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20巻
20-1
1
三年生の先輩たちが卒業して、俺――フィル・グレスハートが通うステア王立学校は夏休みに入った。
ステア王立学校の夏休みは、一ヶ月と少し。
充分な休暇のように思えるが、実際は違う。
グレスハート王国の第三王子でありながら、普段は鉱石屋の息子、フィル・テイラとしてステア王国に留学している俺のような生徒にとって、一ヶ月と少しはやや短い。
帰省を考える場合は、移動日数込みで予定を立てなければならないからだ。
近い国ならいいけど、人によっては行き帰りで一、二週間もかかる留学生もいるしなぁ。
移動にそれだけかかるって、結構大変だよね。
そういった生徒の中には、帰省せずに寮に残る者も多い。
俺も去年に引き続き、グレスハートには帰省しないことにした。
飛獣とも呼ばれるウォルガーのルリを召喚獣にしているので、空を飛んでビューンと帰ることはできる。
でも、今年は友人のレイとトーマとライラ、幼馴染みであるアリスや従者のカイルと一緒に過ごすつもりだった。
しかも、隣国のティリア王国にいるステラ姉さんの別荘を拠点とし、いろいろと出かける予定なのである。
冬休みに帰省した時に実家の父さんにはこの夏の予定を伝えておいたから、すぐに許可は下りた。
まぁ、『友人との夏休みを楽しめ』という言葉と共に『ただし、楽しいからといって羽目を外すことがないように』との忠告も付いてきたけれど。
本当に心配症なんだから。
今だって、ちゃんと学生としての本分を忘れず、真面目に夏休みの宿題をやっているというのに。
そう。帰省する生徒たちが出立した中、俺たちはまだステア王立学校に留まっていた。
レイの「休みを思いっきり楽しむために、夏休みの初めにできるだけ宿題を終わらせちゃおうぜ!」という提案に、皆が賛成したのだ。
そして今、寮の裏の森の中にある小屋に集まり、俺たちは宿題をしている。
よし、ようやく目標達成表を書き終えたぞ。
課題の一つである目標達成表は、夏休み中にやりたいこと、頑張りたいことなどをリストに書き出し、最終日にどれだけ達成できたかを記入するというものだ。
自分なりに『簡単』『普通』『難しい』の三つにレベル分けし、それぞれ五個ずつ考えなくてはならない。
普段できないことを目標にしたら、『召喚獣のお世話をする』とか、『動物をモフモフする』とか、『新しい動物を見つける』とか、『何も考えずのんびり過ごす時間を作る』とか、願望が詰まった目標になっちゃった。でも、達成できたらいいなぁ。
俺が目標達成表を見つめていると、それを覗き込んだカイルが、不安そうな顔で俺に尋ねる。
「これは……達成できますかね?」
そう言って指さしたのは、俺の目標である『事件に巻き込まれない』だ。
「できるよ。……た、多分」
もごもごと返す俺を、カイルは疑わしげな目で見てくる。
うぅ、し、視線が痛い。
自信を持って答えたいけど、こればっかりはわからないんだよ。
だって、いつの間にかトラブルに巻き込まれているんだもん。
その自覚があるからこそ、達成難易度も『難しい』にしている。
「ほ、本当に大丈夫。今年の夏休みは、皆と一緒だからね。事件に巻き込まれないよう、特に気をつけようと思ってるよ」
安心させようと、俺はにっこりと笑ってみせる。
しかし、それが余計にカイルの不安を煽ったようだ。
カイルは意を決した顔で、自分の目標達成表にカリカリと書き込み始めた。
すでに『簡単』『普通』『難しい』の項目は埋まっているようなのに、いったい何を付け加えるのだろう。
俺が首を傾げていると、カイルは書き終えた目標達成表を突き出した。
「俺も目標に『フィル様が事件に巻き込まれないようにする』と追加しました!」
書かれている内容を確認して、俺は慌てる。
「本当だ、追加してるっ! しかも、『非常に難しい』って項目を新しく作ったの!?」
驚愕していると、カイルは悲しそうな顔で頷いた。
「はい。『難しい』の区分では、達成できそうになかったので」
だからって、わざわざ項目を作らなくたっていいのに……。
「僕に関する目標じゃなくて、自分の目標を書こうよ」
説得するが、カイルは首を大きく横に振った。
「いえ、フィル様を事件に関わらせないこと。これは従者としての俺の永遠の目標なんです。いつも達成できないので、今回の夏休みこそ達成させたいんです!」
そう言って、グッと力強く拳を握る。
カイルの姿や表情からは、今までの悔しさがにじみ出ていた。
「い、いつも達成させてあげられなくて、悪いと思ってるよ」
わざとではないんだが、申し訳ない気持ちになる。
すると、俺とカイルの会話を聞いていたのか、トーマはのほほんと笑って言う。
「フィルは困っている人がいると、放っておけない性格だもんね。夏休みは、困っている人に出会わないといいねぇ」
その言い方はやめて、フラグ立っちゃうから。
うーむ、トラブル退散のお祓いが必要かな。それとも、困っている人が現れないように祈っとく?
