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日下の記憶

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それから半年、宣告通り香苗はこの世を去った。

覚悟はできていたはずだったのに、受け入れられなかった。そこから一年くらいはほとんど記憶にない。

仕事に行って帰って呆然とすることをただひたすら繰り返す。

楽しい。
悲しい。
暑い。
寒い。

単純な感情ですらどこかに置いてきてしまったかのように、なにも感じなかった。
そんな状態だから、同僚が気を遣ってくれていたことさえも気づかなかった。

やがて一周忌を終えて、ようやく香苗が亡くなったことに実感がわいてきた。そうすると少しずつまわりが見えてくるようになり、俺はまわりから気を遣われていることにもようやく気づいた。けれどそれは、余計にやるせない気持ちにさせた。

俺は香苗の遺品も整理し始めた。

だけど何もないんだ。
まるで初めからいなかったみたいに。

遺影はこれがいいと本人が決めていた。他の写真は一切ない。結婚したって一緒に暮らすことは叶わなかった。あんなに愛していたのに、香苗は俺に何も残してくれなかった。

たがが外れたかのように、わんわん泣いた。
誰かにすがりたくてまた金木犀へ通うようになった。ママに話を聞いてもらうだけで少しだけ気持ちが楽になる。
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