幸せの翼

悠月かな(ゆづきかな)

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視線の正体

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翌朝、私は神殿の前で掲示板を立てていた。



○植樹協力者募集

期日 : 一週間後の朝食後
場所 : 花畑後方の草原
ツリーハウス建築の為、相当数の植樹が必要
多数の協力求む

ラフィ、ブランカ、サビィ




私は、これを目につくように目線の高さに立てた。

「これは美しくない…」

掲示板は、マレンジュリの材木で作った。
微かに、マレンジュリの甘く爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
しかし…美しくはない。
材木を組み合わせただけの掲示板。

「もう少し手を加えるか…」

私は、自分の翼から羽を数本抜くと息を吹きかけた。
羽は雪へと姿を変え、掲示板に降り積もる。
続いて足元にある石を数個拾うと、上空へと放り投げパチンと指を鳴らす。
石は細かく砕け色とりどりの細石となり、掲示板に降り積もった雪の上に落ちていく。

「さてと、最後の仕上げだ…」

私は、雪に優しく息を吹きかける。

「これで、雪は溶けないはずだ」

白い雪と色とりどりのさざれ石が、キラキラと輝いている掲示板が出来上がった。

「サビィ…凄く綺麗な掲示板ね…」

背後から溜め息混じりの声が聞こえる。
振り返ると、ブランカがうっとりと掲示板を見ていた。

「さすがサビィだわ。これなら皆が掲示板を見てくれるわね」
「なるべく目につくように立てたつもりだが…」
「ええ、これなら目立つわ。協力者がたくさん集まってくれると良いわね」

ブランカはニッコリと笑った。

「ああ、そうだな」

笑顔で答えたその時、私はまたあの視線を感じた。

(また、この視線…ねっとりと絡みつくような視線…)

「あら?イルファスじゃない?」

ブランカの目線に目をやると、イルファスが立っていた。

(イルファス…あの視線は…まさか…彼女なのか…?)

「花畑の裏手に植樹をするの?」

イルファスが、掲示板に目を向けながら問い掛ける。

「ええ。そうなのよ。あなたも良かったら手伝ってくれないかしら?」
「そうね…どうしようかしら…」

イルファスは考えながら、私をジッと見た。
その視線に私はなぜか背筋が冷たくなり、一歩後退りしてしまった。

「サビィ、イルファスにも手伝って貰いたいわよね?」
「あ…ああ。たくさんの天使の力が必要だ」

すると、イルファスはパーッと目を輝かせ身を乗り出してきた。

「サビィ様の力になれるのなら、喜んで手伝います!」

あまりの気迫に圧倒され、私は更に後退する。

「そ…それは、助かる。感謝する」
「サビィ様の手助けができて光栄です!」

イルファスは、どんどん私に迫ってくる。
なぜ、こんなにも迫ってくるのか?
私はたじろぎながら、彼女との距離を取る為に必死に後退し続けた。
その時、ブランカが声を上げる。

「あっ!そうだわ!これから、また話し合わないといけなかったのよ。ね!サビィ?」

ブランカが私に目配せをしている。
見かねた彼女が、助け舟を出してくれているようだ。

「そうだった。すまない、イルファス。今からラフィの部屋で話し合いなのだ。失礼する」
「イルファス、またね」

私はブランカと共に、その場を急いで離れた。
背後にイルファスの視線を感じながら、ラフィの部屋へと向かう。

私はこの時は知らなかった。
イルファスが憎悪に満ちた目でブランカを睨んでいる事に…
私は、ただただ彼女のねっとりと絡みつくような視線から逃れる為に必死だった。


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