俺がそんなことを考えていると、カイルがふと窓を振り返った。
「二人、訪問者が来たようですね」
蝙蝠の獣人であるカイルは、人の気配をいち早く察したようだ。
「お客様?」
首を傾げる俺に、カイルは気配を窺いながら答える。
「殺気は感じられないので、客人だと思います」
いったい誰だろう。
小屋で宿題をしていることは、寮母さんに伝えてある。
帰省せずに残った同級生が、一緒に宿題をするためにやって来たのかな。
レイは窓に視線を向け、少し眉根を寄せた。
「さっそく困っている誰かが、フィルに助けを求めに来た……とか?」
タイミングがタイミングなだけに、なんかそんな気がしちゃうよね。
「とりあえず、お出迎えしてくるよ」
敷地の塀にある扉に鍵をかけてきちゃったから、来客は入ってこられないんだよね。
俺とカイルは居間を出て、小屋の外へ向かった。
塀に到着したのと同時に、呼び鈴がカランコロンと鳴る。
「はぁーい! 今開けます!」
俺は返事をして、開錠した扉を開ける。
そこには、鉱石学担当教諭のシエナ先生と、ライオネル・デュラント先輩が立っていた。
デュラント先輩はステア王国の第三王子で、夏休みが明けたらステア王立学校の高等部一年生になる。先日中等部を卒業したあとは、中等部男子寮を退寮し、現在はステア王城に帰省していた。
「こんにちは。急に来てごめんね。しかも、学校訪問のついでにシエナ先生に挨拶しに行ったら、『一緒に行く』ってついてきちゃって」
申し訳なさそうなデュラント先輩に、俺は首を横に振る。
「いえ、歓迎します」
でも、シエナ先生がくっついてくるなんて珍しいな。
シエナ先生は普段、鉱石学の教務担当室に引きこもっていることが多い。
自分の部屋で、大好きな鉱石の研究をずっとしていたいみたいなんだよね。
それもあって、教師の仕事を引き受ける際、教務担当室の隣の部屋を自宅として購入するという条件を出したほどだ。
校舎を出るのは、学校敷地内にあるステア王立学校図書館か、学会のために他国へ行く時くらいじゃないかな。
それくらい、研究に関すること以外で滅多に出歩かない人なんだ。
もしかして、何か困りごと?
