84 / 104
比べないで
84
しおりを挟む
事が終わったあと、ようやく日下さんは私を見た。
「芽生、泣いてるの?」
「……」
悔しい。
セフレにはならないと言っておきながら流されてしまった。こんなのセフレと一緒だ。
だって、好きな人に求められたら嬉しい。その気持ちが自分の抑止力より勝ってしまう。でも日下さんは私じゃなくて香苗さんを見てる。
悔しい。
悔しくてたまらない。
「ごめん、芽生」
日下さんは私の頬に手を伸ばしたが、私は反射的にそれを払いのけた。
「謝るくらいならしないでください。私は好きだから受け入れたまでです。だけど……日下さんの中には私はいない。私を見てないです。日下さんの中にいるのは香苗さんです。……香苗さんは何も残さなかったんじゃない。残しています。愛という形で日下さんの心に生き続けているじゃないですか」
自分の袖でごしごしと涙を拭い、私は勇気を振り絞るため拳を固く握った。
「本当に大事なものは目には見えないものなんです。人を愛するという気持ちは目には見えませんよね。見えないけれど、日下さんの心には存在している。香苗さんを愛しているという気持ちが確かに存在しているんです。香苗さんも日下さんを愛していた。それは悪いことですか?悪いことじゃないですよね。私は日下さんが好きだし、日下さんにも私を好きになってもらいたい。だけどそれは香苗さんを忘れてほしいと思っているわけではないです。日下さんの心の中に香苗さんがいても問題ありません。香苗さんを愛していても問題ありません。ただ、それに囚われずに私という人間を見てほしいだけなんです。ただ、それだけです。だから、日下さんが私を見てくれるまで、もうエッチしません。もう流されたりしません。私は日下さんが好きだから、間違った恋愛は今日でおしまいにします」
私は高らかに宣言し、カバンを拾い上げて逃げるようにその場を去った。
「芽生、泣いてるの?」
「……」
悔しい。
セフレにはならないと言っておきながら流されてしまった。こんなのセフレと一緒だ。
だって、好きな人に求められたら嬉しい。その気持ちが自分の抑止力より勝ってしまう。でも日下さんは私じゃなくて香苗さんを見てる。
悔しい。
悔しくてたまらない。
「ごめん、芽生」
日下さんは私の頬に手を伸ばしたが、私は反射的にそれを払いのけた。
「謝るくらいならしないでください。私は好きだから受け入れたまでです。だけど……日下さんの中には私はいない。私を見てないです。日下さんの中にいるのは香苗さんです。……香苗さんは何も残さなかったんじゃない。残しています。愛という形で日下さんの心に生き続けているじゃないですか」
自分の袖でごしごしと涙を拭い、私は勇気を振り絞るため拳を固く握った。
「本当に大事なものは目には見えないものなんです。人を愛するという気持ちは目には見えませんよね。見えないけれど、日下さんの心には存在している。香苗さんを愛しているという気持ちが確かに存在しているんです。香苗さんも日下さんを愛していた。それは悪いことですか?悪いことじゃないですよね。私は日下さんが好きだし、日下さんにも私を好きになってもらいたい。だけどそれは香苗さんを忘れてほしいと思っているわけではないです。日下さんの心の中に香苗さんがいても問題ありません。香苗さんを愛していても問題ありません。ただ、それに囚われずに私という人間を見てほしいだけなんです。ただ、それだけです。だから、日下さんが私を見てくれるまで、もうエッチしません。もう流されたりしません。私は日下さんが好きだから、間違った恋愛は今日でおしまいにします」
私は高らかに宣言し、カバンを拾い上げて逃げるようにその場を去った。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる