の不器用な愛し方

あさの紅茶

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日下の記憶

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ある日のこと。

「暁くんと結婚したかったなー」

初めて香苗が弱音を吐いた瞬間だったように思う。その言葉に俺は二つ返事で答えた。

「ん、じゃあ結婚しよう」

「……嫌だよ。暁くんとは結婚しません。いい人みつけてください」

「俺は香苗がいいんだよ」

「バカじゃないの?お断りよ」

ふんと鼻で笑い香苗はそっぽを向く。そのまま後ろから抱きしめると、香苗の細さがダイレクトに伝わって胸が傷んだ。

「香苗」

「……嫌だって言ったでしょう」

そう否定しながらも、香苗は俺の腕にぎゅっとしがみついた。小刻みに揺れる肩を正面から抱きしめ直し、絶対に離すものかと誓った。

次の週、俺は病院に婚姻届を持っていったが、見事に香苗に断られた。

「絶対に書かないから!」

そう言うと布団を被って隠れてしまう。
ちょうどご両親と鉢合わせたので、香苗さんと結婚させてくださいと頭を下げた。

香苗のご両親は戸惑い、香苗はその後、布団を被ったまま顔を見せてくれなかった。
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