俺の頭に、さっきレイが言っていた『さっそく困っている誰かが、フィルに助けを求めに来た』という言葉が浮かぶ。
い……いやいや、そうとも限らないよね。
そう考えて、俺は二人に向かって微笑んだ。
「まずは、お茶を用意しますから、どうぞ中へ」
二人を敷地内に招き入れ、小屋へ案内する。
小屋の扉を開けると、レイたちが横一列に並んで待っていた。
皆は声を揃えて、二人に挨拶する。
「「「「いらっしゃいませ」」」」
窓から誰が来たか確認し、出迎える準備をしていたのだろう。
「さぁ、どうぞどうぞ!」
レイはそう言いながら、居間のソファを手のひらで指し示す。
先程までテーブルに広げられていた宿題や本は、部屋の隅にある棚の上にまとめられていた。
お客様が来るからと、急いで片づけてくれたらしい。
レイがソファにクッションを置き、そこにシエナ先生たちを案内する。
少し遅れてアリスとライラが全員分の飲み物を、トーマがお茶菓子のクッキーを持ってきた。
準備する時間はろくになかったのに、連携がすごいな。
デュラント先輩は俺たちの顔を見回して、にこっと笑う。
「突然の訪問なのに、もてなしてくれてありがとう。寮母さんから宿題をしていると聞いたよ。邪魔をして申し訳なかったね」
デュラント先輩の言葉に、俺たちは「いえいえ」と揃って首を振る。
「大丈夫です。宿題はだいたい終わっていますから。それで、今日は僕たちに何か用事があっていらしたんですか?」
俺が尋ねると、デュラント先輩は懐から白い封筒を取り出し、それを差し出した。
「フィル君とカイル君に、これを届けに来たんだ」
手紙には赤い蝋で封がされている。そこには、とある印章がはっきり刻まれていた。
三つの頭がある鳥、ステア王国に伝わる伝説の鳥であるアルメテロスのマークだ。
ステア王立学校の校章にもアルメテロスが使われているが、この印章は装飾がもっと細かい。
これ、ステア王室のマークだ。
……ということは、ステア王室から俺とカイルに宛てた手紙!?
俺は封筒を受け取って、カイルと顔を見合わせる。
恐る恐る封を切り、中に入っている紙を取り出した。
送り主は、ステア王国テレーズ女王陛下――デュラント先輩のお祖母さんからだ。
手紙には、秘薬のレシピ入手に力を貸したことへの感謝が綴られていた。
この秘薬というのは、伝説の鳥アルメテロスから伝承された特別な薬のこと。
デュラント先輩は体調を崩しやすく、運動ができないほど体が弱い。
ステアの王族の中には、デュラント先輩のような体質の方が、時々いらっしゃるのだという。
そんな王家の助けとなっていたのが、アルメテロスが授けた秘薬のレシピだった。
おかげでデュラント先輩のご先祖様は体質を改善し、健康に過ごしていたそうなんだよね。
秘薬のレシピはステア王家にとって、特別で大事なもの。
しかし、厳重に保管されていたものの、何代か前に火事で焼けてしまったらしい。
秘薬以外の体質改善の手立てを探していたデュラント先輩だが、有力な手段を見つけることができなかった。
グレスハート王国のマクリナ茶を飲んでもらっているけれど、風邪などを予防する効果はあっても、残念ながら体質改善には至らないもんなぁ。
それで、デュラント先輩はアルメテロスからもう一度、秘薬のレシピを教えてもらうことができないかと考え始めたみたいなんだよね。
実在するかもわからない伝説の鳥を探すくらいなんだから、藁にも縋る思いだったのだろう。
その話を聞いた俺は、アルメテロス探しを手伝おうと決めたのだ。
デュラント先輩が見当をつけたアルメテロスの棲処は、アルメティ神殿の最深部。
そこは、精霊にしか開けることができない特別な扉があり、数百年もの間、閉ざされていた。
今は昔に比べて、精霊の数も減少している。精霊のヒスイと召喚契約をしている俺がお手伝いしなかったら、扉を開けることはできないだろう。
俺は動物と直接会話ができるから、アルメテロスと会えた時もお役に立てると思ったしね。
それで、マクベアー先輩とデュラント先輩、デュラント先輩のお兄さんのセオドア殿下と一緒に、俺とカイルはアルメティ神殿へ行ったのだった。
実際にアルメテロスと出会えた時は、驚嘆したなぁ。
だって、数百年前に姿を隠してから、目撃情報が一切なかったんだよ。
アルメティ神殿にいると探り当てたデュラント先輩は、本当にすごいと思う。
