傘使いの過ごす日々

あたりめ

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無知ほど怖いものはない

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日は既に沈みつつある。
沈む夕日の反対からは徐々に暗闇が覆いに来ている。

今静也は宿を見つけるのに苦労している。
方向もわからない、いやわかるにはわかるのだが、ここは異世界、本当に太陽が昇る方が東かも危ういので安易に東はあっちだとはしゃいではいけないと思ったのだろう。
東は確かに日が昇る方であるが。

このとき静也は来た道をずっとぐるぐる回っていたいた。
ここでやっと同じ道を回っていることに気づいた。
静也は組合に入り、宿の場所を教えてもらいに行った。
目指すはあの美人の受付嬢のいたところである。

「あの、宿の場所を教えてほしいんですが…」

受付嬢が変わっていた。
美人から可愛いになっている程度だ。

「近くの宿なら入り口を出て右に真っ直ぐ行くと一際目立つ建物があります。そこの宿が一番近いですし結構お手頃価格ですよ。」

と親切に教えて貰えた。
ついでに名前も教えて貰うことにした。

「ありがとうございます。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、私は『サラ』です。よろしくお願いしますね。シズヤさん。」

自分の名前を教えてないのに自分の名前を呼ばれたのが不思議に思ったので聞いてみた。

「あれ?名前を言った気がないんですが…」
「あのダン試験官に合格と言わせた超新星だって有名ですよ?」
「初耳ですよ…わざとゆっくり動いていたんじゃないんですか?」

そういうと、驚いた顔をされた。

「ゆっくりに見えたんですか?!」
「そういう試験じゃないんですか?」
「どういう試験ですか?!まさかここまでだとは…あの失礼を承知ながら一体どのようなスキルをお持ちなんですか?」

スキルを確認できることを始めて知った瞬間だった。

「スキルってのを確認する術が無いのでわからないのですが」
「嘘ですよね?!成人したら教会で儀式を行って貰い『自己開示』が出来るはずなんですが…」
「その儀式をやってないんです…」

そういうとサラはあんぐりしていた。
正に開いた口が塞がらないとはこの事だ。

「わかりました。明日の朝私と一緒に教会へ行きましょう。」
「そうしたいんですが、今日ギルドカードを発行したので講習を受けないと…」.
「そうでしたね。でしたら終わってから行きましょう」
「ええ、そちらに不都合がなければご一緒してください。」

そう言ってから別れ、宿へと向かう。


組合を出て右に真っ直ぐ行くと確かに目立つ建物がそこにあった。
二階建ての建物だ。宿の入り口に吊り下げられている看板にはお洒落なマークの花と月、そして宿の名前『月見草』。

扉の丸い持ち手をひねると扉を開け中に入る。
中はとてもそれっぽい雰囲気を漂わせている。
落ち着いた雰囲気だ。
目の前には男性受付がいる。
その人に宿を一泊させてもらおうと話しかけることにした。

「今日一泊したいんですが部屋空いてますか?」
「一階の三番目、四番目、五番目と二階の四番目が空いてますよ。」
「なら、一階の四番目にします。料金はいくらですか?」
「一泊60ルターです。」

この世界のお金の呼び方は『ルター』か。確か前世でビジネスホテルは大体6000円位したから、1ルターあたり100円ってところか?それとも宿代が安いのか?それともこっちの世界なら当たり前なのか?もうわかんねぇや。今の所持金は?

もはや考えるのをやめた。
手持ちの硬貨を出すがどれが何ルターなのかも分からないので、手持ちの硬貨をぶちまけて、「これで泊まれるだけ頼みます」と受付の人に察してと言わんばかりの笑みを向けその場を通した。
受付の人は「い、一泊でしたね…ではお釣りです…」とひきつった笑顔を見せた。
すいませんと心のなかで一生懸命謝っていたのは語るまでもない。


部屋に入るとすぐさまベットに直立状態のまま飛び込んだ。
うつ伏せになり、枕に顔を埋めながらあることを思った。

無知って怖い…と。
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