こうして、俺たちは秘薬のレシピを無事に教えてもらうことができたんだ。
「先日の探索では、フィル君やカイル君にとてもお世話になったから、お祖母様は直接お礼を伝えたいらしくてね。城に招待したいそうなんだ」
デュラント先輩はそう言って、優しく微笑む。
レイとトーマとアリスとライラは、「うわぁ!」「すごい!」と感嘆の声を上げた。
ステアの王城を見学したいと思っていたから、正直嬉しい。
でも、女王陛下直々にお礼を言われるだなんて、恐縮してしまう。
カイルは困った顔で、デュラント先輩に言う。
「フィル様はともかく、俺は同行しただけで、あまりお役に立てなかったと思うんですが……」
その言葉に、デュラント先輩は笑みを深めた。
「そんなことないよ。カイル君は私を励まし、力になってくれた。君がいてくれて心強かったよ」
デュラント先輩が、俺とカイルの顔を窺う。
「君たちが来る日は、マクベアーも呼ぶから気負う必要はない。堅苦しく考えずに、来てくれないかな?」
そう言って、不安そうに俺たちを見つめた。
うぅ、その表情はずるい。
レシピ入手後に、デュラント先輩とセオドア殿下からたくさんお礼を言われた。
女王陛下からこうして感謝の手紙もいただいたし、正直、これ以上のお礼は必要ないと思っている。
だけど、そんな顔でお願いをされたら、断れないよぉ。
俺はカイルと視線を交わし、それからデュラント先輩に向き直って頷いた。
「わかりました。伺わせていただきます」
「よろしくお願いいたします」
俺とカイルが頭を下げると、デュラント先輩は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「よかった。お祖母様はもちろん、両親や兄達も、君たちに会うのを楽しみにしているんだ」
「え‼ ご家族の方々も同席されるんですか?」
女王陛下だけじゃなくて、ステア王家の皆さんが勢揃い!?
デュラント先輩はコクリと頷く。
「うん。皆、感謝を伝えたいって。あれ? 手紙に書いてない?」
俺が慌てて、手紙を再確認すると、最後のところに『会える日を、皆も楽しみにしています』と書いてあった。
み、見落としてた……。
ステア王家勢揃いか、さらにハードル上がるな。だけど、今さら断れないよね。
もしかして、手紙には書くことのできない、アルメテロスの件で相談があるのかもしれないし。
ステア王国の伝説の鳥アルメテロスが実在していたことは、世間に公表されていない。
アルメテロスの存在や居場所は、探索でアルメテロスと会った俺たちと、ステア王家の方々だけの秘密となっている。
もちろん、レイたちやシエナ先生にも話していない。
レイたちに話したのは「デュラント先輩の体質を改善する薬の材料探しを、俺とカイルで手伝った」ということだけ。シエナ先生にも、デュラント先輩がそう説明したはずだ。
ステア王家の秘薬に関する案件だし、何よりアルメテロスがひっそり暮らしたいと望んでいるからね。
伝説の鳥が実在するとわかれば、アルメテロスは平穏な生活を送れなくなるもん。
ステア王家の恩人に対して、恩を仇で返すような真似はできない。
だから、アルメテロスに会いに行けるのは、存在を知った人間たちだけってことになっているんだ。
動物好きなトーマに教えてあげられないのは、ちょっと可哀想だけどね。
シエナ先生は……絶対に教えちゃいけない気がする。探究心の塊であるこの人に教えたら最後、アルメテロスのところに日参して、質問攻めにするかもしれないからなぁ。
そんなことを思いながらシエナ先生を見ると、クッキーを摘まんでいた彼女と目が合う。
「なんだ?」
やば、気づかれた。
なんだって聞かれても、考えていた内容を正直に口にするわけにもいかない。
俺は別の質問で誤魔化すことにした。
「あ、いえ、その……シエナ先生は、デュラント先輩のご家族にお会いされたことはあるのかなと思って」
俺自身は、テレーズ女王陛下とデュラント先輩のお父さんのマイラス皇太子、長兄のセオドア殿下にはお会いしたことがある。
だけど、デュラント先輩のお母さんのアンヌ皇太子妃と、二番目のお兄さんのイグナシス殿下にはまだなんだよね。
シエナ先生は教師になる前、体の弱いデュラント先輩の話し相手としてステア王室に招かれていたというから、その時にご家族と顔を合わせているのかな?
この推測は当たっていたようで、シエナ先生はクッキーを口に入れて頷いた。
「あるぞ。ステアの王族は皆、学問を愛し、探究心に溢れているから、話をしていて面白い。特にテレーズ女王陛下は博識で、ご自身の立場に囚われず、誰からでも学ぼうとする謙虚な姿勢を持っていらっしゃる素晴らしい方だ」
シエナ先生がこんなに人を褒めるなんて……。
正直、驚いた。シエナ先生って、好きな人と嫌いな人の区別がはっきりしているタイプなんだよね。
それだけ、テレーズ女王陛下は素晴らしいお人柄なのか。
シエナ先生の言葉に、デュラント先輩も少し驚いたようだ。
「そんなふうに思っていてくださるとは知りませんでした」
すると、シエナ先生はちょっと眉根を寄せた。
「私だって、誰かを尊敬する心くらいはある。テレーズ女王陛下は、私のライオネルへの接し方を咎めることもなく、教員になるための条件も全て呑んでくださった。ああいった心の広い方は、なかなかいない」
デュラント先輩は懐かしそうに目を細める。
「私がシエナ先生を教員に迎えるために交渉した時の、あの条件ですね」
任期は五年。学校の一室を、自宅として買い取る。
学校行事や催事には参加しない。教員としての雑務もしない。
授業以外の時間は、研究にあてさせること。
授業内容についての指図や文句は受けつけない……だっけ。
「ライオネルは私が提示した条件を全て呑むと言ったが、テレーズ女王陛下が許可すると思っていなくてな」
ため息を吐くシエナ先生に、レイは言う。
「無茶な条件を出した自覚は、あったんですね」
シエナ先生はジロッとレイを睨む。
「前にも言っただろう。ガキ共はうるさいし、教員などになれば面倒も多い。研究が滞るなんてまっぴらだったからな。難しい条件を出せば、いくら可愛い孫の頼みでも女王陛下が断ると思ったんだ」
肩をすくめるシエナ先生に、デュラント先輩がくすっと笑う。
「愛情深い祖母ですが、私情を挟む方ではありませんよ。シエナ先生の鉱石の知識は、ステア王立学校の生徒たちに必要なものだと思われたのでしょう」
シエナ先生の鉱石学知識は、この世界でもトップレベルだもんなぁ。
俺たちがこうして最新の鉱石学が学べるのは、デュラント先輩とテレーズ女王陛下のおかげということか。
お城に行ってテレーズ女王陛下に会ったら、俺も感謝を伝えよう。
そんなことを思いながら、招待状に視線を落とす。
内容にもう一度目を通して、それからデュラント先輩に尋ねた。
「デュラント先輩、この手紙には日付が記載されていないみたいなのですが。いつ伺えばいいのでしょうか?」
俺が聞くと、デュラント先輩は微笑む。
「お祖母様は『いつでもいい』とおっしゃっていたよ。フィル君とカイル君とマクベアーの都合のいい日で構わない」
いつでもいいって、一番困るな。
学生の俺たちよりも、公務があるステア王族の皆さんのほうがお忙しいのだろうし。
ん~、俺とカイルはステアを出立したら、夏休みが終わるギリギリまでティリアに滞在するつもりなんだよね。
マクベアー先輩の予定はどうなんだろう。
長期休みの時、マクベアー先輩はいつも、他国で開催される剣術大会に出場していた。
しかも、一つだけじゃなくて、いくつも。
彼の予定によっては、早めにステアに戻ってきたほうがいいのかな。
「マクベアー先輩は今年、どの剣術大会に出場するんだろう」
俺の独り言が聞こえたのか、デュラント先輩が教えてくれる。
「今年は夏休み後半にある、ドルガドの剣術大会成年の部一つだけみたいだよ」
「え、一つだけですか?」
「毎年、いくつも参加されてますよね?」
驚く俺とカイルに、デュラント先輩は苦笑する。
「このあたりの大会は、ほとんど殿堂入りしてしまったらしい。連続で優勝していたからね」
「殿堂入り!?」
俺は目を大きく見開いた。
同年代ではライバルがいないから、数年前から成年の部に出場していると聞いていたのに。
まさか、成年の部でも殿堂入りしてしまうとは。
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